第120話【デートという名の駆け引き③】
「もう……ですか?
まだ早いとは思いますけど……まあ良いでしょう。
どうせ話しても無理な話なんですから」
ゾラはそう言って店員を呼び、スラスラと幾つかの品物を注文してから手のひらを組みながらマリアーナにゆっくりと話しかけた。
「黒い隷属の首輪を外すにはまず作ったヤツを見つけることが必要です。
まあ、魔道具の種類にもよるんですけどこういったある意味呪具の類いの魔道具は扱いが難しくてこの魔道具を壊すには外部からの強い衝撃を与えるか宿っている魔力を抜いてしまうしかない。
そして魔力を抜くことが出来るのは魔道具を作った本人だけという制約があるんですよ。
本来ならば首輪程度だとハンマーで叩き壊すことが出来るのだけれどそれは身につけていない場合で着けてしまったものは無理やり壊そうとしたり外そうとすれば装着者にその反動がまともにかかるからやめたほうがいい」
ゾラがそこまで話した時、ちょうど頼んでいた食事を給仕の女性が運んできたので話は一旦とめる事になった。
「さあ、温かいうちに食べてしまいましょう。
あんたみたいな美人との食事はいつもの食事でも旨く感じるものですからね」
ゾラはそう言って目の前の食事に手をつける。
「では、私もいただきますね」
マリアーナもそう言ってからゾラに微笑んでから食事を口に運んだ。
「それで具体例にどうすれば良いのかをまだ聞いてませんけど、まさかこれで情報提供は終わりとは言いませんよね?」
「まあ、いま言ったことが全てなんだが分かりやすい手順としてはまず首輪を作った者を特定すること。
次にそいつに会って魔道具の解除を求めること。
ただそれだけだ……が、もちろんそんな簡単なものじゃない。
まず誰が作ったかを調べないといけないし、もしそれがなにかの拍子に分かったとしてもそいつがどこにいるかを調べないと駄目だ。
もしそいつがドウマ村に居たならばなんとかして村に入る伝手がなくては会うことも出来ないし、さらに運良く村に入れて会えたとしても解除をしてくれるように交渉をしないといけない。
どうです? ほぼ無理な話ばかりだろう?
だから諦めたほうが簡単だと言ったのですよ」
ゾラはため息をついてマリアーナにそう伝えると食事に戻る。
「ふうん。
よく知っているのですね。
さすがドウマ村の村長であるゾーンの息子だけあるわね」
「なっ!? どこでその事を調べた?」
マリアーナの言葉にゾラはあからさまに動揺して彼女を警戒する。
「まあ、いろいろと私にも情報を集める伝手がありますのでね」
「まさか親父の命令で俺を連れ戻しにきたんじゃないだろうな?」
そう言ってゾラは辺りを見渡すが怪しい人物は確認出来ずに「ふぅ」と深い息をはいた。
「あなたは村から逃げて来たのですか?」
「まあ、結果からみればそうだな。
ドウマ村の魔道具士はみな誇りを持って魔道具を作成していたが、国からの依頼で隷属の首輪を発明してから親父も村の重鎮たちも国の管理下に置かれて自由に魔道具の制作が出来なくなってしまったんだ。
俺はそれが我慢出来なくて村を出てニードルにたどり着いてメロリア喫茶店の裏手を借りて自由に魔道具を作っていたんだよ」
「よく今まで連れ戻されませんでしたね」
「まあ、親父も国のやり方には多少なりとも不満は持っていたからな。
ただ、村の魔道具士たちの生活や立場を考えたら受け入れざるしか無かっただけだしまだ現役だからな。
ただ、もしも親父が倒れたとかになると呼び戻される可能性はあるかもしれないな」
「その時は戻ってお父さんの後を継ぐのですか?」
「さあな、その時でなければ分からない。
――そんなことよりも、そう言う事だから無理だと分かっただろうから早々に諦めるんだな」
ゾラはそう言って飲み物をぐっとあおった。
「そうですね。
たしかに問題はいくつかあるようですけど不可能ではありませんね」
「はあっ!?
今の話を聞いていて何故その結論になるのか意味がわからねぇ」
「そうかしら。
たった今、あなたが全部説明してくれたではないですか。
まずは問題の首輪を誰が作ったかを調べればいいのですよね?
それが判明したら次の段階に進むことが出来るそうですのでゾラさんにも協力してもらえますか?」
「いったいどうやって調べるつもりだ?
そもそも、そんな首輪を着けられた者が本当にいたらその主人からは逃げられないはずだろう?」
人物のカード化を知らないゾラは当然の疑問を投げかけてくる。
「それに関してはあなた方の村と同じくらいの秘密がありますのでちょっとお教えは出来ません。
ですが、秘密の他言無用と解決に向けて全力で支援を頂けるのであれば教えても良いのではないかと思っています」
マリアーナは自分のスキルのことではないがゾラの協力を取り付けたい想いからミナトの許可を獲ずにそう交渉のテーブルにあげた。
「実際に見せるのは無理だろうが具体的にどうやるのか説明することは出来るか?」
「実際にやるのが誰かは今は言えませんけど優秀な鑑定士に首輪の情報を確認してもらうわ」
「その情報が正確かの判断はどうやる?
鑑定スキルで見ましたじゃ通らねぇぞ」
「まあそうでしょうね。
でも、もともと鑑定スキルの情報は他人には見えないし、その人の言葉を信じるしかないのが普通ですよね?
もしも抜き出した情報に製作者の名前があってそれがドウマ村に住む魔道具士だった場合は信用してもらうしかないわ」
「その名前さえもあんたがどこかで仕入れた情報の可能性は排除出来ないと思うが……。
疑ってばかりでは何も始まらないとも言うからな。
もし、本当にそんなことが可能ならば名前だけでなく他にいくつかの情報も合わせて提示してくれ。
その内容で信用に値するかを判断させてもらうからよ」
ゾラはしばらく考えてからマリアーナにそう答えた。
「ありがとうございます」
「ふん。
俺も黒い首輪なんて持ち出したヤツを一発殴ってやりたいと思っただけだ」
「では、交渉は成立ということで次の場所へ行きましょうか」
「は?
必要な情報は話したから今日はもう終わりじゃないのか?」
「あら、なにを言っているのかしら?
まだ約束の『一日デート』には時間が短いですわよ。
当然まだまだ連れて行ってくださるのですよね?」
マリアーナはそう行って食事の終わったゾラの手を引き喫茶店を後にしたのだった。
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