第十二話『酒場の依頼掲示板』


 光るタグを下げながら少女はミローナの腕の中で街を見ていた。

 ミローナには目的地があるのか、迷わずに総物区を抜け、町民区に戻る。

 そのまま少女の見たことのない道を抜けるととある酒場兼宿屋の前に止まった。


「ここは?」


「ここは私たちのパーティーが止まってる宿兼酒場の、『依頼酒場兼宿屋アシュタイン』よ!」


 なぜかドヤ顔のミローナは少女を抱えたまま宿屋に入る。

 一階は酒場と宿屋の受付のようで、並べられたテーブルに十数組の客がついていた。

 入店したミローナを一瞬見るが、すぐに視線を外し仲間との話に戻る。


「師匠!こちらです!」


 バンカーがカウンターに近い席で手を上げ、ミローナを呼んだ。

 サッとその席に座るとミローナは少女を抱えたまま、蜂蜜酒を頼んだ。


「タグを見る限り、しっかり登録できたようですね。」


「バンカーの一筆が効いたのね」


「師匠の人望ですよ」


「(うーん、ファンタジー酒場って感じ…ん?あの掲示板は?)」


 救助隊一行が雑談をしながら飲んでいる間に少女は周りを確認していた。

 目に入ったのはカウンター席の端に置かれた小設置型掲示板。

 そこには簡単な絵と何かしらが書かれていた。

 ステータスの影響か、少女には文字も絵もはっきりと見えた。

^^^^^

依頼『納品』


品目『傷薬』


個数『5』


報酬『銅貨30枚』(相談可)


概要『薬箱の傷薬が残りわずかだ。買ってきたものでも調合したものでもいいから売ってくれ。』


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依頼『納品』


品目『治病薬』


個数『2』


報酬『銀貨10枚』


概要『風を引いた。薬を売ってくれ。』


^^^^^


「何あれ?」


「ん?どうしたの?」


 ミローナは少女の見ている掲示板を見るとああ、と納得した顔をする。


「あれはここの酒場の依頼掲示板ね。」


 依頼酒場兼宿屋アシュタインはこの街ができてすぐにできた歴史の長い酒場で、元々は小さなバーようなものだった。

 討伐者ギルドや総物区などがなかった頃からあったため、町民たちのたまり場となっていた。

 そして、当時のマスターの趣味で飾られていたアンティークな掲示板。

 それに簡単な依頼を誰かが貼ったことが依頼掲示板の歴史の1ページ目だ、と、ミローナは語る。

 それからギルドができて討伐やある程度高価なものはギルドに依頼されるようになったが、総物区まで町民区から歩くよりこの酒場に入る方が早いため、安いものや軽い依頼などはここにまだ貼られている。


「(あったな、こんな感じの依頼掲示板があるゲーム。確かアトリ○シリーズだったっけ?)ねえ、お姉さん、あの、納品依頼で回復ペーストを納品しちゃだめ?」


「うーん…マスターは信頼できるからね…周りの人に見えないように渡すんだよ?」


 あ、関係ないけど前に言ってたゲーム、クリアしました☆

 ミローナにひとこと言って下ろしてもらった少女は依頼掲示板の下に寄る。


「いらっしゃいませ。」


 マスターが磨いていたグラスを置きながらカウンターから出て少女の横に目線を合わせるようにしゃがみ込む。


「小さなお客様、どうしました?」


「あの、依頼の傷薬、納品したいんですけど…」


「なるほど、今、お持ちですか?でしたら、こちらの袋に入れてください。」


 サッと渡された袋を受け取り、少女は懐に手と袋を入れ、服の中でインベントリから袋に薬を移し、袋を差し出した。


「失礼します、《鑑定》」


 マスターは袋を受け取ると中を見ながら目の前に魔法陣を浮かべた。

 しばらく見つめるとにっこり笑い、魔法陣を消すと少女の頭を撫でた。


「素晴らしい薬です。報酬をお持ちしますので少々お待ち下さいね。」


 カウンターに戻ったマスターはカチカチと硬貨を取り出すと袋に入れて少女に渡しに戻る。


「需要品質を上回るものでしたので、色を付けさせていただきまして、銀貨1枚が報酬となります。お名前をお聞きしても?」


「名前はないです。森の錬金術師って呼んでください!」


「…失礼しましたレンキンジュツシ様。こちら、当店で使用できる割引券と依頼達成した方に送るタグです。」


 差し出された紙と袋と木製のタグを受け取り、少女はマスターのお辞儀を後ろにミローナの下に戻る。

 攫うように抱き上げられると、やはりぬいぐるみポジに抱かれる。


「優しかった?」


「うん、銀貨と割引券とタグをもらったよ!」


「良かったねぇ!ん〜よしよしよし!」


 なで回されながら少女は首にかけたヒモにタグを付ける。

 首紐には神聖銀と神木の2つのタグが下げられた。


「(銀貨か…ラノベとかだと1000円分とか書かれてるけど実際どうなんだろ?)お姉さん、銀貨ってどれくらいなの?」


「ん〜…簡単に言うと…宿屋に4日泊まれる?いや、鉄製の武器を一つ買えるくらい…うーん?簡単に?言えないかな?銅貨10枚分だよ。」


「(ほほう、わからん。千円玉って感じ?)」


「うーん…難しいと思うけど、説明すると…」


鉄貨(1円)ほぼ使わないほど安い

銅貨(100円)市場で買い物するときはよく使われる

大銅貨(500円)ほぼ使わない

銀貨(1000円)まとまった物買いのときに使う

大銀貨(5000円)武器や防具の買い時に使う

金貨(10000円)動物や大きなものを買うときに使う

大金貨(50000円)大型生物や希少な素材を買うときに使われる

聖貨(1000000円)家や身分を買うときに使われる使うほとんどが貴族か有名人


 区切りが悪いですけどここで一旦カッツ!

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