第137話【思わぬ事態】

「これはいつ届いたんですか?」


 僕は書類から目を離してルルベにそう問いかける。


「今朝方に緊急便でギルドに届いたんです」


「何が書かれているのですか?」


 マリアーナが気になって僕から書類を受け取り内容を読んでいく。


「これは少々面倒なことになりましたね」


 書類を読み終わったマリアーナがため息をついてそう答える。


「どうされたのですか?」


 僕の隣に座っているノエルが不安そうな表情で僕に聞いてくる。


「ザガンの取り引きしていた商人に捕縛命令が出たそうだ。

 捕縛依頼を出したのはザガンの父親のテンマートだ。

 ザガンが行方不明になったのはその商人から魔道具を買った直後だとの情報をテンマートが掴んだようでその線から調査をするつもりらしい」


商人アルルを引き渡すつもりですか?」


 マリアーナがルルベにそう問いかけると彼女は「今は何とも言えません」と言う。


「調査の手が伸びてくればここの鉱山にも調査が入るてしょうからアルルと一緒にザガンをここの鉱山に置くのはマズイですよね。

 見つかれば引き渡し要求をしてくるでしょうしザガンからの証言で僕たちを犯罪者扱いして捕まえにくる可能性も否定出来ませんね」


「おそらくだけどほぼその通りになると思いますね。

 ですのでこちらのギルドとしてはアルルはもちろん我が国の商人なのでそのまま罪を償わせますがザガンについては今この場で裁くのはリスクが高いので難しいかと思われます」


 ルルベは苦渋の表情でそう答える。


「……まあ、それが現実的な判断だと思いますよ。

 僕たちにしてもザガンが行方不明のままならば向こうも因縁をつけて来ても白を切ることが出来ますからね」


 僕はそう言うとルルベにある提案をする。


「そちらが良ければザガンとその部下は僕がそのまま連れて行きますがその事実を他には漏らさないようにして頂きたいんです」


「彼をどうするつもりですか?」


 ルルベはあごに手をあてて考えこむようにしてそう聞き返す。


「まだ決めてはいませんが僕は彼を許すつもりはありませんので条件が揃えばそれ相応の罰を受けさせるつもりですよ」


「そうですか……。

 わかりました。

 ならばザガンの件についてはあなたに全てお任せしましょう。

 もとより彼はこちらの国アランガスタの住人ではありませんし、魔道具を使った犯罪もそちらの国での事ですのでこの国の法律で裁くのが正解かどうかは分からなかったんです」


 アルルはそう言うと僕に頭をさげて礼をして「お願いします」と締めくくった。


「では、僕たちは早急に王都から離れることにしますね」


「どちらに向かわれるか……は聞かない方が良いですね。

 知らなければ答えようがないですから……」


「せっかくの縁が切れてしまうのは残念ですが仕方ないですね。

 ですが、アランガスタに来た事でノエルが救われた事は間違いないですので感謝しています。

 ザガンの件が落ち着いたらまたお会いできるかもしれません。

 では、またお会い出来ることがありますように」


 僕はルルベとゾラにそう言うとノエルたちと共にギルドを後にした。


   *   *   *


「時間はあまり無いと思った方がいいね。

 今からだと準備しても出発が夕方になってしまうだろうから今日は買い物をして明日出発することにしよう」


 僕たちはギルドを出てから商業施設が立ち並ぶ通りの食事処の個室でこれからの事を話し合っていた。


「ミナトさんはこれから何処に向かうつもりですか?」


 明日出発するとの意見にマリアーナがそう聞いてくる。


「ロギナスにはまだ戻らない方が良さそうだしこの王都近辺の街は情報が漏れる危険があるから反対の国へ行ってみようと思ってるよ」


「そうですか。

 ……では、私は国に戻ることにしますね。

 本当はもう少しミナトさんの側でいろいろと見て見たかったのですけど、私も立場がありますのでこちらでの仕事が完了したならば報告をしなければならないのですよ」


「……ああ、そういえばマリアーナさんはギルドのサブマスでしたね。

 あまりにも自由人でしたのですっかり忘れていました」


「……言ってくれますね。

 まあ、それは置いておいてギルドへの報告をどうするかですね。

 今回私が受けている任務はミナトさんをアランガスタへ無事に送り届ける事なのでそれに関しては問題ありませんが大義名分として魔道具の制作依頼をするためとしているので何か成果を示す必要があるんです」


「具体的にどんな魔道具を頼むつもりだったんですか?」


「特に決めていないのですけど仕事の効率が上がるものがあれば実績として申し分ないですね」


「仕事の効率が上がるもの……ですか」


 僕はそうつぶやいて何かないかと考え込む。


「……作れるかどうかは分かりませんがアイデアだけで良いなら幾つかありますが聞いてみます?」


「そうですね。

 何かヒントがあるかもしれませんのでお願いします」


 マリアーナはそう言うとメモをとる準備をする。


「それ、それですよ。

 たとえば『自動書記オートゴーレムペン』とか。

 僕たちはスキルで鑑定を持っていますがそうでない人が鑑定出来る『鑑定メガネ』とか……。

 あとは書類の複写をする魔道具とかあれば書類の整理が楽になると思うんですけど……。

 やっぱり無理ですかね?」


 僕が思いつきで話す魔道具の案にマリアーナは笑うでもなく真剣にメモをとり「なるほど、それは画期的ね」と答えた。


「……今の話をルルベに持っていけば動いてくれるかもしれないから私はもう少し留まる事にするわね」


 少し考えたマリアーナはそう結論を出して「もし、採用されたらアイデア料はあなたに渡さないといけないから必ずロギナスへ戻って来なさいよ」と言って笑った。


「アイデア料はともかくロギナスにはノエルの家もあるし知り合いもたくさんいますので必ず戻りますよ。

 少しばかり後になるかもしれませんけどね」


 僕はそう言ってマリアーナにつられて笑い返した。


「……となると移動の手段も確保しないといけないな。

 馬車はマリアーナさんのものだし、そもそも僕は御者の経験がないから運転も出来ないから馬車を買っても仕方ないんだよな」


「私、出来ますよ……御者」


 僕が悩んでいると突然ノエルがそう言った。


「私は商人スキルがあるので御者の訓練も受けています。

 普通に走らせるだけならば問題なく出来ると思いますよ」


 ノエルの発言を受けて僕は頭の中で効率とリスクの計算を始めた。

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