第2話

「もしっ…?」


 少女に話しかけれらた。けれど、身体がだるいから俺は無視しながら、寝ようとする。


「もしっ!」


 しつこい。

 俺は声が聞こえた反対を向く。みんなは守るべき相手だからと憎いと思ったことはないけれど、母ちゃんを彷彿させるようなお節介が、今は実に腹立たしい。


「ねぇ、起きてっ!! 起きてくださいよぉっ!!」


 とうとう俺の身体を揺さぶって来た。

 今の俺は機嫌が悪い。

 なんたって、過去最高の疲れを抱えているのだ。それを回復させて、再びみんなのために働かなければならないと言うのに、なんの権限があってこの少女は俺に話しかけてきているのだろうか。


(あぁ、こういう自分勝手な奴はそう…きっと、美少女に違いない)


 偏見だ。

 分かっている。


 でも、この可愛らしい声と、自信に満ち溢れた声は美少女に間違いない。これが声優さんでドッキリだったら、俺は人間不信になる。


 ちらっ


「あっ、起きた」


 満面の笑みの美少女。

 やっぱりだ。その笑顔を見たら、かなり気分が良くなった。男は単純だなと我ながら思いつつ、検証が済んだので、俺は再び目を閉じて、疲れがどれぐらい回復したか意識を身体全体に集中させるけれど、めちゃくちゃ身体が重い。


「えーーーっ、ちょっと、及川さんっ!!! ちょっ・・・・・・もうっ!! えーーーいっ!!」


「があああああああっ」


 あっ、こいつ。

 最低な少女だ。

 俺の両目の瞼を親指と人差し指で強引に開きやがった。


「きゃああああああっ」


 俺はなんとか、暗闇を求めて白目を向いてでも寝てやろうと思ったけれど、明るすぎたのと、白目を向く集中力を少女が割くので仕方なく少女を見た。少女はドン引きしている顔をしているが、全く知らないそいつに瞼を強引に開かれたこっちに方がドン引きだ。 俺は少女からようやく瞼から手を離されて、自分の目が無事であることを確認する。


「んっ? ここはどこだ?」


 俺が怒りから我に返り、少女とあたりを見渡すと、ファンタジーのような世界が広がっていた。ファンタジーと言っても、色味がない、真っ白な雲でできたような世界だった。


「いらっしゃいませ、及川さん」


 憎らしい少女、もとい、かわいい少女はファンタジー合わせているのか、背中に白い翼を生やしている。


(コスプレイヤーか?)


「そろそろ説明してもいいですか?」


「あぁ、言い訳を聞こうじゃないか?」


 俺の唯一の楽しみの睡眠を絶対やってはいけない悪魔的所業で邪魔したのだ。当然、相当の理由がなければ、美少女であっても俺は許さない。


「言い訳? まぁ・・・・・・いいです。あなたは、地上でよく頑張りましたので、天国にご案内しました。感謝してください」


「悪魔か?」


「天使ですよぉっ!? なんで、そうなるんですかぁ!??」


 おやおや、自分がやった悪魔的所業が分からないようだ。

 俺は後ろで手を組み、教師かコンサルタントのように胸を張り、歩きながら横目で自称天使の美少女を見る。


「俺を必要としてる人はたくさんいる。そんな人から俺を奪ったのがまず一つ。そして、俺から俺の命とやりがいを奪ったのが2つ。そして、俺の唯一の至福の時間、睡眠を奪ったことだっ!!!」


 決まった。


「可哀想に・・・社畜に洗脳されて・・・・・・。でも、大丈夫です。ここにいれば、もっとハッピーですし、あなたもみんなもハッピーハッピーですよ」


 駄目だ。

 こいつこそ洗脳されているに違いない。

 実に可哀想だ。


「ほら、身体が軽いでしょ」


「む?」


 俺がドヤ顔していると、美少女もドヤ顔していた。俺は身体に意識を向けると、


「なんじゃ・・・・・・こりゃっ!?」


 過去最高に身体が軽かった。

 というより、無重力なんじゃないかと思うくらいだし、血行の流れもとてもよく、全身にエネルギーが満ち溢れている感じだ。


「神の御業です」


 じゃあ、てめーの力じゃなねーじゃねーかよ。威張んな。


 と、言いたくなったけれど、そんなことよりも幸せに満ち溢れるこの身体を満喫することで頭をいっぱいになっていた。

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