男の目など節穴なのです
「旦那様! いったいどういうおつもりですか、娘を打つなど!」
「だが、あのようなわがままは」
「そうです母上、シシリアのいう事はあまりにもわがままが過ぎます。ティアンカにもひどく当たって」
「だからなんだというのです」
「は?」
「幼子が自分の居場所を必死に守って何が悪いのですか。お前だってシシリアが生まれた時には随分とわがままを言っていました。忘れてしまっているようですけれどもね。それに、シシリアがティアンカを害したのはお前と一緒に遊んでいた時だけ、あの花の前で頭を撫でていた時だけでしょう」
「でも!」
「お黙りなさい! あの花はシシリアが庭師に相談して一緒に育てていたものです。お前が好きな花だから喜んで欲しいと言ってね。それをティアンカは勝手に積んでお前に渡したのです。それを受け取ったお前はこんなきれいな花を咲かせるなんてティアンカはすごいと言って抱きしめて頭を撫でたのですよ! その光景を見てシシリアがどれほど傷ついたかわかりますか?」
「なっ……だって、あれをみつけたのはティアンカです。毎日様子を見に行っていたって」
「様子を見ているだけで花が育つわけがないでしょう。手が入っていたからこそあれほどに美しく咲いたのです」
母親の言葉にシシリアの兄のグリムアが床に膝をつく。
「旦那様もです。シシリアの誕生日パーティーで本人たちの合意なしに勝手に婚約者にするのだと大々的に発表するおつもりだったのでしょう。顔も合わせた事のない子供たちの意見を無視して!」
「それは、どこの家もしていることじゃないか」
「ええ、ええ。そうやって女は家の決めた相手の為に、家の都合の為に感情を押し殺して演じて生きていくしかありませんわ。和を乱せば、それは自分や愛する人や家に跳ね返ってくるのですからね」
「だから今回の事を認めるわけにはいかないだろう!」
「だからと言って娘の頬をいきなり打っていい理由にはなりません! それに最近はわがままをききながらも毎回のようにティアンカとシシリアを比べるような発言をして。シシリアがどれほど苦しんでいるのか貴方達にはわかりますか? ティアンカが本当に心の優しいまじめで純粋ないい子ならいいですけれどもね」
「どういうことだ」
「あら、女の目から見れば、小さいながらに男に取り入って愛想を振りまく天然の振りをしたぶりっ子、ですわ。そもそも、庭の花を勝手に積むなど、優しくて真面目な子がする事とは思えませんし、夜に疲れているだろうからと、わざわざ火の落とされた厨房に入って勝手に火を起こして翌日用の食材を勝手に使い、仕事を切り上げようか悩んでいるタイミングを見計らっていたかのように執務室に入って父親に差し入れをするなんて、計算高いと私たち女からは見えますのよ」
母親の言葉に、男たちはポカンと口を開けて間抜け面のまま動けずにいるのを一瞥して、母親はメイドに指示をだして次の夜会にシシリアを連れていくので手配するように伝える。
「娘の願い一つも叶えられないような男が、国土整備大臣とは嘆かわしい」
妻の残した言葉に、夫はその場に崩れ落ちるように膝をついた。
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