第132話【尋問と交渉②】
ルルベがマリアーナの方をちらりと見て説明の引き継ぎを示唆するとマリアーナはうなずいて話を続けた。
「いろいろと問題があるのでまだ世間には広まっていませんが上位の鑑定スキルでは誰が作った魔道具か分かるのです」
「は!? そんなの聞いた事もないぞ」
「まあ、そうでしょうけどこれは事実です。
意図的に広めていないのは上位鑑定スキルを使える者が少ないことと、重要な事件などの捜査に影響が出ないようにするためにあえて公表をしていないのです」
「そんな話は信じられないな、それに俺たちの話にいきなり入ってきたあんたは何者なんだ?
どうせただの依頼人じゃあないんだろ?」
部屋から逃げられないと悟ったガーレンはドカッとソファに深く座り込むと不機嫌な態度で睨みつけてきた。
「いいでしょう。
あなたは魔道具の作成者として事件の内容を聞く義務がありますのでお話します。
その後であなたに作成者としての責任を追及しますので心して聞くようにしてください」
マリアーナはそう前置きをするとガーレンの前に座り話を始めた。
「私は隣の国のロギナスという町のギルドでサブマスをしているマリアーナという者です。
少し前に同町にて一般人の女性が黒い首輪をはめられて奴隷にさせられそうになる事件が起きたわ。
幸いにも首輪を使った者はすぐに捕らえられたのだけど女性につけられた首輪が外せなくてその首輪を鑑定したら隷属の首輪の失敗作でガーレンという者が作成者であると調べがついたわ。
首輪の使用者から買ったのはアランガスタの商人からと聞いたのでここのギルドに協力をしてもらってあなたを特定したの。
もちろん使用者に売った商人も捕まえるつもりだけど正確な情報が無いからあなたに話してもらおうと思ってるわ」
「――という事だからあなたが不完全な首輪を作って商人に流したのが大元の原因だけどその商人の情報を素直にはけば多少の情状酌量の余地はあるという事を取引として話しておくわ。
まあ、いまここであなたが喋らなくでも他にも探す方法はあるしその時はあなたの罪は目一杯重くなるのを覚悟しておきなさい」
マリアーナの説明に補足でルルベがさらに脅しをかける。
「お、俺は頼まれて作っただけなんだ。
頼まれたのはいつも小遣い稼ぎに魔道具を仕入れにくるアルルという奴でなんでもどこかの金持ちのボンボンが欲しがっていると言っていたからかなら高く買い取ってくれたんだ」
「不完全な魔道具を売ったのはどうしてなの?」
「俺だって出来るならばまともな物を売りたかったがレベルのあがった今でさえ成功率3割なのにあのころはまだ1割ほどしかうまくいかなかったんだ。
だから断ろうとは思ったんだが不完全なものでも構わないと言われたし、ちょうど金が必要だったのもあって魔が差しちまったんだよ」
ガーレンは既に諦めた様子で言い訳と情報提供を繰り返す。
「まあ、理由はどうあれそれなりの責任はとってもらわなければなりません。
女性に着けられた首輪を外すことが出来ればもしかしたら期限つきの労働程度で済むかもしれません」
「あれを外す……だと?
それは無理だ」
「なぜ?」
「あれは不完全なものだと分かっているんだろ?
鍵がまともではないあの首輪は正規の外し方は出来ないし、逃亡防止の魔法によって身につけてしまったら切ることも壊す事も出来ないんだ。
少なくとも俺には外し方はわからないぞ」
取り乱すガーレンにルルベはため息をついて奥の控えに居たゾラを呼んだ。
「……だそうよ。
あなたなら何かいい案を持ってないかしら?」
「……ったく割にあわない役目だな」
「ゾ、ゾラ!?
どうしてお前がここに居るんだ!」
「どうして……か。
どうもこうも全てキサマのせいだろうが!
あんな欠陥品を世に流しやがって!
魔道具士の誇りをなんだと思ってるんだ!」
部屋から出てきたゾラはガーレンに向ってそう怒鳴りつける。
「まあ、今ここで彼を怒鳴りつけたって状況は変わりませんので有効な手段の情報提供をお願いしたいですね」
憤慨するゾラの側でルルベがそう告げる。
「ちっ、魔道具士が作る魔道具はレベルによって一定量の失敗作が出来るのが普通だ。
だからそういったものは責任をもって素材に逆加工をすることになる。
もちろん使った素材に戻る訳はないんだが別の魔道具を作る素材になることが多い。
その程度のことは当然知っているよなガーレン?」
「ああ、魔道具士になる修行中に親方から聞かされているから当然知っているよ」
「その時、どうやって処理をする?」
「どうやって……って、失敗作に自分の魔力を込めたハンマーで叩くことにより一番多く使われている素材に変質するだろ?」
「そうだ、但し未使用の場合のみだがな。
今回のように装備型で使用されてしまったものを壊すには魔道具の核になる魔石に作成者の魔力を大量に流し込んで魔石を破壊するしかないだろう」
「大量の魔力って……あの首輪に使われている魔石を満たすとなれば俺の持つ魔力を全てつぎ込んでも足りるかわからないぞ!」
「まあ、そうだろうな。
正直言って俺でもかなり厳しいだろう。
下手をすると二度と魔道具を作ることが出来なくなるほど衰弱するかもしれん。
だが……お前は規約違反をした責任があるからなんとしてでも首輪の破壊をしなければならないんだよ」
「いや、それは物理的に無理だろ!?
まずその首輪をはめられた女性をここに連れて来なければならないし、仮にそれが出来たとしても俺の魔力が足りなくて破壊出来やしないだろう。
俺が倒れてしまえばずっと外すことが出来なくなるぜ」
ガーレンの開き直った発言を黙って聞いていた僕だったがあることを思いついて話を割って入った。
「彼の魔力を首輪の魔石に押し込めば良いのですね?
ただそれだけならばなんとかなるかもしれません」
「なんだと?
一体どうするつもりだ?」
ゾラが僕の言葉に反応してすぐに問いかける。
「また、ちょっとスキルを使ってやればなんとかなると思いますよ。
ただし、彼の安全は保証出来ないですけど構いませんよね? 犯罪者なんですから」
「ま、まて!
お前にそんなことをする権利はないはずだ!
だいたいお前は誰なんだ!?」
「僕ですか?
あなたが作った失敗作を根性の腐った男に着けられたのが僕の婚約者なんですよ。
この落とし前はどうつけてくれるのでしょうかね?」
「ひぃ!?」
僕の怒りのオーラにガーレンが思わず腰を抜かしてソファから転がり落ちる。
「――その方法ならばなんとかなりそうなの?」
側でマリアーナが僕にそう聞いてきたので詳細説明を皆にすることにした。
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