第131話【尋問と交渉①】

 一週間後、僕たちはガーレンよりも先に商業ギルドへとたどり着いていた。


「これが今作らせている魔道具の契約書よ。

 これの代金はギルドの方で準備しておいたわ。

 まあ、彼を油断させるためだけに注文した魔道具だからあなた達に押し付けるわけにはいかないからね」


 ルルベは僕たちに契約書を見せてそう教えてくれる。


「疲労軽減の指輪でしたよね?

 性能に問題がなければそのまま僕たちで引き取っても良かったんですけどね」


「そうなんですか?

 ですが、指名依頼料が高いですから普通に購入するよりも割高になりますよ」


「まあ、そうなんでしょうけど性能次第では使えるかなって思いまして」


「ええと……彼はそこまで優秀な魔道具士ではないので過度な期待はしないほうが良いかもしれませんよ。

 なんせ不完全な魔道具を市場に闇で流すくらいなんですから……」


 ルルベは苦笑いをしながら僕にそう言う。


「まあ、そうですね。

 彼が不完全な魔道具を流さなければノエルがこんな目に合うことも無かったかもしれないですからね。

 ですが、もちろん売ったのも悪いですけれど買って使ったあの男が一番悪いのは間違いないと思ってますよ」


「……あなたから見ればそうなんでしょうけど、特に今回のような特殊な魔道具についてはこの国の規則では残念ながら同罪どころか売った方がより重い罪になるの。

 これが普通に使用される生活魔道具程度ならば罰金くらいで済むんですけど今回は魔道具士の免状の剥奪に加えて魔石鉱山での強制労働はまず逃れられないでしょうね」


 ルルベは静かにそう告げるとテーブルにある書類を集めてから僕たちを連れて一番奥の特別応接室へと向かった。


「……こちらになります」


 部屋に入ってすぐにガーレンが職員に案内されてきた。


「とりあえず依頼の品は持ってきたが、この部屋を使うとは聞いてなかったぞ」


 部屋に入るなりガーレンがルルベにそう言うと彼女は微笑みながら答える。


「たまたま他の部屋が予約で空いてなかっただけよ。

 それに魔道具制作の依頼だし、あまり周りに聞かせたくなかったからこの部屋がちょうどいいのよ」


「ふうん。そんなもんかい。

 まあ、とりあえず依頼者も揃ったから依頼品の確認をしてもらおうか?

 とうぜん契約書と報酬も準備してあるんだろ?」


 ガーレンはそう言うと持ってきた魔道具をテーブルの上に並べた。


「依頼品の疲労軽減の指輪が2つだ。

 素材も良質なものを使ったから仕上がりも問題ないはずだぜ」


 ガーレンは自信満々にそう告げる。


「確認させてもらいますね」


 ルルベは置かれた指輪を手に取り鑑定スキルで品質と効力の確認をする。


「驚いたわね。

 ガーレンさん、いつの間にこのレベルのものが作れるようになったのですか?

 たしか先月頼んだ魔道具はまだこのレベルには足りなかったと思うのですが」


「いつまでも成長しないわけにはいかないからな。

 成長薬を使ってスキルレベルを上げたから今まで扱えながった金属も使えるようになったからこの程度の魔道具なら楽勝になったんだぜ」


「ほう……スキルのレベルアップですか。

 なるほどそれならばこの品質も納得ですね。

 これならば次の依頼もこなせることでしょう」


「おう、それそれ。

 前はどんなものかはぐらかされたが今回はきちんと説明があるんだよな?」


「ええ、ですがその前にこの魔道具の依頼達成の書類と報酬をお渡ししますね」


 ルルベはそう言うとガーレンに依頼完了書と報酬の入った袋を渡す。


「ん、確かに……。

 それで次の依頼はなんだ?」


「ええ、少しばかり難しいかもしれませんが『隷属の首輪』の制作を依頼したいのです」


「隷属の首輪だって?

 ギルドがそんなものをこの場で直接依頼するとなると依頼者はあんた達だよな?

 見たところ貴族様ではないようだがギルドの許可は得ているようだからあまり深くは聞かないでおくぜ。

 だが残念なことに今のレベルでも隷属の首輪の成功率は3割ってとこだ。

 つまり7割は失敗しちまうから素材の無駄が怖くて作れやしないな。

 だいたいどこから俺が隷属の首輪を作れるなんて聞いたんだ?」


「それは非公開情報ですのでお話出来ませんがあなたが隷属の首輪の制作をしているとの情報を得てましてならばとお話をさせてもらっただけですよ」


 ルルベの言葉にガーレンの表情から余裕がなくなるのがはっきりわかったがまだ肝心の情報は持ってないだろうと去勢をはっていた。


「そういえば……」


 雲行きの怪しい話から急に思い出したかのような口ぶりでルルベがガーレンに問いかける。


「スキルの成長薬って相当高価なものてすよね?

 万年Bクラスの魔道具しか納められなかったあなたが買えるものではないはずなんですが一体どこからそのお金を捻出したんですかね?」


「そ、それは……。

 た、貯めていたんだ」


「へぇ、貯めて……ねぇ。

 お酒好きなあなたが必死にお金を貯めているところが全く想像出来ないんですけど。

 もしかして横流し……してました?」


「し、知らねぇ」


 もちろん簡単に口を割るはずもなくガーレンはその場しのぎの言い訳をしながら帰ろうと席を立とうとする。


「まだ話は終わってませんよ」


 ルルベがそう言うと部屋の扉が勝手に閉まる。


「お、おい!?

 一体なんのまねだ?」


 慌てるガーレンにルルベはニコリとして質問を続ける。


「王都魔道具管理法は当然ご存知ですよね?

 王都の魔道具士資格を得る時には必ず教わる内容ですので……。

 その中にあるギルドを介さず市場に魔道具を横流しした場合の罰則が書かれていたと思いますが憶えていますか?」


「あ、ああもちろん。

 バレたら売り上げた金額の2倍の金額を没収されるんだろ?

 バカらしくてやる奴なんていないんじゃないのか?」


 あくまでガーレンは一般論としての感想を言うにとどめる。


「そうですね。

 しかしギルドを介して依頼を受けても4割の手数料が引かれるのでそれを良しと考えない一部の魔道具士の方が居るのも事実ですので念のためにお聞きしたまでです。

 そして……」


「まだ何かあるのかよ」


 ガーレンはうんざりした表情でルルベに対して不満を口にした。

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