第十話『異世界の人類の文明』


 尾行した少女は見えている門の大きさにビビる。


「(想像の8倍デカイ!)」


 転移したことで身長差ができ、そのせいで大きく見えているだけ…ではなく、某進撃される大きな大きな人の壁の二倍以上の高さがある。

 厚さなんと50㎝ィ!なわけもなく、壁の中心に行くと陽が届かずに完全に真っ暗になるほど厚い。


「すごー」


「っ!この声は!」


 ズザザァ!と物凄い速度でミローナが少女の後ろに回り込み、赤子を抱え上げるように抱き上げる。


「ナニ?ついてきちゃったの?ん~!」


「タスケテ(いい匂い…安心する…母さんに似てる匂い)」


「お前は…!」


 ネイソンがミローナの腕に抱えられている少女をみて驚く。

 他の救助隊のメンバーも同様だった。


「ネイソン、接近に気が付かなかったな。」


「珍しいね。」


「…」


 悔しそうに表情をゆがめ、右手を握るネイソンをバンカーが不思議そうに見つめ、ミランが横目で見る。

 ステータス上で索敵能力があるわけではないが、他の貴族以上の狩をしている狩人な彼には直感的な索敵能力があった。

 まあ、ネタバレをすると少女の職業の効果、『自然とより深く同調できるようになる』の効果で、例えるなら『森の中にあるの印がつけられていない木を見つけるようなもの』と同じくらい見つけにくいだけだ。


「脱出!」


「あぁん…」


「えい!」


「タスケテ…」


 少女はミローナの腕から脱出し、そして脱出した先のランカの腕に捉えられ、再びぬいぐるみのように抱かれる。

 …話が進まない。


「さあさあ、師匠、聖女先生、その子は…まあ、そのままでいいですから、街に入りましょう。」


「お持ち帰り!?いいの?」


「タスケテ」


「ほ、本人もいいって言っていますし、大丈夫ですよ(目を背けながら)」


「(:_;)」


「えっと、大精霊士様のお連れ、という認識でも?」


「はぁい!」


「わかりました、入町を許可します…というより、ようこそ。」


 そのまま救助隊にドナドナされながら少女は街に入っていった。


^^^^^


 中世、イタリア、イギリス、フランス…その他にも多くの国々。

 中世といえども多くの時間が流れていたので、人によってはイメージが異なるだろうが、簡単に説明すれば、王国ができ、十字軍が遠征に行き始めたころ、だろうか?

 レンガの家や少し濁ったガラスなどの建築、質素な服装の住民。

 ほとんどの人が物理法則を知らないような、そんな時代の街。

 ベレー帽に似た帽子をかぶった少年が横抱きのバッグを抱えて横を走り抜けていった。


「(よくある異世界だ…)」


 少女はきょろきょろ辺りを見渡して、

 ちょうどその時、だった。


『申告、視認量が一定に達しました。』


『申告、スキル『錬金術師の神聖眼』を取得しました』


「ぷお!」


「うひゃ!?ど、どうしたの?」


「あ、何でもないよびっくりしただけ。(神聖眼…か。)」


 少女はステータスを開き、内容を確認する。

 内容を確認した後、神聖眼を起動して建物や舗装された道路などを見てみた。

 以下、ステータス参照。


^^^^^


錬金術師の神聖眼LV1


人類の制作した物のステータスを目視できる

一定量以上目視・理解を得ることで複製できる

神聖力を視認できる


^^^^^

^^^^^


レンガの建物『RR:C』


黒泥で作られたレンガで建てられた家。

可もなく不可もなし。

神聖力が多少込められている。


効果


無し


^^^^^

^^^^^


石畳の道路『RR:C』


職人の手によって加工された石で作られた道路。

可もなく不可もなし。

神聖力が多少込められている。


効果


無し


^^^^^


「(家とか地面とかに効果があるの…?回復床とか?)」


 少女は見たステータスを読み取りながら想像を膨らませる。

 少女の理想は森の中に立つ小さなアトリエ。

 どこぞのアトリエシリーズでも(著者が現在プライしているものだが)森の近くにポツンと一軒家状態だったため、錬金術師のアトリエとなると森、一軒家、不思議な感じを想像してしまう。

