第103話【ニードル商業ギルド】

 その後は別段トラブルもなく僕とマリアーナを乗せた馬車はニードルの町へたどり着いた。


「この町に来た理由は?」


「商業ギルドへ仕事の依頼に来ました。

 これが依頼書になります」


 ニードルの門では不審者が入らないように旅人の確認が行われており、特に初めて訪れたものに対してはその目的や身分を確認したのちに保証金を納めて初めて町に入れるという厳重ぶりであった。


「――よし。

 通行料を払ったら通っていい。

 商業ギルドは町の中心部にある青い看板のある3階建ての建物だ。

 ないとは思うが騒ぎをおこすんじゃないぞ」


 マリアーナがいくつかの質問に答えてギルドへの依頼書を提示するとあっさりと通行料の支払いで町への通行許可をもらうことができた。


「とりあえず無事にたどり着きましたね。

 本当ならば僕は明日にでも王都へ向けて出発したいんですけど、この国の規定でよそ者は商人でなければ町の移動が難しいと聞いてますので暫くは商業ギルドに登録して仕事をこなしたいと思います。

 マリアーナさんはどうされますか?」


「私は予定どおりに魔道具の入手経路の特定をするわ。

 まず商業ギルドに出向いて魔道具の制作依頼を出して職人と面会させてもらいそれとなく情報を引き出すつもりよ」


「そうですか。

 ……最終的にはどちらも同じ場所にたどり着きそうだけど違う視点からアプローチするのはありだと思うので町では別行動をしましょうか」


「そうね。

 ただ、日中は別行動でも拠点は同じ宿にした方が情報交換もできるし、余計なトラブルに巻き込まれにくいと思うわよ」


 僕はマリアーナの提案にうなずくと拠点とする宿に向かった。


 ――からからん。


「いらっしゃいませ。

 お泊りですか?

 お食事のみですか?」


 宿のドアをあけると元気のいい声がかけられる。


「商業ギルドへの依頼があるのでしばらく連泊をお願いしたいのだが部屋は空いているか?」


「どのくらいの期間になりそうでしょうか?」


「正確にはわからないが一ヶ月くらいになりそうだ」


「一ヶ月ですか……。

 それだけ長期になると前金でお願いすることになりますよ。

 もちろん途中で解約したときには残金はお返ししますけど。

 あと、借りるのはひとり部屋のふた部屋ですか?

 それともふたり部屋のひと部屋ですか?」


「あ、それは……」


「ふたり部屋をひと部屋でいいわよ。

 その方が安いでしょう?」


 僕が迷っているとマリアーナが即答で決めてしまう。


「あ、私たちは夫婦だから気にしなくていいわよ」


「そうでしたか。

 でしたら特に問題はありませんね。

 では前金にてお願いします」


(あ、結局夫婦だという設定はつかうんだな。

 まあ、宿の店員にコソコソと詮索されるよりはその設定にしておいたほうが確かに安全かもしれないな)


 マリアーナが指定された宿代を払うのを見ながら僕はそんなことを考えていた。


「今日はこのまま泊まって明日ギルドに行ってみましょう」


 支払いを終えたマリアーナはそう言うと二階の角部屋にむけて階段を登っていった。


   *   *   *


 ――次の日、朝食を終えた僕たちは町の中心部にある商業ギルドへと向かった。


「一応、別々に入りましょうか」


 商業ギルドの青い看板が見えてきたときにマリアーナがそう提案する。


「いいですよ。 お先にどうぞ」


 僕はそう言うと時間をずらすようにそばの雑貨屋に足を向けた。


 ――からんからん。


 僕が雑貨屋に入るのと同時にマリアーナが先に商業ギルドのドアを開けていた。


 僕は雑貨屋の中をぐるりと一周してめぼしいものがなかったので特になにも買わずに外に出た。


(マリアーナさんが入ってそろそろ10分はたっただろう。

 そろそろ僕も入ってみるか)


 ――からんからん。


「商業ギルドへようこそ。

 どのようなご要件での来店でしょうか」


「――仕事を探しているんだけどその辺りで仕事を受けるには商業ギルドへ登録する必要があると聞いてきたのだが」


「はい。

 ここは商業ギルドですので商人の方はもちろん、そうでない方も商売ができれば登録ができます。

 それで、どんな商売を考えておられますか?」


「運び屋をしようと思っている」


「運び屋……ですか?」


「ああ、小さな配達から大きな引っ越しまでなんでも運ぶ運送屋をするつもりだ」


「なるほど、運送屋のことですね。

 ですが、馬車などはお持ちでしょうか?

 まさか荷物を全て手で運ぶわけにはいかないですよね?」


(なるほど……アランガスタでも同様にカード収納スキルは超マイナーなスキルなんだな。

 だが、ここで説明しておかなければ仕事の斡旋なんてやってくれないよな)


「僕の持つスキルはちょっと特別でして多くの荷物を軽くして運ぶことが出来るんです」


「軽く? そんなスキルってありましたか?」


 受付嬢は小首を傾げながら思い出そうとするがカード収納スキルには思いが行かなかった。


「カード収納スキルって聞いたことありませんか?」


「え?

 それって小指の先ほどの物をカード化するスキルですよね?

 そんなスキルでどうやって荷物を運ぶんですか?」


「それは見てもらえれば理解してもらえると思います」


 僕はそう言うとポーチから取り出したカードを彼女の目の前で開放した。


開放オープン!」


 すると受付のテーブルの上には30センチ四方の箱が置かれていた。


「これは僕がカード化した荷物を元に戻したものです。

 この大きさならばいくらでもカード化出来ますし、限界はありますがもっと大きなものでも出来ますので運ぶには馬車は必要ありません」


「えっ?

 今のがカード収納スキルなんですか?

 それほどの使い手はみたことがありません。

 なるほど、それならば大量の荷物をどんどん運ぶことが可能かもしれませんね」


「どうでしょうか?

 運び屋としてギルドに登録出来ませんかね?」


「そうですね。

 本来ならば馬車を使って荷を運ぶ仕事は運送屋とよびますがあなたの場合、馬車を使いませんので区別するために別の呼び方のほうが良いかもしれませんね。

 では、運び屋で登録させて頂きますのでこちらの書類を記入してこの魔道具に手を置いて登録してください」


「この魔道具はなんですか?」


「これはあなたの情報をギルドカードに反映させる魔道具で、いまどんな依頼を受けているかが分かるものです。

 依頼達成のポイントや報酬の管理もこのカードで行いますので無くさないようにしてくださいね」


「へー、便利なものがあるんですね」


 僕は魔道具に感心しながらギルドへの登録を進めていった。

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