第156話【国境越え】

「ダルべシア国所属のロロシエル商会筆頭御者のトトルです。

 アランガスタの王都から仕入れた商品を運んでおり、ダルべシア王都の本店へ向かう予定です。

 こちらが積荷のリストになりますのでご確認ください」


 関所に着いたトトルは事前に作っておいた商品のリストを役人へと手渡し内容の説明をする。


「だいたいいつもと同じ荷物内容のようだが少しばかり数か多いな。

 馬車の台数はいつもどおりだが一体どうやってこれだけの品を積んでいるんだ?」


 荷物検査の担当者はトトルとは顔なじみの様子で気軽に話を聞いてくる。


「旅の途中の荷物持ちを雇ったら凄く優秀だっただけですよ」


「なんだそりゃ?

 荷台に効率よく積み込む達人でもいたのか?」


「まあ似たようなものです」


「なんだかよく分からんが、なんにしても商売がうまくいくと良いな。

 この後はいつも通りにマーグの街を経由して王都へ向かうんだろ?

 このところ道中の治安不安が聞こえてくるようだから気をつけるようにしてくれ。

 まあ、あんたの商会はきちんとした護衛を連れているからそうそう襲われることはないと思うがな」


 役人の男性はそう言って税額の書かれた紙をトトルに渡す。


「それは気になる情報ですね。

 実は先日、私たちの商隊を盗賊が襲ってきましてね。

 もちろん返り討ちにしてやりましたが警戒を続けるのも必要と考えています。

 ですので今回はマーグの街経由で王都へ向かうのではなく日頃はあまり行かないいくつかある村をまわりながら話を聞いてみたいと思ってます」


「なんだって!?

 あんたの商隊を襲う盗賊が居たのか?

 まったく馬鹿な事をする盗賊やつらもいたもんだ。

 まあ、とにかく気をつけて行ってくれ。

 知り合いの商隊が襲われて壊滅とか絶対に聞きたくない話だからな」


「はっはっは。

 私も伊達にロロシエル商会の筆頭御者を務めているわけではありませんからね。

 盗賊の扱いは間違えませんよ」


 トトルはそう言うと役人に指定された金額の入った袋を渡して支払済証明書を受け取り馬車の御者台へと乗り込んだ。


「では、出発いたします。

 前方分かれ道を左に向かい、日が落ちるまでにベリルの村へ到着させますのでしっかりとついてくるように」


 トトルは後ろに控える馬車の御者に向けて指示を出してから手綱をひいた。


「ベリルの村まではだいたい半日と少しの予定ですが途中休憩や馬の調子次第で少しばかり遅れるかもしれません。

 それと道幅が本線にくらべて狭いところがありますので万一馬車同士がかち合えば躱すのに時間がかかるかもしれません」


 トトルが御者台の上から後ろに乗っている僕たちに今後の運行予定とトラブルの可能性について説明をしたので僕もすぐに自分に出来ることを伝えた。


「その時は言ってください。

 大抵のことならば僕の収集スキルでカバー出来ると思いますから相談してください」


「ははは。

 その時は頼りにしていますよ」


 トトルは微笑みながら僕にそう答えた。


   *   *   *


 関所を出発して2時間ほど進んだ所に開けた水場がありそのほとりでは多くの花が咲いていた。


「この辺りは綺麗な花が多く咲いていますね」


 ちょうどそこで休憩となり馬車から降りたノエルが咲き乱れる花に感嘆の声をあげる。


「このあたりはまだまだ人の手が入ってませんのでこういった野草花の群生地となっているようです。

 お恥ずかしながら私どもも移動日数を優先するあまり、こちらのルートを通るのは久しぶりでこのような光景があることを忘れていました」


「商人が利益を考えて行動するのは普通のことですからそれも仕方ないことかもしれませんね。

 それにしても綺麗なお花ですね、少し貰って行っても大丈夫でしょうか?」


 ノエルがそう言って花の側にしゃがみこんで花を見つめる。


「荒らさなければ大丈夫だと思いますよ。

 もともと野草花ですので誰かが売るために植えたわけではありませんから。

 逆に街で売ろうとしてもあまり良い値段はつかないと思いますよ。

 まあ、部屋に飾るくらいならば良いかもしれませんね」


 トトルがそう言うとノエルは僕の方を見て何か言いたそうにしている。


「いいよ。

 必要な分だけ貰っていくとしようか。

 刈り取って切り花として飾る方がいい?

 それとも根元の土ごとにして何処かの花壇に植え替える方がいい?」


 僕がノエルにそう聞くと彼女は少し考えて「無理のない範囲で根元から欲しいです」と答えた。


「分かった。

 植え替えの出来るように手のひらほどの土をつけたまま回収していこう。

 20〜30本ほどあればお店の花壇に植えることが出来るかな?」


「大丈夫だと思います」


 ノエルの答えに僕はうなずいて一本ずつ丁寧に花をカード化していった。


「これで良いだろう。

 カード化していればしおれたり枯れたりすることは無いから帰るまでこうしておけば大丈夫だね」


「ありがとうございます。

 一緒に植え替えをしましょうね」


 ノエルはそう言って優しく微笑んだ。


「そろそろ出発しますので準備をお願いします」


 花の回収が終わったのを見計らってトトルが僕たちにそう告げた。


「ここからならばもう2時間も進めば目的地のベリルの村になります。

 小さな村ですので宿屋は以前訪れた時にはありませんでした。

 そして、その時には雑貨屋に食堂が併設されたお店があっただけという記憶がありますが、もしかするとあれから少しは発展しているかもしれません」


「宿屋がなければ泊まりはどうするのですか?」


「村の広場を間借りして野営をします。

 まあ、小さい村と言っても普通に野営をするよりは格段に安全性は高いですので安心してください」


「なるほど。

 野営に関してはわかりました。

 それに商店があるそうですので必要なものがあれば卸すのもありですよね」


「確かに村に雑貨屋はありますが小さい商店ですので大量には仕入れられないと思いますし、資金もそれほどあるわけじゃないでしょうからあまり商売には期待をしない方が正解かもしれません」


 進み出した馬車の上では「期待はするな」と言われても何かあるかもしれないと密かに期待をする僕たちがいた。


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