第六話『淫行』
キラの母親は腕時計を見る。
するとまだ時間が14:20だと知り、キラを少し睨むように見る。
ナンパ男たちはスッと横にずれた。
カンカンとヒールを鳴らしながらキラに近付いた母親はキラの右二の腕を持ち上げると金切り声で説教を始めた。
ギリッと二の腕に食い込む爪の痛みと母親の癇癪のような説教にキラは苦しそうに目をつむる。
「おい、家庭の事情つってもやりすぎレベルっぽくね?」
「交番ある、言ってくる。」
その光景を見ながらナンパ男(金)が二人を見張り、ナンパ男(ピアス)が警察を呼びに行った。
「大体あんたはいつも―」
「―うるさい…うるさいうるさいうるさい!」
掴む母親の手を叩き落すとキラは憎悪のこもった目で母親をにらみ、今までの鬱憤を晴らすようにまくしたてる。
ギャイギャイ騒ぐ二人は周囲の注目を買っていた。
「もういい!家でお父さんに𠮟ってもらうから!」
「っ…私、もう家には帰らない!ぱぱのところに行くから!」
「っ!あんた――」
母親がキラをたたくために手を振り上げる。
叩かれるっ!と目をつぶったキラだったが母親の手は降られることなく、掴まれた。
「はい、奥さん、ちょっといいですか。」
「それ以上は貴女を取り押さえる必要がありますよ。」
「だれよ!これは家庭のじじょ…け、警察!?」
ピアス男を後ろに侍らせた警察官がキラの母親の手を掴み、強引にキラと母親を離す。
「はい、離れてね。」
「お嬢ちゃん、こっちの、このベンチに座ってね。」
「奥さんはこちらへ。」
強面の警察官が母親の相手を、ひょろっとした優しそうな警察官がキラをエスコートして、ベンチに座らせる。
息荒くしていた親子は警察官になだめらる。
「ごめんね?黒髪のあの男の子が「女の子が暴力されてる」ってそこの交番まで来たんだ。」
「は、はい」
「すっごい簡単な質問するから、答えてくれる?」
「はい。」
ギャアギャア叫びながらついには抑えられた母親と違い、キラは上目遣いで警察官と話す。
「お名前は?」
「江藤 嬉良です」
「何歳?」
「18です」
「えっと、学生さんかな?学校は?」
「きょ、今日は行きたくなかったから…」
「なんでか言える?」
「…お父さんに会いたかった」
「お父さんとは別居なの?」
「お父さんはお母さんが浮気されたって、離婚したって…」
「…なるほど、それは何年前?」
「3年前です」
「なるほど、じゃあ、今はお母さんと二人なんだ。」
「いえ、義理の父と三人で…」
「…お母さんが離婚してからどれくらいで再婚したの?」
「えっと、その…」
「うん、ゆっくりでいいからね。」
ちょうどその時、母親を取り押さえていた強面警察官の無線応援で駆け付けたパトカーが止まる。
「あー、警察署まで一緒に来てくれるかな?」
「は、はい。」
キラはナンパ男二人に会釈をするとパトカーに乗り込み、警察署の取調室まで連れて行かれる。
「こんな堅苦しい所でごめんね?えっと…」
「お母さんが離婚した理由が、その、今のお父さん…が、私のホントのお父さんが浮気してたって、そう言ったからって聞きました。」
「浮気…そっか。えっと、キラちゃんのお父さん…本当のお父さんってどんな人だった?」
「えっと、何時もやさしそうに笑ってました。私が勉強しててもゲームしてても何時もやさしそうに…」
「なるほど、じゃあ、本当のお父さんと今のお父さんとお母さんだったら誰が一番信用できる?」
「本当のお父さんです」
「そっか。ありがとうね。ちょっとだけ待っててね。」
そういうと警察官はこれまでの会話のメモを持って出ていこうとする。
「あ、あの…」
キラは警察官の裾を掴むと先ほどよりも早まる心音を聞きながら
「今のお父さんに私、その…」
「うん、」
「お、お…」
「落ち着いて、ゆっくりでいいからね。」
警察官は席に座りなおすとにっこり笑う。
キラは深呼吸すると
「犯されたんです」
「っ…自宅の住所、もしくはお父さん…いや、その男性の携帯電話の電話番号はわかる?」
「え?は、はい。自宅は―」
キラの一言の後、突如として表情と雰囲気を変えた警察官に気おされながら自宅の住所と義父親の電話番号を伝える。
真剣にそれらを聞くと、無線で何かを伝え、少し待っててねと出て行った。
「(なんだったんだろ…)」
以下、とあるウェブサイト参照
^^^^^
淫行(いんこう)(in-kou)
淫行とは法律上明文で定義したものはないが、判例によって解釈が示される。
青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等
その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う
性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を
満足させるための対象として扱っているとしか
認められないような性交又は性交類似行為をいう。
なお、自由恋愛での未成年者の性行為は淫行とされない。
^^^^^
当時、中学三年生だったキラに対して両腕を縛り根拠のない浮気を告発した全く知らない男性に対し、成人女性が未成年女児に対して性行為を強要し、さらにそれを動画にし、未成年女児の父親に見せた。
これは、法律上明記されないが、裁判上淫行と判断されるものだ。
その証拠に
「君が被害者の江藤 嬉良さんですね?」
「え?」
婦警3人が痛ましそうに取調室に入ってきた。
一人ははいってくるなりキラの隣に椅子をつけ座り、キラの手を取ってなだめるように撫でる。
「えっと、え?」
「これから心苦しいことを聞かないといけないのだけど、許してね?」
「は、はい…?」
その後、キラは当時の状況を事細かに聞かれた。
中学卒業した直後だったこと、当時、今の義理の父親はまったくもって知らない人だったこと、強要されたとき、動画を取られ、さらにはその動画に映らないように後ろ手を縛られていたこと。
その動画も母親のロインから証拠として出てきた。
なお、母親はこのことに対しては黙秘を続けている。
「辛かったわよね…苦しかったのよね…なにも、貴女のことを私たちは何もわからないけど、これだけはわかるわ。」
「…あの、お父さんに会いたいです」
「本当の?」
「はい。」
「…あれ?そういえば、お父さんの名前って…?」
「お父さんの名前は江藤和平です。」
「そ、それって…!」
バッとテレビをつける婦警。
そこには
「っ!?お父さん!?」
キラの父親、江藤和平がマスコミに向けて苦い顔をしながら手を振っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます