第181話【思わぬ人との再会】

 待つこと数分で奥の部屋から一人の人影が現れ叫びなすがら飛びついてきた。


「ミナトさーん!」


「ロセリ!?

 どうしてここに?」


 それはノーズの町でギルド便の責任者をやっているはずのロセリだった。


「ギルドマスターの指示でアランガスタからの支援物資の受け取りをするためにここまで来たんですよ。

 物資の量を出来るだけ減らしてさらに時間停止をさせることによって多くの民のためになると言って砦で待っていたんです」


「そうだったのか。だけどもう物資はカード化して持ってきているからそのままノーズまで運ぶようにしよう。

 必要ならば限定解除のスキルを付与しておけばさらに問題なくなるだろう」


「ありがとうございます!

 ミナトさんが来てくれたら輸送関係の問題が一気に解決しそうな気がします」


(一気に解決とは大げさだと思うけどグラリアンの情報を聞けるのは大きいな)


「ロセリさんは今日はこの砦に泊まるのですか?」


「もちろん、そうさせてもらって明日の朝食後にはノーズに向けて出発したいです」


「ならば少し話を聞きたいから夕食を一緒しないか?」


「本当ですか!

 私からもお願いします」


 こうして明日の予定の調整も兼ねて僕たちはロセリと一緒に夕食を食べることになった。


「――それで向こうの状況はどうなっているんだ?」


「一ヶ月くらい前から地神様の機嫌が悪く何度かに分けて大きな揺れが起こっています。

 私の住むノーズはまだ町に大きな被害が出るほどではありませんが王都から西の地域では道のそばの崖が崩れたり大木が倒れたりして馬車での流通がほぼ遮断されているみたいです」


「王都から西となるとエルガーはもちろんロギナスも同様の状況だと思ってもそう違いはないと考えた方がいいな」


「ロギナスからの北部ルート上にあるトウライやサンザンはどうなっている?」


「それらの村は早々に村人はロギナスとノーズに避難しているので今は閑散としているはずです」


「支援物資を必要としている町は?」


「主にロギナスとエルガーですが人数が多いので王都もかき集めているみたいです」


「王都が必要としているならばこんな量じゃあ全く足りないだろう?」


「今のところは町によって欲しいものが違いますので要請に従って送るようにしています」


「欲しいものが違う?

 どこも食料を欲しがっているわけじゃあないのか?」


「もともとロギナスは端の町ですから食料関係は備蓄も多く食料には困っていないそうですが建物の破損が多く修理が出来る人材が不足しているようですし、王都は怪我人が多く出ており薬が足りないと言っています。

 食料関係はエルガーが一番欲しがっていますので多めに送るように手配しています」


 ロセリの言葉に隣で聞いていたノエルがうなずいて答えた。

 

「なるほど、すでにギルド主体で物品の配達はなんとか保たれているのですね」


「全てミナトさんが考案された新たなギルド便のおかげですよ。

 ところでお会いした時から気になっていたのですがお隣の方も同じスキルの持ち主でしょうか?」


「ああ、彼女はロギナスで雑貨屋を営んでいるノエルといって僕の公私ともに大切なパートナーでカード収納スキルは持っていないけど鑑定スキルは持っているからいろいろと助かってるんだよ」


「そうなんですね。

 ミナトさんと一緒に旅出来るって凄く羨ましいです」


 ロセリはノエルを見ながらそう言った。


「カードで送るギルド便は確かに僕が基礎的な構造を考案したけど実際に運用しているのはロセリ達だからね。

 もっと自分たちのやっている事を誇ってもいいと思うよ」


 僕がそう言うとロセリは顔を赤らめて嬉しそうに笑った。


「それなりにグラリアンの様子は理解したから課題も多く見つけたよ。

 とにかくノーズにたどり着いてからギルドマスターとも話をしたいな」


「もちろんです。

 ミナトさんが戻ってきたら依頼したい事があるので絶対に連れてきて欲しいと言ってましたから」


「ははは、何をさせるつもりか分からないけれどこんな時だから出来るだけの協力はするつもりだよ」


「ありがとうございます。

 明日はどうぞよろしくお願いします」


 ロセリはそうお礼を言うと自らの部屋に小走りに入って行った。


「僕たちもそろそろ休むとしよう。

 どうやら明日からは忙しくなりそうだ」


「そうですね。

 ですが、どんな依頼であってもどこへでも私を連れて行ってくださいね」


 ノエルはそう言って僕が出した手を握り返して席を立った。


   *   *   *


 ――次の日の朝。


「じゃあ出発しますけど一緒の馬車じゃなくていいんですか?」


 ロセリはギルドの依頼で荷物を運ぶために砦に来ていたので全員が乗ることが出来る大きな馬車に乗っていた。


 もともと普通の馬車20台分の荷物を運べるようにと大型の馬車10台を引き連れて来たのに僕が全てカード化していた為に空の状態で引き返す形になっていたのだ。


「いや、僕たちはノーズが目的地じゃないからね。その先も自分たちで動かないといけないだろうから小さくても自分の馬車で向かうことにするよ」


 ノエルが御者台にて馬を操る姿を後ろから眺めながら僕がロセリに答える。


「わかりました。

 ただ、せっかくの馬車が空のままだと少し寂しいですしノーズに着いた時に驚かれるかもしれませんね」


 ロセリはそう言うがもちろん馬への負担が少ないので進むスピードは段違いに早い。


「このスピードだとノーズには今日のうちにたどり着くかもしれませんね」


 途中でとった食事休憩中にロセリがそう言う。


「ノーズについたら僕たちはすぐに移動する経路を決めるために情報を集めようと思ってる。

 悪いけど荷物に関してはギルドマスターと相談してロセリが管理をしてくれると助かるんだが……」


「分かりました。

 もとより荷物の運搬は私が依頼されたものですので大丈夫だと思います」


 時間停止されたカードから温かいスープとパンを開放して随行する御者たちに配りながらロセリがそう答えた。


「そろそろ出発します。

 荷物を待っている多くの人のためにもうひと頑張りしましょう」


 ロセリは食事の終わった御者たちにそう声をかけて進行を促し自らも馬車へと乗り込んだ。

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