第109話【もうひとつの依頼】

「ありがとうございました。

 では、明日からもうひとつの依頼を進めていきますね」


 ギルドでアリシアから報酬をもらうと僕はそう言って宿へと戻った。


「ただいま戻りました。

 マリアーナさん、ちょっと有益な情報を手に入れたんで情報共有をしておきますね」


 僕は宿にいたマリアーナをみつけると早々に先程仕入たばかりの情報をかいつまんで説明をした。


「そう、どうやらその村に行かなければならないようね」


「はい。

 ですが今のままでは到底近寄ることさえ出来ないでしょう。

 村の出身で情報を持っているであろうゾラは仕事の帰り際に少々やらかしたので僕は友好的に接触するのは難しいでしょう」


「そうね。

 だったら私がそっちの方面からもう少し情報を引き出してみるわ」


「かなりの偏屈男のようですので気をつけてくださいよ。

 油断してるとこちらが魔道具の実験台にされそうですから」


「わかってるわ。

 商業ギルド経由での接触を試みてみるから心配しないでいいわ」


(いや、それって心配しかないんだけどそれを言うと話が進まなくなるから放っておくか)


「わかりました。

 ではそちらは任せて僕は子爵様の方面からなにかアプローチ出来ないか考えてみます」


 僕たちはそうお互いの方針を確認して明日からの行動を決めた。


   *   *   *


 次の日、僕は朝食を食べながら子爵家からの依頼にある食材の検討をしていた。


(指定食材の納品か……。

 どうせ、とんでもないものを指定してきてるんだろう)


 僕はギルドから受け取った指定食材の書かれた紙とにらめっこをしながら考えを巡らす。


「ノーズベリーはまだ在庫があるからそれで済ませるとしてこっちのグレートボアの肉はどこで仕入れたらいいんだ?

 あと、こっちのぐるぐる草にすずなり芋も知らない食材だし、これは一度ギルドに相談してみないと無理ゲーかもしれない」


 朝食を食べ終わった僕はそう結論づけてギルドへと足を向けた。


 ――からんからん。


 ギルドに入ると一瞬視線が集まるがすぐに霧散して通常運転となる。


「おはようございます。

 ミナトさん、今日はこんなに早くからどうされたんですか?」


 アリシアがこちらに気づいて声をかけてくる。


「アリシアさん。

 おはようございます。

 実は先日受けた依頼書で素材のありかがわからないものばかりでして……」


「あ、そうですよね。

 この街に長く住んでいたらそれなりにわかるものばかりなんですけどミナトさんはまだ来たばかりでしたね。

 少し待ってください、いまそれぞれの入手先をメモしたものを用意しますから」


「それはありがたいです。

 正直どうすればいいかわからずに依頼をキャンセルしようかとも考えてました」


「それは本当にすみませんでした。

 では、こちらがそのメモになります。

 グレートボアは街の東の森に生息しますが突進力が馬鹿にならないので冒険者に依頼するか護衛を雇って狩るのが一般的です」


(なるほど、討伐して来なければならないものだったのか。

 いやいや、そんなものを運び屋を自称している僕に頼むのはどうかとは思うが……)


「そして、ぐるぐる草は同じく東の森の湿地に生えているのですが採取する前にじっと見てると目がまわって気を失うことがありますので注意してください」


(収穫時に注意が必要か、少し離れたところからカード化すればなんとかなるかな?)


「最後にすずなり芋ですが地上に引き抜くときに魔力の衝撃波を放ってきます。

 ですので大抵はつるにひもをかけて盾を構えてから引き抜くのをおすすめします。

 以上ですがご理解いただけましたか?」


 アリシアの丁寧な説明にうなずいた僕だったが「それを冒険者でもない僕に頼むのって嫌がらせかなにかですかね?」と思わず聞き返していた。


「それだけ期待しているのだと思いますよ」


「本当ですかぁ?

 本音は胡散臭いから難しい依頼をして難癖をつけようとしてるってことはないですよね?」


 僕は周りには聞こえないように気をつけながらアリシアにそう問い返す。


「さあどうでしょうね?

 でも、もしそれが狙いならばこんな回りくどいやり方はしないと思いますのでやはり期待されてると考えた方が正確だと私は思いますよ」


 アリシアがそう言ってにっこりと笑いかけたので僕は「わかりました。まあ、うまく立ち回ってみます」と言ってメモをつかんでギルドをあとにした。


(さて、与えられた時間は2日ばかりだし、まずはグレートボアからいってみるか。

 うまくいけばぐるぐる草も手に入るかもしれないしな)


 僕はそう思いながら東門へと向かった。


   *   *   *


「素材の調達のために東の森へ行きたいのですが」


 街の東門の門兵にそう伝えると予想どおりの答えが帰ってくる。


「はあ?

 君がひとりで素材調達だと?

 駄目だ駄目だ、だいたい君は冒険者じゃないのだろう?

 護衛もつけずに出るなんてとんでもない。

 ギルドで護衛を雇ってから出直しなさい」


「ですが、依頼書には自分で調達してくるようにと書いてありますので……ほら、ここに子爵様のサインも入ってますよ」


 実際にはひとりでとは書いてなかったのだがそこはうまく話術で誘導して説明をした。


「し、子爵様から?

 君、なにかやらかしたのかね?

 子爵様がそんな無謀な依頼を出すとは信じられんが……」


 門兵が判断を戸惑っているのですかさず僕は「大丈夫ですよ。こう見えてそれなりに強いですから。では」と早口で挨拶をして門を通り抜ける。


「あ、こら! まだ……

 仕方ない、死ぬんじゃないぞ!」


 僕がダッシュで外に行ったのを止めそこねた門兵はため息をついて僕に注意を叫んだ。


 僕は後ろを振り向かずに手を上げて応え、東の森へと入って行った。

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