第155話【ダルべシア国境関所】

「お待たせしてすみませんでしたね。

 ではダルべシアに向けて出発するとしましょう」


 次の日の朝、待ち合わせ場所にはトトルが他の御者仲間に指示を出しながら僕たちにも馬車へ乗り込むように伝える。


「結局あの盗賊たちの正体は分かったのですか?」


 馬車に乗り込みながら僕はふと疑問になっていた件を質問する。


「確証はありませんが大方の予想どおり商売敵からの妨害行為のようでした。

 しかし、少々度が過ぎていますので証拠を集めて領主様に上申しようと思っています」


「そうですか。

 どこの国でも商売敵というものは何とかして優位に立とうと画策してくるものですからね。

 でしたら今回襲撃が失敗したことにより再度盗賊たちを差し向けてくるか別の方法で妨害してくるかもしれないですね」


「はい。

 ですのでリスクの高いルートを避けて極力安全性の高い場所にて休憩をとるように配慮して進む予定です。

 なので当初より数日時間がかかるかもしれませんことお詫びします」


「わかりました。

 僕たちの旅は急ぐものではありませんので気にせず安全性を優先してください」


「ありがとうございます。

 ではこれからの予定をお伝えしておきます。

 本来ならばベリルを出発してダルべシアの国境関所を通過し、右手の道からマーグの街経由で進む予定でしたが、もし邪魔が入るならばその手前にある少しばかり視界の悪い休憩場所での可能性が高いですので今回はもう一つの左手からの大回りルートを選択しました。

 こちらは中継地点に小さいながらも村がありますので野営より安全性が高いと判断さしたからです」


 馬車を走らせはじめたトトルが御者台からそう説明をする。


「まずはダルべシアへの国境を越えますので関所へ向かいます。

 そこでは身元の確認と商人であれば運んでいる品物のリストを提示しなければなりません。

 品物の内容と量によって税が幾らかはかかりますが、だからといって詐称すると追加で税を徴収される上にあまりに酷いと商会の許可を取り消されることもありますので正直に申請をします。

 ああ、もちろんミナト殿に預けている品物もちゃんと申請しますので安心してください」


 トトルはそう言った後でちらりとこちらを見て微笑んだ。


「商品の通行税ですよね。

 僕の国からアランガスタへ入る時はそういったものは無かったと思うのですけどダルべシアが特別なのですか?」


 僕は疑問に思ったことをトトルに尋ねる。


「そうですね。

 ダルべシアは国が商売をする環境を整備してくれていますので他国に比べると通行税の事を計算しても儲けられるので通行税を出し渋るダルべシアの商人はいないですね。

 そう言ったことからも商人にとってダルべシアは特別であると言っても良いでしょう」


「なるほど、税はしっかり取るけどそれを使って商売に必要なものを整備してくれているのか。

 なかなか面白い政策を取っている国なんですね。

 ならば、商売人にとってはダルべシアは良い国なんですね?」


「まあ、だからこそ激戦区になっていて商売敵もそれなりに出てきてしまうのが玉に傷なんですが……」


「それでも商人ならば商売で挑むべきで通商妨害は商人として一線を越えてしまっていますよね?

 証拠がなければ大丈夫だとでも思っているのでしょうか?」


「……かもしれませんね。

 とんでもない話ですが」


 トトルと僕は先日の盗賊襲撃の話をしながらダルべシアの情報も彼から仕入れた。


「そろそろ関所が見えて来ますよ。

 すみませんが預けていた品物をカードのままで良いので出しておいて頂けませんか?」


「はい。

 いつでも取り出せるようにしていますので安心してください」


 僕はそう言ってからあることに気がついた。


「そうだ。

 今回僕たちはどこかの街で売るためにいろいろと仕入れてきたけれどそれらについても申請をしなければならないのでしょうか?」


「ダルべシアの国に属する街や村で品物を売るつもりならば申請をするべきですがあなた方が商売をするにはまず大きな街で個人商人の登録が必要となります。

 それまでは今までに仕入れた品物を店などに売ることは控えたほうが良いでしょう」


「店などにというと個人ならば大丈夫なんですか?」


「大量の品物、もしくは高額な品物でなければ個人間の取り引きくらいでは問題にはならないでしょうし、そもそも大量の品物を馬車も無く持ち歩く前例がありませんから売るかどうかも分からない品物にわざわざ税を払う必要はありませんよ」


「そういった場合はどうすれば良いのでしょうか?」


「とりあえず今回は申請をせずにおいてどこかの街で品物を大量に売りたいことがあればその街の商人ギルドに登録申請をすればその時点で税が発生しますのでそこで一時金を支払えば安心して売ることが出来ますよ」


「なるほど。

 わかりました、今回はそうさせてもらいます」


 僕がノエルに視線を向けると隣で話を聞いていた彼女は「わかりました」と軽くうなずいて了承した。


「あ、あれがダルべシア国境関所です。

 今は混んでいないようですので比較的スムーズに越えられると思いますよ」


 そう告げるトトルの前方には小さいながらも砦と大きな門が見えてきた。

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