第一章 『勇者』と『聖女』?3

「……は?姉の方が『勇者』で、弟が『聖女』?」


 王都から迎えに来た騎士達は、目の前の子供達に首を傾げる。


 ーー可愛い顔してるけど、弟って言ったぞ?


 ーー弟って、男だよな?男なのに、『聖女』?え?ふざけてんのか?


 騎士達の心中はこんな感じである。

 しかし、同行していた神官がやはり同じ結果を口にすると、


 ーー は?『聖女』の性別って、何なの?


 と、全員が混乱したのである。


 なにはともあれ、騎士達は二人を連れて、王都に戻らなければならないのだ。

 何となく心の中にモヤモヤしたものを抱えつつ、一行は王都へと旅立った。


 道中、二人を相手にしていた神官は、二人とも《回復》ばかりか《範囲回復》が使えることに驚いた。

 面白がった一部の騎士達も、二人に剣の手ほどきをしたところ、やはりこちらも二人とも《剣さばき》を持っていることに気づき、


 ーーえ?こいつら、どうなってんの??


 と、頭を悩ますことになった。


 王都までもう少しという所で、暗黒熊ブラックベアに遭遇した。

 一匹程度なら騎士達だけで、倒せるランクなのだが、運の悪いことに相手は三匹。親子の様だった。

 さらに子育て中の暗黒熊ブラックベアは、いつもより獰猛さが増す。

 とりあえず、子供達は神官と共に後ろに…と、隊長は指示を出そうとしたのだが、


「えーい!」


 持っていた剣に風魔法を付与し、レオノーラが親熊を一刀のもとに斬撃で斬り殺した。


『はああぁぁぁっ!?』


 騎士達はあまりの事に、あんぐりと大口を開いてしまった。


「行きます!《炎弾ファイアボール》!!」


 神官の隣では、でエレオノールが火魔法を放ち、二匹の小熊を消し炭に変えてしまった。


『………………』


 自分達でも倒せるかどうか怪しい三匹を、たった二人の子供があっさりと退治してしまったのである。


 ーー怖……。この双子、怖っ!!


 キャッキャッ、キャッキャッと、飛び跳ねて喜ぶ双子を見ながら、一行はドン引きしていた。


「隊長さん。これ、解体するの?」


 無事だった親熊を指差し、レオノーラが尋ねてくる。

 瞳は好奇心でキラキラしていた。


「……あー。そうだな、解体するか…」


 そうして、解体を始めた騎士達の側で、双子は熱心にその手元を眺めていた。


「よーく見とけよ。この肝の所は薬に使えるから、いい状態だと買取価格が上がるんだ」


 解体作業で落ち着いたのか、騎士達は双子にいつも通りに話し出した。


「何の薬になるの?」


 エレオノールが尋ねる。


「そうだな。滋養強壮剤とかかな?」


「ふうん…」


 レオノーラは毛皮の剥ぎ方を見ていた。


「首が繋がってりゃ、敷物とかで高値で売れるんだ。これもほとんど傷がないから、毛皮とかで高値で買い取ってもらえると思うぞ♪」


「じゃあ、心臓を一突きで殺しちゃえばいいのかな?」


「そうだな。でも、それは熟練の騎士や冒険者じゃないと難しいだろうなぁ…」


「ふうん…」


 騎士達は気づいていなかった。

 双子が自分達の言葉で、次からはどう倒すかを考えていたことにーーーー。


「つまり、内蔵をなるべく傷めずに、毛皮も傷つけないように倒せば、お金になるってことだよね?」


「魔物毎に必要な部位が違うから、魔物毎にやり方変えなきゃダメだよね?」


 夜、二人はテントの中で愉しげにそう語っていた。


「…………」


 同じテントの中。ゆっくり休もうと横になっていた神官は、聞こえてくる話の内容に、全然休めなくなったのであったーーーー。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る