第135話【魔道具と魔石の関係】

 ――ズズズ。


 形のない魔力の塊は黒い霧となり首輪の魔石に吸い込まれていくたびに魔石の色が赤く深く輝いていった。


「この魔石が満たされれば首輪が外せれるんですよね?」


 いくらでも魔力を吸い込む魔石を見ながら僕はゾラにそう尋ねた。


「俺もそんなやり方は試したことがないが理屈からすると間違いないはずだ。

 魔道具につけられている魔石はもともとそれほど多くの魔力を溜め込めるものではないんだ。

 それに俺たちが入れ込める魔力もたかがしれているからな。

 だから許容量を超える魔力を無理やり押し込めば魔石が壊れてしまうだろう。

 魔道具は魔石が壊れてしまえば効力を失うから簡単に壊す事が出来るという訳だ」


 ゾラの説明を聞きながらガーレンから集めた魔力をどんどん押し込んでいくがいつまでたっても吸い込みが終わる気配がない。


「これ、足りるのか?」


 僕は嫌な予感しかしない状態でもし駄目だったときの代替え策を必死に考え出す。


「ゾラさん。

 魔道具と魔石の関係ってどうなっているんですか?」


 とっさに思いついたことを裏付けるように僕はそう問いかける。


「魔石は魔道具を動かす動力源だ。

 だから魔石がなければ魔道具は動かないし、その効力も発揮しないぜ」


 ゾラがそう答えた時、僕の手にあった魔力カードがその形を留めることが出来なくなり最後の魔力を使い切って空に消えた。


「た、足りなかったのか?」


 首輪の魔石は紅玉のごとく真紅に染め上がり限界近くまてきているように見えたがその姿はまだ破壊するようには見えなかった。


「失敗だったな」


 だれが言ったかそんな言葉が皆の共通認識となりかけたその時、僕の頭にさっきの言葉が蘇った。



「そうか!

 そうだったのか!!」


 その時、僕から出てきた言葉は諦めの言葉ではなく希望の言葉だった。


超カード収納スーパーストレージしろ!」


 僕は以前、ノエルに着けられた隷属の首輪だけをカード化しようとしたら首輪の効力でカード化を拒否されたから首輪を着けられたノエルごとカード化して時間を止めるしかないと思いこんでいたんだ。


 だが、魔道具は魔石を動力源として動いているから魔石がなければ魔道具はその効力を失うことからゾラの言葉どおりに魔石に魔力を許容オーバーになるまでつめこんで破壊するのが最適解だと思いこんでいたがそれが間違いだったんだ。


「魔石を許容オーバーにするよりも魔石の魔力を全て抜いてしまえば魔石はただの石になる。

 魔道具は魔石のエネルギーがなければその効力を失うから首輪の拘束も無くなるはずだ!」


 僕はそう叫びながら真紅に染まった魔石から魔力の全てを抜き出してカードにした。


 ――パキッ


 全ての魔力を吸い出された魔石はその光を失いヒビが入ったと思うと同時にボロボロに崩れ砂のように空に霧散した。


「ノエル!」


 魔石が破壊された事で首輪の効力が失われたノエルは張りつめていた気が緩んだか気を失い僕へと倒れ込んできた。


 僕はそれを全身で受け止めてからそっと彼女を抱えてソファへ寝かせる。


「良かった。

 首輪の効力は失われたみたいだ」


 ノエルの様子を確認した僕は思わず安堵の言葉を口にした。


「なっ!?

 魔力を抜いて魔石を破壊しただと?」


 信じられないやり方で魔石が壊れたのを見てあ然としていたゾラが正気に戻り、側に置いていた道具を手に僕とノエルのところへ歩み寄る。


「すまないが首輪を見せてもらえるか?」


 ゾラの言葉に一瞬だけ迷うも今まで見たことのなかった真剣な表情に僕はうなずいてノエルの前をあけた。


「……ふん。

 やはり隷属の首輪も所詮は魔道具ってことか、魔石が無ければただの皮の首輪と同じだな」


 ゾラはそう言うと手にした工具で慎重にノエルにはめられた首輪を切り彼女の首からそっと外した。


「まさか、こんなやり方で魔道具を無力化するやつがいるとはな。

 まったく驚きだぜ」


 ゾラの言葉にようやくルルベとマリアーナが目の前で起きたことを理解してゾラに同意をした。


「本当ね。

 他に出来る人が居るとは思えないけど魔石から全ての魔力を吸い出すとか基本的に魔道具の敵よね。

 今回みたいな悪意ある使い方をされた時にはこの方法が一番安全に解除できることが分かったわ」


 ルルベがそう言ってため息をついた。


「さてと、後始末をしないといけないわね。

 あなたも彼女とゆっくり喜びを分かち合いたいでしょうから今日はもう宿に戻っても良いわ。

 また明日にでも顔を出して貰えると助かるんだけど……」


「わかりました」


 ルルベの言葉に僕がうなずくと彼女は笑顔で「ありがとう」と言って頭をさげた。


「ところでノエルさんはどうやって宿まで運ぶつもりなの?」


 宿に帰ろうとする僕にマリアーナがそう聞いてくる。


「もちろん、ここで起こして一緒に帰りますよ。

 あ、宿に戻ったらマリアーナさんは別の部屋をとってくださいね。

 いまの部屋はベッドが2つしかありませんから」


 ポーチから気付け薬のカードを取り出しながらマリアーナにそう告げると少しばかり不満そうな顔をしたがノエルを見て「分かったわよ」と了承をしてくれた。


 それを見た僕は「ありがとうございます」と言ってカード化を解いた気付け薬をノエルに飲ませると次第に彼女の顔色が良くなりやがて目を覚ました。


「おはよう。ノエルさん」


「ミ、ミナト……さん?

 私どうなったのかしら?」


 状況がうまく飲み込めていないノエルは僕の腕の中で記憶の整理をする。


「あ、首輪……。

 私はザガンに命じられてミナトさんの首を締めようとして……そして……」


 ノエルは思い出したくない記憶をたぐり寄せながら自らの首に手をあてる。


「え? 首輪が……首輪がないわ!

 あれは夢だったの?

 いえ、そんなことはないはずよね。

 え? だってあんなに鮮明な記憶があるのにどうして首輪が無いの?」


 混乱する記憶を戸惑うノエルの頭を優しく撫でながら「約束どおり首輪を外す方法を見つけましたよ」とそっと伝える。


「やっぱり夢じゃなかったんだ」


 身体の自由が効くのを認識したノエルは僕を見つめながらその瞳に大粒の涙を溜め込んでいく。


「親切で優秀な人たちが大勢居たから思ったよりも早くこの瞬間にたどり着けたんだ。

 約束……守れて良かったよ」


 ノエルの涙を見て僕も込み上げてくる感情を必死に抑えながら笑顔でそう告げるとノエルは溜め込んでいた涙をこぼしながら僕の名を叫んで僕の首にすがりついて泣きじゃくった。

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