第102話【証拠不十分】

 「僕が受け取りますよ。

 マリアーナさんはそのまま魔法を待機しておいてください」


 僕はそう言ってアルンの前まで近づき彼から紙を受け取り内容を確認する。


「あんた、なかなか度胸があるじゃないか。

 いくらそっちのお嬢さんが魔法を準備しているからと言ってそんなに無防備に来られたら拍子抜けするぜ」


「まあ、あなたが少しでも妙な動きをしても対応出来るようにしてますから無駄なことはやめてくださいね」


「ほう。 言うじゃねぇか。

 ならばその自信を見せてもらおうか!」


 男はいきなりそう叫びながら隠し持っていたナイフを僕に向けて突き出してきた。


超カード収納スーパーストレージ


「なっ!?」


 僕のスキルが発動した瞬間、男の姿は消えて一枚のカードか僕の手におさまっていた。


「だから言ったのに……無駄なことはやめるようにと」


 僕が苦笑いをしていると魔法を解除したマリアーナが声をかけてくる。


「それで、そのカードどうするつもりなの?」


「うーん。

 まずはこの書類の内容を見てから判断してみるとしますね」


 僕はそう言って男から受け取った紙に目をとおす。


『隣国から来たギルド職員2名がニードルへ向かうと言って門から馬車で出発した。

 商業ギルドへ仕事の発注のためとあったが護衛をかたくなに拒むのは妙だ。

 しかし、我が国で他国のギルド職員が行方不明や死亡などとなればいろいろと不都合が生じるので隠れ護衛としてついて行き、何かあれば対処して欲しい。

 無事にニードルへ着いたならば商業ギルドにて報告し、報酬を受け取るがいい』


「書かれている内容はそんなにおかしなものではないですね。

 ただ、いくら隠れ護衛の任務が僕たちにバレたからといって攻撃してくるのはアウトですよね。

 面倒だから始末してしまいますか?」


 僕は冗談半分にそう言いながらカードをくるくるとまわす。


「難しいところね。

 確かに今のはやりすぎだとは思うけど、最後のあなたへの攻撃も全くと言っていいほど殺気が無かったわ。

 おそらくナイフもフェイクであって素手であなたをつかんで制する動きをするつもりだったのかもしれないわね。

 まあ、確証があるわけじゃないけど……」


「なんか、面倒ですね。

 ……とりあえず昼食を食べてから対処方法を考えましょうか」


「そうね。

 ただ、カード化したまま町には持っていけないのだけは確実だからね」


 昼食後、僕はマリアーナの言葉を飲み込みながらカードの扱いを決めた。


「とりあえずカード化を解いて縛りあげてみます。

 尋問してみてまだ抵抗するなら残念ですが行方不明になってもらいましょう」


「さらっと酷いこと言ってるけど仕方ないわね。

 それでいいわよ」


 マリアーナもそれに同意したので僕は道わきにある大きめの木にカードを押しつけるかたちでカードを開放する。


開放リリース


 僕のスキルが発動するとカードからナイフを持って振りかぶったかたちでアルンが現れ、木に向かってナイフを突きつけた。


「ほら、こうして簡単にやられてしまう……痛てぇ!?」


 アルンはナイフを持っている状態で木を叩きつけていた。


「おおっ!?

 こいつはどうしたって言うんだ?

 確かに俺は油断していた男の首元に刃引きのナイフを突きつけたはずだ。

 それがなぜ俺は木を殴っている?」


 木を殴って混乱するアルンを僕は素早く後ろからロープで縛り上げた。


「うおっ!?

 なんだこのロープは?」


「あんたを縛りあげる特別なロープで抵抗すればするほどきつく絞まる仕様だ。

 無駄な抵抗は諦めるんだな」


 縛りあげられたアルンは降参とばかりにドカッと地面に座り込んだ。


「いや、まいった。

 降参だ。

 いったいどうやったんだ?」


 僕はアルンの問には答えずにマリアーナを見ると不敵な笑みを見せながら縛られているアルンの前に立った。


「どういうつもりか説明してもらえますかね?

 その内容次第では残念ですがあなたには居なくなってもらわないといけません。

 あ、嘘をついてもわかりますのでやめたほうが無難ですよ」


 一見優しい表情のマリアーナだったがその一言一句は相手に拒否させない圧倒的な威圧が含まれていた。


「さっき見せた書類があっただろう?

 あれが全てだ」


「彼に攻撃したのは何故かしら?」


「あれは殺すつもりのない遊びだったんだ。

 あんたらがいかに力不足かを知らしめてやろうと思ってやったことだ。

 もちろん手加減をしてな」


「ふうん。

 刃引きとはいえナイフを向ければ逆に殺されるとは思わなかったのですね」


「そ、それは。

 圧倒的な実力差を見せつければ納得してくれると思って……」


「でも、あっさり返り討ちにされた訳ですよね。

 あなたの身分を証明できる証はありますか?

 それがなければやはり盗賊として処分をしなければなりませんが……」


「ある! あるから待ってくれ!

 俺の服の中にニードルギルドの登録証があるから確認してくれ!」


 アルンが慌ててそう叫ぶのを聞いてマリアーナは彼の首から下げられている登録証を確認する。


「……一応名前は合っているわね」


「そうだろう!」


「でもまあ、私たちはこの国のギルド証の実物をみたことがないのでそれが本物かどうかの判断が出来ないのよね。

 やっぱり見なかったことにして消えてもらったほうが簡単かしらね」


 マリアーナの言動からはそれが本気か冗談か判断がつかない。


(仕方ないか……)


 アルンはマリアーナの気迫に押されて彼女から目が離せないでいたので僕はそっと後ろにまわって彼の肩に手を置いてスキルを発動させた。


カード収納ストレージ


 スキルの発動と同時に2度目となったアルンのカードを手に僕はため息をついていた。


「彼の身分についての真偽はいまここでは判断がつかないので危険分子の排除の観点からカード化しておきました。

 ニードルでそれとなく情報を仕入れて本当にギルドの関係者ならば苦情をいれて損害賠償を請求しましょう。

 そして、ギルドとは無関係だった場合はこのまま行方不明になってもらうのがいいかと思います」


 僕も大丈夫だったとはいえ、ナイフを突きつけられているのでタダで許すつもりはさらさら無かった。

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