第149話【旅のお弁当】
「料理を持ち帰りたいと言ってるのはあんたたちかい?」
僕たちが食事を進めていると先ほどの店員が中年の女性を連れて僕たちのテーブルへ戻ってきた。
「あなたがこのお店の店主ですか?」
「ああ、あたしがこの宿の店主をやっているリザだよ。
それでうちの料理を気に入ってくれたのはありがたいけど、料理ってのは作りたてを食べてもらうのがうちの売りなんだよ。
だからいくらここで美味かったと思っても持ち帰って冷めた料理を食べて不味かったなんてなれば料理に対して失礼にあたるだろう?
なんで基本的に持ち帰りはやってないのさ。
残念だけど諦めて直接食べに来てくれると嬉しいわね」
リザはそう言うと手をひらひらとして笑顔で戻ろうとした。
「じゃあ、いつでも出来たてを食べられるのなら良いですか?」
「は?」
「ですから、冷めた料理を食べて不味いと思われるのが我慢が出来ないのですよね?
でしたらいつでも出来たての美味しいままで持って帰るのならばいいんですよね?」
「いったい何を言ってるんだい?
そんなことそれこそ時間を止めでもしなけりゃ無理な話だよ。
馬鹿言ってないで出された料理を冷めないうちに食べちまいな」
リザはそう言って取り合おうとしない。
「料理の時間を止めることくらい出来ますよ」
「なんだって?
あたしはそんな冗談は好きじゃないんだよ。
――しかしあんたもしつこいね。
分かったよ、じゃあ一品だけ作ってあげるからどうやって持って帰るか見せてみなよ。
それであたしが納得したならば好きなだけ持ち帰り用の料理を作ってやるさ」
「わかりました。
ありがとうございます」
あきれた声でリザがそう言うと「少し待ってな」と言って厨房へと入って行った。
それから約10分ほど待っていると皿に料理を乗せてリザが厨房から現れ「ほら約束の料理だよ。これをどう保存して運ぶのか見せてもらうよ」と言ってテーブルに置いた。
「実に美味しそうな料理ですね。
ぜひとも持ち帰って旅の食事に食べたいです」
「そう言ったお世辞はいいんだよ。
それよりも早く見せておくれその方法とやらを」
リザは厳しい表情のまま僕にそう言ってから腕を組んで待った。
「わかりました。
では……この料理をカード化させてもらいますね。
――
僕の手にしていた料理はお皿ごと淡く光を灯すと一枚のカードになり僕の手に収まった。
「これでいつでも出来たての料理を食べることが出来ます。
もちろんこうしてカード化してある時は時間が停止していますので品質の劣化がありませんので腐ることもありませんし冷める事もありません。
これで納得してもらえますか?」
僕は説明と共にカード化したものをリザに渡す。
「それでこれはどうすれば元の料理に戻るんだい?」
「ああ、それはスキルで開放すれば戻りますよ。
そのカードを貸してください元に戻しましょう」
僕はそう言ってリザからカードを受け取るとテーブルに置いて開放スキルを発動させた。
するとカード化された料理が出来たてのままテーブルの上に現れた。
「……こいつはおどろいた。
今のはカード収納ってスキルなんだろ?
確かにそんなスキルがあるのは知っていたけど料理を皿ごとカードにするほどの使い手は今まで見たことないよ。
しかも品質劣化無しとは恐れ入ったね。
確かにそれならばいつでも、それこそ旅の間でも出来たての料理が食べられると言うのもうなずけるわ」
「納得してくれて良かったです。
では約束どおり持ち帰り用に料理の追加をお願いしたいです。
もちろん食器ごとになりますのでその分の料金も上乗せして構いませんので」
「食べた後の食器はどうするんだい?」
「洗ってからカード化して持ち歩く予定です。
特にかさばるわけでもないですし、もし後日ここを訪れることがあればお返しすることが出来るかもしれませんね」
「わかったよ。
じゃあ持ってきたら食器代金の半額を返すとするよ。
それでいいかい?」
「もちろん良いですがいつになるかわかりませんよ?」
「ははは、まあ私が店をやっている間に限っとくよ。
それで料理はどのくらい必要なんだい?」
「そちらが準備できる範囲になると思いますが最低でも金貨1枚分は欲しいですね」
「金貨1枚かい……それは相当気合いを入れて作らないといけないね。
約50皿になるが全部違うものを作るのは無理だから10種類の料理を5皿ずつでいいかい?」
「もちろん大丈夫です。
ありがとうございます。
では、料金は先にお支払いしておきますね」
僕はそう言うとポーチから金貨のカードを取り出してカード化を開放しリザへ手渡した。
「……先に料金を支払われちゃあ作らない訳にはいかないね。
それじゃあ出来たものから運んでくるから持ってきた端からカード化しちまいな」
「わかりました。
よろしくお願いします」
僕はそう言って残りの料理を平らげて食後の紅茶を飲みながら料理が出来上がるのを待った。
「ボア肉のステーキ雷麦のパン挟みだよ」
「
「カリカリ豆と跳ね鳥の香ばし炒めだよ」
「
「春野菜の蒸焼きミルクスープだよ」
「
「暴れ牛のテール焼きと香草の和え物だよ」
「
僕の予想以上のスピードで次々と料理が出来上がり僕の前に運ばれてくる。
ものの1時間もたっただろうか今まで店員が運んできていた料理をリズが自ら持って姿をあらわした。
「こいつで最後だよ。
黄金豚のロースとガガモ鳥の香辛料まぶしだ。
どうだい?
金貨相当に見合う料理だったかい?」
そう言って自信の笑顔を見せるリズに僕は笑顔を返しながらうなずいて「ええ、もちろん十分に見合うものだったと思ってます」と答えてから彼女の運んできた最後の料理もカード化をした。
全ての料理をカード化した僕は「ありがとうございました。どれも食べてみたかったですけれどお楽しみは後にして明日の朝は今の料理以外でお願いしますね」と言ってノエルと共に席を立って部屋へと向かった。
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