第130話【尋問の下準備】
「もう一つだと?」
「はい。
ですが、こちらは少しばかり難しい魔道具と聞いてますので、今回お願いした指輪が確実に出来てからその出来具合を見て改めて依頼をしたいと思っています。
ですので指輪の納品時にも私たちと面会をお願いしたいのです」
「なんだ、そんな事か。
いいぜ、たっぷりと報酬をはずんでくれるのならば何だって作ってやるよ。
とりあえず指輪2つだな、1週間後にギルドまで取りにくればいい。
報酬を忘れんじゃないぞ」
「ガーレンさん。
ギルドを通して受けた依頼の報酬は先払いでギルドに預けてありますから未払いは発生しませんから安心してくださいと前にも伝えてますよね」
ルルベはため息をついてガーレンにそう伝える。
「ああ、そうだったな。
なら安心して作ることが出来るな。
それじゃあ俺は戻って魔道具を作るからこれで帰るぜ。
一週間後にまたくるぜ」
ガーレンはそう言い残してギルドを後にした。
「……あれはギルドを通さない仕事も相当受けているな」
ガーレンが帰った後でゾラが部屋に入ってくるなりルルベにそう話す。
「やっぱりゾラさんももう思いますか」
「俺と違ってあいつは村で魔道具を作っているはずだから基本的にはギルドを通して依頼を受けるしか仕事は無いはずだ。
報酬だってギルドからしか入るところは無いはずなんだが、それをあいつは依頼者に報酬を忘れずに準備しておくように念をおしていたからまず間違いないだろう」
「魔道具士の人が依頼者から直接依頼を受けたり報酬を貰ったりするのは駄目なんですか?」
魔道具士への依頼ルールを知らない僕がルルベにそう聞くと彼女は苦笑いをしながら教えてくれた。
「普通に街で魔道具士の店をしている人がいたら依頼者との直接取り引きをするのもおかしくはないんだけど、この王都に関してはありえないことなんですよ。
王都では個人の魔道具士が単独でお店を持つことが禁止されているんです。
ですから王都の魔道具士は全員ドウマ村で活動をして商業ギルドからの依頼をこなして報酬をもらうのが一般的なんです。
ですからもし王都で個人的に魔道具の売買契約をしているとすれば王都商業ギルドの規約違反で処罰の対象となりますよ」
「それならば彼はどうやって依頼者と接触しているんでしょうか?」
「誰かドウマ村へ入ることの出来る権限者が橋渡しをしているかガーレンのやつが時々王都に買い物に来る名目でこっちで会っていたかもしれない。
どちらにしても本人から聞き出すしかないみたいなので次に会った時は逃さないようにしてくださいね」
「逃さないように……って犯罪者みたいですね」
「あら、ギルドの規約違反をしているとなったら王都では立派な犯罪者ですよ。
ゾラさんだってニードルでやっているから見逃されているけど王都に戻って来て同じ事をしていたらすぐにお縄になること間違いないですけどね」
「ま、まってくれよ。
俺はちゃんとニードルの商業ギルドを通して仕事を受けているぜ」
「あら、そうでしたか?
自分の小さな工房で好きなものを作っては家賃と酒代にするために直に街の魔道具屋に売ってる事は既に調査済みですよ」
「げっ そこまで調査されてるのかよ。
いや、まいった俺の負けだから勘弁してくれ」
「まあ、王都でさえやらなければあまりひどくない限り大目にみてもいいですけどやりすぎたらアウトですよ」
ルルベはゾラにそう言って首を切る真似をして警告をした。
「王都では商業ギルドの力が強いのですね」
「そうですね。
ですが、確かに権限は強いけれどそれは秩序を守るために強くしているだけで決して横暴な要求はしたりしないですよ。
そんなのが発覚したらギルド職員だってすぐに王宮に呼び出されて詳しく尋問されて黒だったら即クビですからね。
だから私たちは人に厳しくするかわりに自分にも厳しくしてるんです」
「それは凄く厳しいですね」
「ですが、それを誇りに仕事していますので王都のギルド職員は離職率が凄く少ないんですよ。
まあ、かなりの狭き門を抜けてきた人たちですから当然かもしれませんけどね。
それではまた一週間後にギルドに来るようにお願いしますね」
「その間は他の事をしていても良いのですよね?」
「はい。
王都の秩序に違反するような事をしなければ自由にして大丈夫です。
あ、ゾラさんはもう少しお話がありますので残ってくださいね」
「うげっ マジかよ」
ゾラはあからさまに嫌そうな表情を一瞬だけしたが諦めた様子でうなずいてその場に残った。
「では、僕たちは街の様子を見に行きますね。
夜は宿に戻ってますので何かあれば宿に言伝するか直接来てもらえると助かります」
僕はそう伝えるとマリアーナと共にギルドを後にした。
「一度普通の依頼をさせて信用させるとかギルドも慎重な方法を取ってるわね。
まあ、裏がとれなければ捕まえても言い逃れが出来てしまうし、もしそんな事になったらこっちの予定も狂うことになるから確実に問い詰めていきたいわね」
「それは当然ですけど、もし言いわけをして逃げようとした時は少しばかり行方不明になってもらおうと考えてますのでくれぐれも僕のスキルについて黙っていてくださいね」
マリアーナはそう言う僕の顔を見てまたひとつため息をついた。
「……まあ、仕方ないわね。
ただし、やることは犯罪になるから証拠は残さないようにしてね。
あと、今の話について私は何も聞かなかったことにするからそのつもりでね」
「わかっています。
もちろんそうならない事が一番良いんですけどね」
僕はそう言ってマリアーナと市場へと向かい面白そうなものが無いかと見てまわった。
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