 柵で囲った庭に、小さな畑と錬金術の素材の温室。

 家の中にはボゴボゴ音を立てて煮詰められた大釜に、机には透明なビーカーのアート。

 床には錬金術の本が散乱し、天井からは乾いた根っこや妖しく光る素材が吊り下げられ、そしてそれらの持ち主である少女は本に埋もれるように寝ている…


「(それで、踏んだら警告音の成る床を柵の前に敷き詰めて…)ニヒヒヒ…」


 ランカに抱えられながら少女は自分のに想像を膨らませてにやける。

 それを見ていたミローナがひそかにランカから奪おうとするが、ランカ、これを華麗によける。

 しばらく攻防が続いたが、それは冒険者ギルドに着くまでだった。


「ただいま戻りました」


「おお!帰ってきたか。」


「新人のおもりお疲れ様です。バンカーさん。」


 先ほど、冒険者ギルドと評したが、正確にはここは討伐者ギルド。

 魔物を討伐する者達、つまりの寄せ集めだ。

 実際、ギルドに入ってすぐに年端もいかない少女に粘着質な視線が降り注いでいる。


「英雄の師匠様、そのお子さんは?」


「森にいたから連れて来保護したの。かわいいでしょ?」


「孤児、ということですかい?」


「おそらくね。でも…」


 と、ニヤつきながら見ていた討伐者たちが一斉に顔を青ざめる。

 冷気、とも捉えられるほどの圧がミローナから発せられ、質問した男を薄めで睨むように見つめた。


「私のだから、?」


「う、うす。もちろんっすよ。」


 くぎを刺されたごろつきは周りも含め、席に座りなおす。

 そのままギルド員の案内で救助隊一行と少女は奥の個室に入る。

 ミローナが死体を取り出したり、状況を説明したりとしているうちにしばらくの時間が過ぎた。

 少女がお腹減ったなー、そういえば転移してから何も食べてないや…と考えたその時、バンカーからの報告を受けた受付嬢が少女に近寄る。


「こんにちは、お名前は?」


「ボク?名前…は、ないよ。そ、そうだなぁ…森の錬金術師って呼んで!」


「れんきんじゅつし?森に棲んでいるのかな?」


「うん、お薬を作ったりこの…えっと、を作ったりしてるんだ。」


「こ、拘束!?な、なるほどね。そうなんだ。」


 ぬいぐるみポジで受け答えする両者に、周りが笑いをこらえる中、それに気が付いた少女がヨッとランカの手から降りる。

 ステータスウィンドウを開き、ごそごそとストレージから回復ペーストを一つ取り出した。


「これがボクの作ったお薬だよ!いっぱい作ったからあげるね。」


 ぽん、と受付嬢に薬を手渡す少女。

 あ、ありがとうと受付嬢が受け取った瞬間、血相を変えてミローナがその薬を見つめる。


「ナトシャちゃん、その薬ちょっとよく見せて。」


「え?はい。」


 ナトシャと呼ばれた受付嬢がミローナに薬を渡す。

 ミローナはそれを不可思議な紋様を瞳に浮かべながら注意深く見つめる。

 少女はミローナのその目を魔眼で確認しようとした。

 が、


『申告、魔眼の効果範囲外の力を引き出そうとしています』


『忠告、眼球の破損に通じるため取りやめを推奨します』


「っ」


 魔眼の発動を抑え、ミローナから顔を背けておく。

 一瞬だけ、ミローナが少女を見つめていた。


「なるほどね…」


 しばらくそのままだったミローナがナトシャに薬を返しながら何度かうなづく。

 ジッと少女を見つめる瞳には先ほどの紋様が浮かんでいた。

 数瞬、少女を見つめていたミローナだったが、


「くうう…」


 目から血をにじませ、ヨロリと倒れかける。


「師匠!?」


 バンカーにより支えられたミローナは何かをぶつぶつとつぶやくと目に添えられていた右手が淡く輝くと同時に血痕がきれいに消えた。

 バンカーの腕から出たミローナは少女に近寄ると目線を合わせて真面目な顔で質問する。


「君は何者なの?」


「ボクは森の錬金術師さ。」


「…正体は?」


「本当にそれ以上でもそれ以下でもないよ?」


「…そう。それにしても、あの薬は凄い物ねぇ!」


 シリアス雰囲気はどこへやら、自分の質問が終わるとミローナは少女を抱き上げた。

 そのままくるくると回ると、少女を床に下ろし、膝を抱えたしゃがみ方で目線を合わせる。


「あと何個くらいあるの?」


「100個近くあるよ」


「ほえぇそんなにあるんだ!あの薬以外にもあるでしょ?」


「うん、」


「バンカー!この子のために一筆書く気はあるかしら?」


 話の外側に置かれていた自分がいきなり主役に呼ばれるとは思っていなかったのか、バンカーは驚いたようにびくつく。


「え、あ、ああ、師匠の言うことなら聞きますよ。」


「じゃあ、薬剤師ギルドに一筆書いて欲しいわ。私もいっしょに行くけど、貴方の言伝があれば説得力が増すからね。」


「そんなに凄い物なのですか?あの薬は。」


 ミローナは瞬時にバンカーとの距離をゼロにすると両肩を持ち、激しくゆする。


「塗るだけで四肢欠損を治す薬よ!金貨数枚の価値があるわぁ!まあ、切り飛ばされた足か腕かがないとダメっぽいけど、それでも教皇クラスの神聖術よ!」


 ガックガクに揺さぶられたバンカーはミローナが投げ出すと同時に床に崩れ落ちた。

 ミローナはそんなバンカーをほったらかしにし、少女に目線を合わせながら少女の手を取る。


「いい?私がいいって言った人以外に薬は見せちゃだめよ?怖い大人があなたを連れてっちゃうからね!?」


「う、うん。わかった。」


 バンカーの仕打ちに若干引きつつも少女は薬を見せるのは早計だったか、と頭の中で頭を抱えた。

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