第148話【魔道具の調査依頼】

「……追加の荷物運びですか?」


 僕はトトルが僕を指名した時点でそう切り出すだろうと予測していた。


 当然のことだ、一日滞在を増やすということはそれだけ経費が増えるってことだから商売でそれを取り戻さなければ商売人としては一流とは言えないだろう。


「そうですね。

 それも確かに大切だと思いますが盗賊の中のひとりが馬車に向かって投げた魔核を確保されていましたよね?

 あれを見せてもらえませんか?」


 あの騒動のなかで投げられた炎の魔核を僕が確保していたことをしっかりと把握しているとはさすがトトルと言うべきなのか。


「見せるのは良いですが敵が投げたものを確保したのは僕ですから所有権は僕にありますからね」


 敵が使っていた武器や道具は倒した者にその権利があるがパーティやグループで得た場合は話し合いで所有権を決める場合があるため僕はまず先に所有権の主張をした。


「ああ、別に取りあげようとしている訳ではありませんよ。

 ただ、ああいった魔道具にはそれが作られた地域の特徴が出やすいので、もしかしたら何か手がかりが得られるかもと思ったまでです」


「ではカード化を開放したほうが良さそうですけど投げられたものなので既に作動していると思われます。

 その状態で開放すると熱を発するか最悪の場合、炎が上がるかもしれないので先に調べておきますね」


 僕は魔道具の状態をカード化したままで確認をしてみると予想通りに作動中との表示があった。


「ああ、やはり魔道具は作動中のようてすね。

 これをこのままカードから開放したら側に燃えるものがあれば炎が上がると思いますよ」


「そ、そうかね。

 それは少しばかり困ることになるが、なんとか情報だけても確認出来れば良いのだが……」


「情報だけならばカード化したままでも確認出来ますので何が知りたいかを紙に書いてもらえれば僕が調べてみますよ」


「なに? それは本当かね?

 ならばすぐに準備をすることにしよう」


 トトルはそう言うと十数分後には調べたい事を記入した紙を準備して僕に渡してくる。


「上から優先で頼みます。

 下の方ははっきり言って無理な事を書いてますので出来るところまでで結構です。

 情報の提供を受け次第、報酬はお支払いしますので宜しくお願いします」


「わかりました。

 期限は……明日の朝で良いですか?」


「それで結構です。

 どちらにしても今日は街に滞在しますので必要ならば宿をとって調査をしてもらって構いません」


「ありがとうございます。

 ではお言葉に甘えてそうさせてもらいますね」


「では、私の知り合いの宿を紹介しますのでそちらにお泊りください」


「あ、婚約者も同じ宿に泊まるので二人部屋がある宿がありがたいです」


「大丈夫です。

 そのあたりは宿の受付で話せば対応してもらえますから」


 トトルはそう言うと僕とノエルを宿へと案内してくれた。


「では、明日の朝に伺わせて頂きます」


 宿の前に着くとトトルはそう言ってお辞儀をすると自らは馬車へと戻って行った。


「どうしてこんな経緯になったか理解できないのだけど説明はしてくれるのよね?」


 僕がトトルと別れて宿の受付へ向おうとする後ろで服の背中を引っ張りながらノエルがそう尋ねる。


「もちろん説明はするつもりだから心配しなくてもいいよ」


 僕はノエルにそう言うと宿のカウンターにいる受付嬢に声をかける。


「――すみません、トトルさんに紹介されて来たんですけど今日泊まれる二人部屋はありますか?」


「二人部屋ですか?

 ございますよ。

 何泊をご予定ですか?」


「とりあえず今日をお願いしたい。

 その後は今同行している商隊の日程次第になるのでその都度決めたいと思う」


「ああ、ロロシエル商会の商隊に同行されているのですね。

 わかりました、追加で泊まられるならばお昼までに教えてくださいね」


 受付嬢はそう言って宿泊の台帳をパラパラとめくって部屋の確認をすると僕たちを二階の角部屋へと案内してくれた。


 二人部屋の割には広めの部屋で野営の後のためか余計に良く感じる。


「良い部屋ですね。

 今夜はゆっくりと休めそうです」


 部屋を確認したノエルはそう言うと僕に笑いかけた。


「食事をしたら僕は少しばかり調べ物をするから先に休んでもいいからね」


 僕はトトルに頼まれた魔道具の鑑定をするためにノエルには先に休んでもらうことにしてまずは食事へと向かった。


「この宿の料理も美味しいですね。

 明日からの野営のために何品か注文してカードにしておきますか?」


 既にノエルも慣れたもので時間劣化のないカード収納特有の有効利用を理解して僕よりも先に提案してくれるようになっていた。


「そうだね。

 ちょっと相談してみるとするよ」


 今までの食堂では少なくとも顔見知り程度には通った店ばかりだったので食堂の店主も快く食器ごと売ってくれたがこの宿は一見客である僕たちに食器ごと売ってくれるかは未知数であったのでまずは交渉から始めなければならなかった。


「すみません、この宿の店主か料理長と話がしたいのですが呼んでもらえませんか?」


 僕は店員に声をかけてそうお願いをすると青い顔で慌てて聞いてくる。


「お客様、何か料理に不備でもありましたでしょうか?」


「ああ、すみません。

 料理に関しては大変美味しくいただけましたので不備とかではないのですが少々特殊なお願いをしたいと思いまして……」


「ええと、どういった事でしょうか?」


「実はこのお店の料理が大変気に入ったので持ち帰りたいのですが、そうすると容器ごと売って頂く必要がありましてそれを許可してもらえるかどうかをお聞きしたかったのです」


「料理を容器ごと持ち帰るですか?

 わかりました、聞いて来ますので少々お待ちください」


「よろしくお願いします」


 店員の女性は軽くお辞儀をすると店の奥へと向って行った。

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