第3話

「今まで、みなさんのために頑張って来た及川さんは幸せに暮らせる天国へご招待しました。思う存分、楽しんじゃってください」


 天使の言葉はとても甘い言葉だった。


「・・・・・・っ」


 けれど、俺はその言葉を素直に喜べなかった。


「どうしたんですか? こんなに素敵な体験初めてでしょうに。そんな浮かない顔をして」


「俺が居なきゃ・・・・・・みんなが・・・」


「あっ、大丈夫ですよ? ご家族はあなたの生命保険で幸せな暮らしを手に入れますし、会社はあなたの死をきっかけいに労働環境改善、そして、代わりにとても優秀な方を雇って、みんなハッピーになってます」


 天使の言葉で俺の心の中のネジが外れた。そのネジは俺にとって結構大事なネジだったと思う。



「・・・・・・・・・・・・楽しんでしやるぜえええええ!!!!」



「おーーーっ」


 それから、俺たちは天国を駆け巡った。特に俺。俺は何かを振り払うかのように無我夢中で走った。まったく、自分の足だと自由にどこへでも行けるし、どんだけ走っても疲れない。そして、どこへ行っても、景色はきれいだし、飯も飲み物も上手い。


「ひゃっほーーーっ!!!」


「ひゃっほーーーっ!!!」


 俺が崖からジャンプすると、俺に続いて、天使も俺の言い方を真似して、翼で飛んでついてくる。


 ぽよーーーんっ


「ほぅっ!!」


 もふわふわっで柔らかい気持ちよさはどんな綿よりも柔らかいのに、どんなトランポリンよりも楽しく跳ね返してくれる。物理法則を無視した未知の弾力を楽しむ。川に飛び込むよりも、スカイダイビングよりもこっちの方が断然楽しい。


「次はあっちだ!!!」


「了解でありますっ!!!」


 俺が提案すると、まるで子分か部下のように敬礼をしながら、天使が返事をする。俺たちが向かった先は、雲みたいなかけらがたくさんある場所。雲みたいな綿をコネコネコネって、いろんなものを造ってみる。雪みたいな冷たさはないし、自分の願った固さになるから、とても扱いやすい。


「よしっ、これで川を下れるかな?」


 サーフボードを作ってみた。


「行けますよっ」


 川に浮かぶか自信がなかったけれど、天使がウインクしながら、ノリノリで返事をしてくれる。


「よしっ、いっくぜぃ」


「いっちゃうんだぜぃ」


 この天使。案外、ノリが良くていい奴じゃないか。

 天使と俺は天国を遊びつくした。それこそ、死ぬ前に働いていた時のように時間を忘れて、無我夢中で。今までは、人のためだったけれど、今は自分のためだけに遊びつくした。

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