第136話【ふたりだけの時間】
「ミナトさん! ミナトさん!」
ノエルは感情が高ぶり僕の名前を呼ぶことしか出来ずしばらく僕の首から離れずにおり、僕はその間ずっと片手を彼女の背中に反対の手は彼女の頭をずっと撫でていた。
「――落ち着いたかい?」
数分後、ようやく落ち着きを取り戻したノエルは自分がミナトに抱きついていることを見ている人がいるのに気がついて顔を真っ赤にしながら慌てて離れた。
「もう大丈夫ですよ。
あなたを縛っていた首輪はその効力を失って外すことが出来ました」
僕はノエルの顔を見て微笑みながらそう伝えた。
「いろいろと話したい事がありますがこのままここに居たら迷惑になりますので宿に戻りたいと思います。
明日の午後にもギルドに顔をだしますのでもう一つの件はその時に話したいと思います」
僕はルルベたちにそう告げるとノエルの手を引いてギルドを後にした。
* * *
「――お帰りなさい」
宿に戻ると受付から声がかかったので連れと合流したのでもう一部屋借りるようにお願いをしてその部屋をマリアーナにあてがった。
「今日はノエルとゆっくり話をしようと思うんだ。
これまでのことを話すのは当然としてこれからの事も決めないといけないからね」
食堂で食事をとりながらマリアーナにそう伝えると彼女も素直にうなずいて「私も報告書の整理があるから一人の方がいいわ」と了承をしてくれた。
「では、明日の昼食後にギルドへ顔を出すという事でお願いします」
食事を終えた僕はマリアーナにそう伝えるとノエルと共に部屋へと戻っていった。
――ギシッ
部屋に戻ると僕たちは横並びにベッドへ腰掛けて話を始める。
主にノエルをカード化してからの事を伝えるのが多かったが旅の中で手に入れたノーズベリーを食べさせた時にはノエルの顔がほころんでいた。
「――そうなんですね。
あの時からまだ数ヶ月しか経っていないんですね。
正直、あの時は数年かかるかもしかしたらずっと外せないと思ってました。
私の記憶ではいまだにあの禍々しい首輪の感触と自分では意図しない身体の感覚だけが鮮明に残っています。
――当然ですよね。
ミナトさんのスキルによって時間が止まっていたのですからあの瞬間はつい今しがた起こったことなんですから」
ノエルは今は自由になった両手を見つめながらそうつぶやくように話す。
「ノエルさんが気に病むことはないんですよ。
あれは全てザガンがおこした愚かな行為だった。
あなたはその被害を受けただけだったのですから」
僕はそう言って彼女の肩に手をかけて僕に引き寄せる。
「うん。
頭ではそうなんだと理解しているつもりなんだけど気持ちがついていってないみたいで、しばらくは事件のあったお店には帰りたくないかな」
(確かに僕にとっては数ヶ月前の事件だったが彼女にとってはたった今起こった事と変わらないのだからそう思うのも当然かもしれないな)
「まだ数日この王都に滞在してからゆっくりと帰ったら一ヶ月くらいはかかるけどそれでももう少し時間をかけた方がいいかな?」
僕は彼女の心のケアを優先したくてそう問いかける。
「……たぶん、もう少しかかる……かな?
どのくらいかかるかよくわからないけれど……」
「分かったよ。
ノエルさんが戻りたいって思えるまで時間をとるよ。
具体的にどこでどうるすかはマリアーナさんやルルベさんと話をして調整しないといけないだろうけど無理やり連れて帰ることはしないと誓うよ」
僕がそう宣言するとノエルは目を潤ませて僕に頭を預けて「ありがとう」とお礼を言って僕の頬にキスをした。
「今日は一緒に添い寝ても良いですか?」
ノエルが顔を赤らめながら今にも消え入りそうな声でそう告げる。
(まだ正式に結婚したわけではないが今の彼女の精神状態はまだ不安定だからそれで落ち着くなら……)
僕はそう結論を出し、彼女に向かって優しくうなずいた。
「良いですよ。
まあちょっと、いえ、かなり緊張しますけどね」
僕は照れくさそうにそう言うとベッドの端に横になり彼女を側に迎え入れ、これからの事やお店の事を眠るまで話続けた。
* * *
「昨夜は楽しかったですか?」
次の日の朝食のときにマリアーナがそんな質問をしてきた。
「ええ、もちろん」
どことなく意味深な言い方ではあったが予定よりも随分と早く隷属の首輪を外すことができて彼女と笑って話せたのだから楽しくないはずがない。
「それは良かったです。
ところで帰国はいつにしますか?
本来ならばすぐにでもと言いたいですけど、こちらのギルドの手続きが終わらないと私の仕事が終わらないんですよね」
「ああ、それについては相談があるのですが……」
僕は昨夜ノエルと話しことをマリアーナに伝えて判断を仰ぐ。
「……事件の衝撃で現場になったお店に戻る決心がつかないと言われるのですね。
確かにノエルさんには昨日あった事になりますから心の整理がつかないかもしれませんね。
ただ、私だけがロギナスに帰ると報告書をどう書くか悩ましいところですね」
マリアーナは真剣にそう考えているようで僕たちがまだ帰らない事には反対はされなかった。
「とりあえずギルドに行って話をするしかないですね」
いくつか案をだしたがしっくりくるものがないまま時間がきたのでマリアーナがそうまとめて僕たちは宿を出てギルドへ向かった。
――からんからん。
もう何度もきたギルドでは顔なじみの職員も増えてすぐにルルベを呼んできてくれる。
「今日も第3応接室へお願いしますね」
奥から現れたルルベは僕たちにそう伝えると側にいる職員に幾つか指示をだしてから一緒に部屋へと向かった。
「えっと、彼をギルドに引き渡せば良いんですよね?」
もともと今日はそのつもりで来たのだから彼をカードから開放する場所を決めてもらえばいつでも出来るように準備はしてきていたがどうもルルベの表情が暗いような気がした。
「何か不都合がありましたか?」
その表情が気になって僕かルルベにそう聞くとあからさまに動揺した表情となり考えこんでしまう。
「いったいどうしたんですか?
昨日までは彼を捕まえて強制労働をさせると意気込んでいましたよね?」
ルルベは僕の質問には答えずに一枚の紙をテーブルに置いた。
「読んでも良いんですか?」
僕はルルベがうなずくのを確認してからその紙に書かれている事を読んでいった。
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