第108話【魔道喫茶メロリア】
「すみません。
ナナリア雑貨屋からお届けものです」
僕はたっぷり1時間ほどかけて配達先の喫茶店へのたどり着いていた。
「あ、荷物の配達は裏の入口からお願いします」
お店の店員が僕にそう言って活き方を教えてくれる。
「ありがとうございます」
僕がお礼を言って出ていこうとしたとき、その店員が声を小さくして忠告をしてくれた。
「あなた、はじめてくる人よね?
注文したのは魔道グラスだと思うけど部屋に運び込む時には足元に気をつけてね。
前に来たひとは転んでグラスをいくつも割ってしまってひどい目にあったようだから」
「ありがとうございます。
気をつけて運びこむようにしますね」
僕はその店員にお礼を言って裏口へとまわってみる。
「おっ、ここだな。
すみませんがナナリア雑貨屋からお届けものです。
荷物はどちらに置けばいいですか?」
僕はそう言いながら裏口の扉を開けて中へと入っていく。
コツン
部屋に入ると足の先になにかがぶつかる感触がした。
「おっと!?」
僕が足元を覗きこむと小さな箱が無数に転がっていた。
「ああ、なるほどコイツに足をとられてひっくり返ってしまってるんじゃないかな?
しかし危ないな、何が入ってるか知らないけどこんなことろに転がしておくなんて」
僕はそう言いながら箱をひとつ掴みあげようとしたところ驚いたことに片手では持ち上がらなかった。
「なんだこれ?
いったい何が入ってるんだろうか?」
小さいながらも重く存在感を主張する箱に興味がわいてそのひとつをカート化してみる。
「
その後、カード化したものを鑑定スキルで内容の確認をしてみる。
「鑑定」
【魔道具:転ばせの箱。
ギミックにより重さが変わり動くものに反応して自動で動き進行の邪魔をする。
動き幅は箱2つ分程度】
「なんだこれは?
この箱が魔道具だって?」
僕はその場にしゃがみ込んで箱自体にも鑑定スキルを使ってみたが同じ結果となった。
(前任者が転んだのってこれが原因か……。
しかし、いたずらにしてはちょっと悪質なんじゃないか?)
その時、部屋の奥から人の気配がして僕に声がかけられた。
「誰だ?
なんだ、配達屋か。
頼んだものを持ってきたのか?」
痩せた体にボサボサの頭を掻きながら中年くらいの男性が姿をあらわす。
「ナナリア雑貨屋からのお届けものです。
荷物はどちらに置けばいいですか?」
「ん? ああ、注文していた魔道グラスか。
その横の扉の先が倉庫になってるから棚に置いておいてくれればいいよ。
まだ外に置いてるんだろ?」
男性はあまり興味のない様子でぶっきらぼうにそう告げる。
「いえ、品物はここにありますよ。
ところで何故こんな魔道具をこんなところに放置してるんですか?
これではまるで配達に来た人たちを転ばせて困らせるのが目的みたいに見えますが」
僕がポーチから魔道グラスのカードをとりだしながらそう問いかける。
その言葉に先ほどまで無関心だった男性の目が変わり急に
「なぜそう言い切れる?
まさか、鑑定持ちか?
いや、それ以前にそれはなんだ?
まさかあのカード収納なのか?」
男性が後ろでなにやらブツブツと言っているが僕は聞こえないふりで黙々と配達物の魔道グラスのカード化を開放して棚に並べていく。
「これで全部になります。
依頼書に確認のサインをお願いします」
男性の質問には答えずに淡々と作業を終えた僕はそう言って受け取りのサインをもらうと「ありがとうございました」と出て行こうとする。
「おい、ちょっとまて。
こっちの質問に答えていかないか!」
男性がそう叫んで僕を止めようと手をのばす。
「ああ、そういえばコレを返すのを忘れてましたね」
僕はそう言ってカード化した魔道具を男性の手に握らせてカード化を解除した。
「
カード化で軽くなっていた魔道具は元の重さとなって男性の手にのしかかる。
「うおっ!?」
ズシン
その重さに慌てて魔道具から手を放した男性からこぼれ落ちた魔道具が床にめり込むかたちで止まり驚きの目をみせた。
「イタズラもほどほどにしないとギルドに訴えられて配達してもらえなくなりますよ」
僕はそう言い残して男性があ然としている間にさっさと喫茶店をあとにした。
* * *
「配達依頼の完了報告をお願いします」
その足でギルドに向かった僕は受付をしてくれたアリシアに依頼の完了報告書を出した。
「お疲れ様でした。
なにか問題はありませんでしたか?」
アリシアの言葉に僕は納品時の事を思い出して軽く話題にあげた。
「そういえばメロリアへの納品場所で魔道具が床に転がってたのですけど誰が作ってるんですかね?」
「ああ、メロリアの裏手で魔道具をつくっている人がいるんです。
たしかゾラさんだったと思いますけど彼がどうかしましたか?」
「いえ、品物を納品するために裏手にまわったのですが、そこで床に無造作に置かれている魔道具があったのですが、その魔道具は見た目は5センチ四方のただの箱なんですけど、どうやら近づくものを感知して自力で動くように設計されているみたいなんです。
今までそういった高度な魔道具を見たことが無かったものですからその人はどこでそういった技術を身に着けたのかなと思いまして……」
僕はできるだけ不自然さのないように情報収集ができないかと探りをいれる。
「えっと、たしかゾラさんはドウマ村の出身だったと思いますよ」
「ドウマ村ですか?
それはどこにあるんですか?」
「ドウマ村はここから3日ほどの距離にある王都を抜けてさらに5日ばかり行ったところにありますが一般の人は規制がかかっていて行くことは出来ません。
規則を無視して許可なく立ち入ればすぐに捕まって最悪だと死刑になるそうです」
「死刑!?
それは物騒ですね」
「魔道具制作はアランガスタ国の最重要項目ですからね。
商業ギルドでもギルマスかサブマスくらいしか接触が出来ないくらい規制をかけてるくらいですので間違っても行ってみたいとか言い出さないでくださいね」
「ははは、まだ僕は死にたくないので勝手に行ったりはしませんよ」
僕は表面上はそう言いながらも重要な情報を手に入れたと心を踊らせていた。
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