第110話【素材収集】

 なんとか東門を抜けた僕は指定の素材を探して山道を足早に進む。


 ギルドでもらった地図によるとニードルの街から東は森になっており他の街へと続く道は無く街の水源となっている湖へと続く山道があることがわかっているだけだった。


「グレートボアとぐるぐる草か。

 まずは確実にあるであろうぐるぐる草から採取するかな。

 グレートボアに関しては遭遇しなければ捕まえようがないからなぁ」


 僕はそうつぶやきながら山道にそって湖へと向かう。


 早足で歩くこと30分もするとおそらく街へと繋がっているであろう川が道のそばにあらわれた。


「そろそろ湖に到着かな?

 ぐるぐる草がすぐに見つかればいいけど……」


 やがて森がひらけてそれなりの大きさの湖が眼の前に広がっていく。


「おお、なかなかの広さだな。

 もしかしてこの湖にもマースが繁殖してたりしてな。

 ちょっと確認してみたいけど、また今度にして目的のものを探さないと」


 僕はギルドで教えてもらったように依頼書に書かれている絵を頼りに辺りを見回す。


「――あった。

 多分間違いないだろう」


 意外にも探し始めて数分程度でそれらしいものを発見した。


超カード収納スーパーストレージ


 本来ならば鑑定をしてから収穫するのが無駄がないのだが、今回の依頼品はレアなものばかりで危険が伴う可能性もあったので直接触らずにカード化してから確認することにしたのだ。


【ぐるぐる草:採取しようと一定の距離まで近づくと対象物に対して目を回させる幻影を見せる植物】


(やっぱりな、そんなことじゃないかと思ってたよ)


 僕はカード化したぐるぐる草を確認してため息をついたが必要なことには変わりないので同じ方法で数を確保していった。


「ぐるぐる草についてはとりあえず確保出来てよかったがグレートボアの肉は出会わなければ倒すことも出来ない。

 少し危険だけれど調査範囲を広げてみるか……」


 僕はそう思い来た道を戻ろうと後ろを振り向いた瞬間、背中に感じる悪寒に思わず右に飛んでいた。


 ――ドカッ


 次の瞬間、自分の立っていた場所を大きな塊の影が通り過ぎてぐるぐる草の生えていた巨木の根が砕ける音が響く。


「な、なんだ!?」


 あれだけの勢いで巨木にぶつかったはひとまず勢いをとめたがすぐに立ち上がりこちらを向いて戦闘態勢へと身をかがめる。


「グレートボアか!

 しかもデカい!」


 すぐに収納スキルで対応しようと思ったが先程の勢いで向かってこられると万が一間に合わなければ跳ね飛ばされて重症を負うことになると判断した僕は急いで魔法のカードを取り出し開放をする。


開放オープン


 魔法を封じ込めたカードはその力を解放してグレートボアの目の前で強く光る。


 ブモッ!?


 今回開放したのはライトの魔法で光る時間を短くする反面光量を高くなるように調整したものでその光を至近距離で受けたグレートボアはおそらく目を焼かれて視界が利かなくなっていた。


(いまだ!)


「――超カード収納スーパーストレージ


 グレートボアが大きく怯んだのを見た僕はすかさず収納スキルを発動させてグレートボアを生け捕りとした。


「ふうっ、危なかった。

 収納スキルも万能じゃないから急に攻撃されたらひとたまりもないな。

 これからも気をつけなければいけないな」


 僕はその場にへたり込みながらそうボヤく。


(あとはすずなり芋か……。

 これはどこになるか書いてないし、誰かに聞くしかないだろう。

 とりあえず街に戻ってもう一度ギルドで問い合わせてみるか)


 グレートボアとの戦闘でドキドキしていた鼓動もようやく治まってきたので僕は周りに注意を払いながら来た道をゆっくりと歩いて行く。


 やがて道幅が広くなり遠くに街の壁と門が見えてきたのでほっと胸をなでおろした。


「戻りました」


 僕が門兵へそう声をかけるとちょうど出た時と同じ門兵が対応してくれた。


「おっ、無事に帰ってきたな。

 だが手ぶらのようだし、お目当ての素材は手にはいらなかったようだな。

 まあ、無事に帰ってきただけでも良かったとして今度はちゃんと護衛をつけて行くことだな」


 門兵は親切心からそう忠告をしてくれたのが分かるので僕もムキになって反論はせずに「助言をありがとうございます」とお礼だけ言って街へと戻っていった。


 ――からんからん


 商業ギルドのドア鐘を鳴らしながら僕はアリシアのいる受付のカウンターへと足を向ける。


「あら、ミナトさん。

 どうかされましたか?」


「いえ、いま受けている依頼で3つまでは納品出来る目処はついたんですけど最後の1つが何処で手に入るかわからなくてギルドのほうで把握してないかなと思って確認に寄ったんです」


「そうでしたか。

 それで残りの1つとは何でしょうか?」


「すずなり芋ですね」


「ああ、すみません。

 確かに採取場所を指定していなかった気がしますね。

 ――すずなり芋は街の南地区の農場で収穫されるものなんです」


「へー、街の中で採れるものなんですね。

 でも、それならば簡単に手にはいるようか気がしますけどどうして依頼素材になってるんですか?」


「実はすずなり芋の収穫が出来るひとが居ないんです」


「え?

 収穫出来るひとが居ない?」


「はい。

 農場の管理者はひと月前からすずなり芋の収穫で怪我をされていて誰も収穫出来ていないそうです」


「それを僕が代わりに収穫すればいいんですか?」


 僕は首をかしげながらもそう問い返す。


「そうして頂けると助かります。

 ただし、収穫時には十分気をつけてくださいね」


「気をつけるのはもちろんですが特に何が危ないですか?」


「芋を引き抜くときに魔力放出をするのですが、その衝撃波が危なくて今の農場主も収穫をしている最中にその衝撃波に跳ね飛ばされたようですね」


「なるほど、それは痛ましい出来事でしたね。

 わかりました、このあとで件の農場へ向かうようにしますね」


 僕は彼女にそう伝えるとともにお礼を言ってからギルドのドアを開けた。

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