オープニング『国際異世界関係店の転移券』
江藤が向かったのは少し前にできた異世界から帰還した元現世人がもたらしたあらゆる再現不可能な技術のアイテムを売る国際機関、国際異世界物流センター、通称、
数年前、世界のあらゆる先進国もしくは大国の首都のさらに目立つ場所で
その中から出てきたのはファンタジーな外見の装備品や見た目をした転生者と名乗る者達だった。
アメリカに帰国した転生者は銃弾やミサイルすら防ぐ結界術を教え、中国に帰国した転生者は魔法を使用した兵器を教えた。
そしてここ、日本に帰国転生者はというと…
「江藤様!江藤
「はい」
受付に提出した受付用紙に書いた名前を江藤は呼ばれて、
「はい、江藤です。」
「こんにちは。転移券のご購入ですね?最初に注意事項を述べさせてください。」
受付嬢の言葉から始まった注意事項はウェブサイトに書いてある注意事項と一言一句違わないものだった。
異世界への転移券による転移は成功確率が3.2%ほどなので異世界に行けなかったとしても文句を言わないこと。
異世界に行けた場合、向こうの世界に慣れるまでは
ちなみにこの向こうの世界に慣れるまで、という部分だが、100年以上は確実に異世界に慣れることはないので基本、異世界での外見はドッペルゲンガーが定着する。
異世界で死んでも現世の肉体に戻ってこれるが、それを理由に精神病にかかっても一切の責任を負わないため、文句を言わないこと。
基本、文句を言われたくない精神でIDWLCはやっているようだ。
「と、なります。」
「わかりました。」
「では、こちらの契約書を書いていただいて、それが終わり次第、向こうの3号室にお入りください。」
「わかりました。」
渡された契約書を端から端まで江藤は読むと、自分の名前を記入する欄に名前を記入し、捺印を押した。
その後、説明の通りに3号室に入る。
中ではけだるそうな女性が大きな白いポッドのような機械の横で缶ジュースを飲んでいた。
「江藤様っすか?」
「はい。」
「短い付き合いになるけどよろしくっす。村上っス。んじゃ、契約書もらっちゃいますね。」
村上は江藤の契約書をひったくるように取るとポンポンと必要な印鑑を押して部屋の隅の暖簾の奥に置いてくる。
と同時に大きなカギと銀のプレートにのっけた古っぽい一枚の紙をもってくる。
「あい、これが転移券っス。で、説明なんすけど、転移する場合、転移券を持って『
というと片手でホイッとプレートを差し出す。
江藤は転移券を受け取り、それを眺める。
古ぼけただけのただの紙に見えるが、よくよく見れば細い線のようなものが無数に彫り込まれ、文字のような形をしている。
「んで、これン中に入ってもらうっす。これはポッド…まあ、漫画とかである疑似コールドスリープできる機械っすね。転移後の現世の肉体はほっとくと死んで腐っちゃいますんで。腐らせる原因のバクテリアをぶっ殺して、低温状態に保って外から肉体を守るってのがこの機械がしてくれることっす。ま、私が担当した人、たったの一人もコールドスリープしてないんすけど。」
「わかりました。」
つまんない人間っすねと、村上は思いながらポッドを開ける。
プシュッと空気の炸裂音がしてポッドから若干の風圧が流れる。
開けた後も継続的にシューと空気の抜けるような音がすることから、換気やらなんやらができることがわかる。
そのまま江藤は村上の指示に従いながらポッドに入る。
小の字のような形に寝っ転がる江藤をそのままに、村上はポッドを閉めた。
「んじゃ、後は自分のタイミングでいいっすよ。」
「わかりました。」
江藤は目を閉じてここまでのことを振り返る。
元妻のこと、元部下の男のこと、愛する、娘のこと。
こみ上げる感情は怒りか、絶望か、はたまた勇気か…
「『
ふと、江藤の頭には昔、幼稚園生だかの記憶が戻ってくる。
陽だまりの中、顔もおぼろげにしか覚えていない初恋の幼馴染が差し出す小さな手。
小学生に上がると同時に引っ越してしまった彼女は今、どこにいるのか。
「――
カッと、転移券が光る。
外で傍観していた村上は今までの態度をどこへやら、目を見開き、椅子を蹴倒しながらポッドのガラスを見やる。
江藤が右手に持った転移券は瞬く間に燃え尽きると江藤の体に転移券に書かれていたのと逆の意味の魔法文字が浮かび上がる。
スキャンするかのように文字が江藤の体をはしると、魔力を検知したポッドが自動でロックされ、コールドスリープを始めた。
『
転移券の詠唱は基本的に自由で、危険が伴う。
コールドスリープに入った江藤の異世界、この先がどうなってしまっているのかは、その世界の神のみぞ知ることだろう。
長い長いオープニングが終わり、
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