第一章『勇者』と《聖女》?2

 とある田舎の村に双子の姉弟が誕生したのは、今から七年前のことである。


 黒髪に青い瞳の姉の名前はレオノーラ。

 金髪に翠の瞳の弟の名前はエレオノール。

 愛らしい双子は愛想もよく、見目もよく。明るい性格で、周りから可愛がられていた。


「ノーラ、待って!!」


「ノール、遅いよーっ!!」


 今日も元気に村中を駆け回る二人の声が、村人達を笑顔にしている。


「神官様、こんにちはー」


 レオノーラが教会前で信者と話していた神官に声をかけながら走り抜けていく。


「はい、こんにちは。ノーラ、ノール」


「こんにちは、神官様。明日、よろしくお願いします!」


 姉の後を追いながら、エレオノールも挨拶を返していく。


 明日は二人の〖職業鑑定の日〗。教会で神官に自分達の適正職業を確かめてもらう大事な日なのだ。


「ねえ、ノーラ。ノーラは何だと思う?」


 いつもの原っぱに辿り着き、いつものように二人で木に登ると、エレオノールが尋ねた。


「わたしは絶対に『勇者』って決まってるもの♪」


「ノーラは女の子なんだから、『聖女』じゃないかな?回復ヒール使えるし…」


回復ヒールなら、ノールだって使えるでしょ!しかも範囲回復エリアヒールだって使えるじゃないっ!」


「それ、ノーラも使えるよね?ぼくは『剣士』がいあなぁ…」


「《剣さばき》持ってるもんね、わたし達」


 レオノーラは、ヒョイと手を伸ばして木の実を取った。


「でも『勇者』も『聖女』も、何するんだろうね?『魔王』と戦うわけでもないだろ?」


「『魔王』は、魔族を治める職業でしょ?人族とも仲が悪いわけじゃないし、寧ろ仲良しだもんね」


 手にした木の実を半分にして、エレオノールと分ける。


「せいぜい、パーティ組んで魔物退治ってとこだよね?」


「ダンジョンの探索が主な仕事だっけ?」


「《冒険者》と変わんないような気もするよね」


「ほんとだね。あー。明日、楽しみだねぇ…」


 双子はのんびりと会話を交わしながら、明日を楽しみに過ごしたーーーー。



 ※※※※※※※※


「それでは、誰から調べようかね?」


 待ちに待った〖職業鑑定の日〗。両親と共に教会を訪れたレオノーラとエレオノール。

 周りには自分達以外の子供達もいた。

 みんな、どんな職業になれるのか、期待に顔を輝かせていた。


「やった!『料理人』だー!!」


 酒場の息子のトールは、飛び上がって喜んでいた。


「うわぁ…。『会計士』だって…」


 実家が商会のレイモンドは『商人』では無いことに落ち込んでいる。

 そうして、色んな喜怒哀楽を浮かべた子供達が終わり、残すは双子のみとなった。


「先にしてもらうね、ノール♪」


 そう言って、レオノーラが神官の前に立った。

 神官は水晶を両手に掲げ、レオノーラの頭上へと近づけ、呪文を唱えた。

 キラキラと光りながら、水晶の中に職業の文字が浮かび上がる。


「レオノーラの職業は…」


 その文字を告げようとした神官は、目をパチパチと瞬かせた。


「神官様?」


「これは…」


 首を傾げたレオノーラが神官を見上げる。


「これは…、『勇者』。レオノーラの職業は『勇者』です!」


 叫んだ神官の言葉に、周りの住人がドッと様々な声を上げた。


「よっし!『勇者』だーっ!!」


 レオノーラはピョンピョンと、その場ではしゃいで飛び回った。


「すごいよ、ノーラ!本当に『勇者』だなんて…」


「ありがとう、ノール。次はノールの番だよ♪」


 入れ替わったエレオノールに、神官は息を整え、再び儀式を行った。


「………は?」


 浮かんだ文字に神官が口をポカンと開けた。


「?」


 エレオノールの頭上から水晶を離し、再び繰り返す。


「……はあぁ!?」


 今度は変な声を出す。


「し、神官様?ぼくの職業はないんですか?」


 不安になったエレオノールは、涙目で尋ねた。


「いや、ちゃんとある。あるのだが、これは…」


『…………』


 神官の言葉を聞き逃さないように、周囲はしんと静まり返った。


「……エレオノールの職業は…」


「ぼくの職業は?」


「……『聖女』…」


『はい?』


 ポツリと呟いたその言葉に、全員が聞き返した。


「~~っ!!エレオノールの職業は『』となっている!!」


 そう叫ぶなり、神官は後ろに倒れた。


「神官様っ!!」


 慌てて駆け寄る大人達。そして、茫然とする子供達。


「…『聖女』?でも、ぼく。男なんだけど?」


『聖者』でなく『聖女』。


 この事はすぐ隣の村の教会にも伝わり、そこの神官が調べた結果も『聖女』。

 とにかく規則で『勇者』や『聖女』が現れた場合は、教会本部と王家に知らせるようになっているため、その通りに知らされたのであるーーーー。


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