第121話【マリアーナの能力】

「……という条件で交渉してきましたのでまずは魔道具の製作者の特定をしなければなりません」


 ゾラとのデートを終えたマリアーナは僕と合流して宿へと帰り情報のすり合わせをしていた。


「製作者の特定ですか……。

 鑑定スキルでも品物の情報を得ることは出来るけれど製作者の情報か……。

 マリアーナさんは何かそういった情報を得る手段を持っているんですか?」


 すぐに方法が思いつかなかった僕は彼女にそう聞いてみる。


「普通ならば魔道具を流通させた商人を特定してそこから情報を引き上げるんだけど、さすがに今回のように実物がなければ情報屋を使っても品物の購入軌跡を追うことは難しいわ」


「ならばどうするんです?

 なにか勝算があるから交渉条件を提示したんですよね?」


「半分そうで半分は賭けね」


「賭けでない部分はどういったものですか?」

 

「私のメインである鑑定スキルのレベルが8になった時に取得した上位スキルでもしかしたらそのあたりの情報が分かるかもしれないと思うの」


「上位スキル?」


「ええ、詳細鑑定といって普通の鑑定では分からない情報を調べることが出来るのよ。

 まずはこれで調べてみて上手くいけば次に進めるし、もし上手くいかなくても何かしら進展はすると思うわ」


「……わかりました。

 ただ、彼女自身のカード化は本人の精神的な負担になるので出来るならば解除したくないです」


 そう言って僕はノエルを封じたカードを慎重にポーチから取り出す。


「わかりました。

 出来るか分からないけどカードのまま試してみるわね」


 マリアーナはそう言うと僕からカードを受け取り、そっと両手で包み込むようにしながらスキルを使った。


「詳細鑑定――魔道具『隷属の首輪』の詳細情報を鑑定」


 マリアーナがスキルを発動させると手のひらが桜色に光を帯びて鑑定結果を浮かび上がらせる。


【ノエルのカード:

 魔道具『隷属の首輪』を装着している者は生きているが成長は止まっている。

 魔道具『隷属の首輪』の装着者は制約により精神を拘束されている。

 魔道具『隷属の首輪』の所有者はザガンだが現在は拘束のリンクは切れている。

 魔道具『隷属の首輪』の作成者ガーレンの魔力を検知】


「――当たりね。

 魔道具の作成者は『ガーレン』という名のようね。

 その名前がどういった人物なのからゾラさんに聞いてみれば分かるかもしれないわね」


 マリアーナはそう言って詳細をメモしていく。


「ちなみにマリアーナさんの詳細鑑定でうまくいかなかった場合はどうするつもりだったんですか?」


「ノエルさんのカード化を解いて直接首輪の鑑定をするかゾラさんともう一度取り引きをしてあたりをつけてもらうしか無かったかしらね。

 あとは……あなたが何か隠し玉でも持っていればとの思惑も無くはなかったわ」


「隠し玉……ねぇ。

 そんな都合のいいものはあるものじゃないと思うんですけど、僕の考えでは首輪の効力を失わせれば良いわけだからザカンを始末するとかすればもしかしたら外れるんじゃないかとは思ってましたよ」


「いや、それはかなり不味いことになるんじゃないの?」


「ですが、すでに彼は今現在で行方不明扱いになっているはずですよね?

 だったらこのまま行方不明になってもらっても問題ない気もしませんか?」


「いやいや、本当に行方不明ならばそれも仕方ないですけど、数名とはいえカード化されていることを知っている者がいるのでうやむやには出来ませんよ。

 それに、彼には全てが片付いた後できちんと罪を償ってもらわないといけませんから」


 僕の提案にマリアーナが慌てて反対の声をあげながら僕を説得する。


(正直、ノエルにあんなことをしたヤツを生かしておくのは気がひけるのだけどマリアーナさんもサブギルドマスターだからな。

 立場上は止めるのがあたり前か)


 僕はそう思い「わかりました。まあ、そうですよね」と彼女の意見に同意した。


「それで、どうします?

 これからゾラさんに会いに行って話を聞いてみますか?

 本来ならば私だけが会って話を聞いても良いのですけど、あなたも一緒に聞いた方が一度の話で済むと思うんですけど……」


「そうですね。

 交渉や話を聞き出すだけならばマリアーナさんだけが会った方がスムーズに話が進みそうではありますが今回は急ぎですので手土産のひとつでも持って行って詳しい話をして貰いましょうかね」


 僕は本筋からいくとマリアーナに行ってもらうのが正解だとは思ったがどうしても自分で確認したかったことがあったので自分も同席すると伝えて確認を終えたノエルのカードを大切に仕舞った。


   *   *   *


「すみませんがゾラさんはご在宅でしょうか?」


 僕たちはいきなりゾラの住む裏口には行かずに表の喫茶店へと顔を出してから問い合わせる。


「ゾラさんなら裏に居ると思うけど何か用事ですか?

 今日は納品はありませんでしたよね?」


「ええ、今日は違う用事で来ただけですから居てくれれば大丈夫ですよ」


「そうですか。

 では裏のドアから声をかけてみてください」


「ありがとうございます」


 マリアーナは受け答えをしてくれた店員にお礼を言ってから裏口へとまわる。


 ――コンコン。


「ゾラさん。

 マリアーナです。

 昨日の件で伺いました」


 ――ガタッ!

  バタバタバタ!


 マリアーナが部屋の奥に向けて声をかけると大きな音と共にゾラが転がり出てきた。


「も、も、もう誰が作ったのか分かったのか!?」


 驚きの表情をしたゾラはマリアーナの後に僕が居るのをみて少し不機嫌そうな表情を見せたがすぐに彼女に意識をやって再度聞き返した。


「それで誰だったんだ?」


「製作者の名前はガーレンね。

 首輪の所有者はこちらの知っている者だったので鑑定結果に間違いはないと思うわ。

 それでガーレンという名前に心当たりはある?」


「ガーレンか……。

 確かにヤツならば出来るかもしれん」


「どういった人なの?」


「ガーレンも俺たちと同じ魔道具士の家に生まれた人間だ。

 あいつは昔から威勢だけは良かったんだが肝心の腕がついていかずに苦しんでいたのをよく覚えている。

 隷属の首輪は俺たち魔道具士の中では本当に一握りの者しか作れなくてこれが作れるだけで王族や貴族からの強いバックアップが受けられたんだ。

 もっとも俺はその権力者達からの勝手な要望が嫌で逃げて来たんだがな」


 ゾラはそう言うとドカッと床に座り込んで目をつむり考え込んだ。

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