第十一話『薬師ギルドと登録』
バンカーの一筆を持ったミローナが討伐者ギルドを出て町の反対側に歩いて行く。
今まで少女がいた場所は五分割された町の外側の四つの区切りの一つ、町民区。
民家や討伐者ギルドや孤児院、スラムがある。
今から向かうのがその反対側の総物区と呼ばれる、いわゆるモノを作る職人のギルドや工場が置かれている場所。
ミローナは少女の薬を作るということを高くかっていて、自らの推薦とバンカーの一筆である程度大きな取引ができるまでギルドランクを上げる算段だ。
買いたたかれる可能性も無きにしも非ずだが、それはミローナがいないときに新しい薬を持って行ったときだけ。
人類の英雄、ミローナのいうことは大体絶対なのだ!
…が、
「はーい、お嬢さん、少し止まってくれますか?」
「え?」
「ここら辺に全裸の女の子を抱えて練り歩いている変態がいるって通報されたんだけど、あ、ミローナ様、困りますよ、風紀は守っていただかないと。」
「すみません」
「はい、これ、荒布ですけど、服ね。お嬢ちゃんも、英雄様だからって遠慮しないで、嫌なことは嫌って言いなよ?」
「はぁい」
「じゃあ、ミローナ様、今後とも気負つけてくださいね?」
「はい。」
と、まあ、こんな感じで普通に警備隊のお兄さん方に怒られることもある。
まあ、一個人だからね。
それに、全裸が当たり前って顔をしている少女にもちょっと問題があった。
うん。しょうがない。
^^^^^
警備隊接触から少し歩くと、鉄を打つ音や布を作る音の響く総物区に着いた。
少女がきょろきょろとみるだけでも、鍛冶屋、制布屋、製紙屋、鍛冶ギルド、造船ギルド、玩具ギルドなど、多岐にわたる店とギルドが建てられていた。
その中をスイスイ進み、木でできた大きな建物の前でミローナが止まる。
「ついたぁ!」
「ここは?」
「ここは総物区の総合ギルドって言って、総物区にあるギルドのすべてを管理しているギルドよ。お嬢ちゃんにはここの薬師課でギルドメンバー登録してもらうの。それが身分証明書にもなるから、ね?」
「(錬金ギルドはないってことは錬金術師がいないってことか。)」
少女が考えている間にミローナは総合ギルドに入っていった。
ギルド内はグループで固まって話をしたり、受付で話し込んだりしている人が巣をつついた蜂のように動いていた。
その人の隙間を抜け、四つ折りにした紙の上に粉をのっけたマークの看板の下がっている受付に着く。
「こんにちは、薬師ギルドに登録したいんですけど」
「こんにちは、っと、英雄様ではないですか。薬師ギルドに登録ですか?」
「ええ、この子を登録して頂戴。」
「えっと、この子ですか?」
「はい、これ。」
ミローナは困惑する受付にバンカーが一筆したためた紙を差し出す。
受付はミローナと紙を数回往復するように見ると、紙を取り、中を確認した。
ふむふむ、と内容を読むと納得したようにうなずき、紙を折りたたみ懐にしまった。
「わかりました。では、こちらの申請書の方に記入をお願いします。」
ぬいぐるみポジで申請書を受け取り、少女は記入欄を埋めていく。
「(なまえ…森の錬金術師でいいかな?年齢…7歳くらい?性別は女。種族は…あれ?種族って何なんだろう?ま、未記入でいいか。主に扱う薬…傷薬と治病薬かな。他のも作れそうだけど面倒だし。)」
記入するのをミローナと受付がニコニコ見守る。
少女が紙を両手で持ち、うん、と、うなづくとそれを受付に手渡した。
「お願いします。」
「はい、確認しますね。」
受付はそれに目を通し、記入漏れがないか見る。
「(種族が未記入なのは親を知らない孤児だからかな?名前は…偽名、もしくは名前がないから職業か何かを名前に書いたのかな?まあ、本人も特に嫌がってないならこれで登録するか。)」
受付は何度かうなづき、処理してきますと奥に引っ込んだ。
そばに座っていた受付嬢がミローナ達の前にズレてきて、簡単な世間話を始める。
討伐者ギルドのとある男性にしつこく求婚されてるとか、裏道のどこかにあるロマン屋さんという店に変なものが売ってあるとか。
数分ほどで受付が戻ってきて、受付嬢は元の場所に戻っていった。
「はい、登録完了しました。あとは、この鉄札にお嬢さんが触れれば鉄札がタグになります。」
皮でできた手袋で差し出す鉄札は神聖錆鉄でできている。
以降、ステータス参照
^^^^^
薬師の鉄札『RR:B』
特殊な技法により制作者以外の触れた者の神聖力のパターンを保存する鉄札。
かなり強力な神聖力が込められている。
この鉄札は他人に譲渡できない。
効果
不壊 20%
神聖力波記憶 100%
^^^^^
「えいや、」
無駄にキリッとした掛け声で少女は札に触れる。
一瞬ぴかっと光った札は黒色から薄く蒼い銀色に変わった。
受付から受け取るとミローナはいったん少女を下ろし、首にヒモをかけ、再び抱き上げた。
少女のみぞおち辺りまで下がった札はほのかに輝いていた。
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