第101話【不審な者】
「……とりあえず問題が起きなくて良かったですね」
あたりが暗くなり始めたころの到着だったので僕たちも今夜は門の横に設置されている宿泊施設に泊まることにして明日からの予定確認をすることになった。
「ここでノーズギルドの護衛は終わりだからこの先の護衛をどうするかを決めなければならないわ。
前にも言ったけど私たちだけで進むパターンとさっき聞いたけれどこの門でニードルの町までの短期護衛を頼むことも出来るみたいだからそれを頼むパターン。
どちらかになると思うわ」
「話を聞いている限りそれほど危険はないんですよね?
だったら僕たちだけで進んだ方が良いかもしれないです」
僕は少しばかり考えてマリアーナにそう答えた。
「んー……。
理由を聞いてもいいかしら?」
「これからニードルの町に行くというのは僕とマリアーナさんの共通の事案ですので良いのですが、町に着いてからの行動は別になると思います。
マリアーナさんはギルド経由から隷属の首輪についての情報収集を、僕はそれをつくった職人に会うため町で実績と信用を積みながら情報収集と伝手を探すのを最優先とするからです」
「……そうね。
私と違ってあなたは首輪をつくった職人に会わなければならないから町に入るときだけギルド職員として入っておいてニードルで商業ギルドへ登録して王都へ向かうつもりなのね」
「はい。
アランガスタ国の地理には詳しくないので今から行くニードルから王都がどのくらい離れているかわかりませんがザッハギルマスからの情報では王都の商業ギルドに登録して戸籍をつくり、魔道具をつくる集落へ仕事として向かう必要があります。
ですがいきなり王都へ行くことは出来ないでしょうし、商業ギルドの仕事としてならば王都へ行くチャンスはあるはずですから」
「なるほどね。
確かにニードルの町に着いたとたんに私たちか全くの別行動をすのならば私たちの顔と情報を持つ人は少ないほうが良いわね。
……わかったわ。
魔道具をつくる職人の村は興味があるけど今回はサブマスとしての仕事を優先しないといけないからその提案を受け入れるわ」
マリアーナはそう言うと荷物から一枚のカードを取り出して僕に渡してくれる。
「このカードは斡旋ギルドの職員証明になるものよ。
まずはニードルの町に入るときに出しなさい、その後で別行動を取るときに返してくれればいいわ。
本当はずっと持っていても良い気もするけど何かあったときにギルドに迷惑をかけるとちょっとマズイので単独行動をするならば自力で切り抜けてもらわないといけないわ」
「わかっています。
今回の件は僕が望んで来たんですからこれ以上迷惑はかけられませんよ。
ただ、マリアーナさんも十分に気をつけてくださいよ、いくら腕が立つとは言っても外見はか弱い女性なんですから」
「あら、私の正体を知っても心配してくれるのですか?
ミナトさんは優しいのですね」
マリアーナはそういって微笑んだ。
――次の日の朝。
僕たちはノーズギルド所属の護衛たちと別れて2人でニードルへ向けて出発した。
出発する際に門兵から「護衛はつけなくて大丈夫か?」と何度も言われたがマリアーナが近くの木を一本丸焼きにしたのを見て顔を引きつらせながらおとなしく引き下がってくれた。
「――ちょっとやりすぎたかしら?」
門から馬車を進ませて建物が後ろから見えなくなるまで進んだころで御者台のうえからマリアーナのボヤキが聞こえてきた。
「ある意味、あの門兵のあいだで語り継がれるでしょうね。
でも、そのおかげで僕の存在が薄くなったので僕としてはありがたかったですよ」
「そんな言葉は慰めにならない気もするけれど、やってしまったことは仕方ないから気持ちを切り替えて行くことにしましょう」
あいかわらず苦笑いのマリアーナはそう言って馬車をニードルへ向けて進ませて行く。
「ところでニードルの町までどのくらいかかるんですか?
地理が全くわからないので教えてもらえると助かるんですが」
国境門を出発して数時間、食事休憩をとるために少し開けた場所で馬車をとめて食事の準備をしながら僕はマリアーナにそう聞いてみた。
「ニードルの町はそう遠くないわよ。
たぶん今日中にはたどり着けると思うわ。
ちなみに王都まではニードルから3日くらい離れたところにあるはずよ。
私も王都へは行ったことがないからギルドで調べた範囲のことだけれどね。
――火球!」
マリアーナはそう答えると同時に茂みに向けて魔法を放った。
「っと、あぶねぇなあ。
いきなり魔法をぶっ放すとかありえないと思うぞ」
魔法の着弾したそばからガサガサと音をたてながらひとりの男が姿をあらわす。
「そっちこそコソコソと隠れて様子を伺うのは非常識ではなくて?」
マリアーナは全く悪びれずにそう言い放つ。
「いつから気づいてた?」
「馬車を止める前からよ。
殺気は無かったから見逃してあげていたけれど、いつまでも隠れているのが気に食わなかったからちょっと脅かしただけよ。
事実、直撃する角度じゃなかったでしょう?
それであなた何者? 盗賊じゃなさそうだけど」
指先に火球を浮かべたままでマリアーナが男にそう問いかける。
「俺はニードルの商業ギルドに所属している者で主に商隊の護衛を請け負っているアルンだ」
「そう、それでその護衛様がどうして一人で私たちの後をコソコソとついて回るのかしら?」
「門兵のおえらいさんからの依頼だよ。
確かにあんたの魔法は強力だがギルドの職員と知っていてふたりだけで町まで行かせるのは何かあったらマズイんでね。
かといって複数人で追いかけたらそれこそ盗賊と間違えられちまうからな」
男の言い分は正論に聞こえたがマリアーナはまだ警戒を解かないで質問を続ける。
「それを証明出来るものは?
なければあなたの言ってることは信用出来ないから死なない程度に焦げてもらって町のギルドで確認させてもらうけど……」
「おいおい、そいつは物騒だな。
何しろコッチも急いで出たからそんなもん……っとこいつがあったか」
男はふところから一枚の折りたたんだ紙を取り出してひらひらと見せるようにする。
「それは?」
「そのおえらいさんからの指示書だ。
無事にあんたらが町にたどり着いたらギルドで報酬をもらえる証明書だな」
「見せてもらっても?」
「ああ、いいぜ。
取りにくるかい? それとも俺が持っていこうか?」
「――その必要はないですよ」
話をそばで聞いていた僕はそう言いながら男に向かって歩き出した。
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