第100話【アランガスタ国境門】
「おはようございます」
出発の日の朝、僕は荷物をまとめてから食堂に向かうとマリアーナたちは先に朝食をとっていた。
「おう、いよいよだな。
よく眠れたか?」
マリアーナやサーラなど女性陣が軽い会釈をしたのに対してダランは手をあげて挨拶をしてくれる。
「そうですね。
まあ、隣国へ行くというだけで戦いに向かうわけではないのでそれほど緊張はしてませんよ」
「そうか、ならば良かった。
俺たちはここまでで王都経由でロギナスへ戻る予定だからちょっとばかし寂しくなるなと思ってな」
その言葉にサーラが「兄さんはミナトさんが同行しないために道中の食事が携帯食になるのが残念でたまらないだけでしょ?」と食後の果実水を飲みながらツッコミをいれてくる。
「ばっ!? そ、そんなことはないぞ!」
慌ててそれを否定するダランだったが半分図星だったらしく顔を赤くして苦笑いをしていた。
「はははっ、ダランさんらしいですね。
僕も本音はこのまま皆さんと旅が出来れば楽しいと思ってますよ。
ただ、隣国とはいえちょっと特殊な地域に行かなければなりませんのでギルドの指示を優先したいと思います。
ああ、ダランさんたちの道中の食事に関してはカード化して渡しておきますのでそんなに心配されなくてもいいですよ」
「あ、いや、すまねぇな。
本当に助かるぜ」
ダランは言葉のとおりに頭を
「――じゃあこのカードはサーラさんに渡しておきます。
限定者にサーラさんを登録しておきましたので開放はサーラさんがおこなってくださいね」
「本当にありがとうございます。
また、ロギナスに戻ってこられたら改めてお礼をしたいと思いますので必ず帰ってきてくださいね」
サーラは僕からカードを受け取ると深々と頭をさげた。
「――ミナトさんも来られたことですし、私たちはそろそろ行きましょうか」
僕たちのやりとりが一段落したのを見はからってマリアーナがそう提案をしてきたがそれを僕のあるひとことでとめた。
「僕はまだ朝食を食べてませんのでもう少し待ってくださいよ」
その言葉にマリアーナはうっかりしてたとばかりに笑って誤魔化していた。
* * *
「今度こそ大丈夫よね。
それじゃあ行きましょうか」
朝食をとり、準備を終わらせた僕を見てマリアーナがそう言って席を立つ。
「マリアーナさま、馬車と国境までの護衛準備ができております」
彼女が席を立ったことにより周りにいた職員が重要な用件を告げてそばに控える。
「ありがとう、約一日の距離だけどお願いするわね」
マリアーナはそう答えるとギルドの入口前に停めてある馬車へ乗り込んだ。
「出発!」
カラカラカラと馬車が音をたてて動き出す。
「西門から出て道なりに約一日でアランガスタ東の門へたどり着きます。
ギルド付の護衛の方々にはそこで引き返してもらうことになるわ」
馬車を操りながらマリアーナが荷台に乗っている僕と数人の護衛にそう話す。
「国境の門で気をつけたほうが良いことはありますか?」
「アランガスタとは商人の行き来はあるけれど商人でないただの旅人は門の詰め所でいろいろと聞かれるのがあたりまえのようね。
私たちはギルドからの正式な依頼書を預かってきてるからそれほど厳しい調べはないと思うわ」
「そうなんですね。
でしたら僕はマリアーナさんに付き添う従者のようにふるまえばいいですね」
「門ではそれでいいと思います。
ただ、ニードルの町では情報収集をする間はギルド職員として振る舞ってもらいます。
そして、先日も言いましたがその間は私と夫婦であると説明させてもらいます。
これはお互いに余計な声かけをかわす意味があるからです」
マリアーナの説明に「わかりました」と言って僕がうなずくのを見ると彼女は満足そうに笑った。
その後、マリアーナやギルド所属の護衛の人たちと情報交換をしながら進み、昼食の休憩をとることにした。
「この人たちの前では大丈夫ですよね?」
僕な念のためマリアーナにそう確認をとってからカード化した昼食を皆に配る。
「ほう。
これがギルマスが言っていたカード収納を極めた者の手腕か」
護衛のリーダーが感心した様子で僕の開放動作をながめている。
「まだまだ極めたとは思ってませんし、これからもどんどん新しいことを考えていくつもりですよ」
「なんと!?
これでまだ極めていないと言うのか?
世間では使えないと言われていたものだが噂がひとり歩きしたか誰かが故意に
「そうですね。
きちんとレベルをあげる人が増えたならばもう少し世間の評価は違っていたかもしれないですね」
開放した食事をとりながら僕は護衛の人たちとそんな会話を楽しんだ。
「さて、そろそろ出発しましょうか。
荷物を積んでいないから予定よりは早く到着しそうだけれど夜になると進めなくなるからね」
マリアーナがそう言って御者台へとあがり、僕たちの用意が出来るのを待った。
* * *
「――そろそろ見えてくる頃ですよ」
護衛のリーダーがそう僕に告げると登っていた道が平坦となり、木々が少なくなったと思ったとき背の高い建物が見えた。
「あれが国境の門……」
「そうです。
アランガスタとの国境となる門で馬車で移動する限り必ず通らなければならない場所です」
僕のつぶやきに護衛のリーダーがそう教えてくれる。
建物が近づくにつれて緊張からかやけに喉が乾いてカード化してあった水筒をとりだしてのどをうるおす。
「あら、さすがのミナトさんも緊張するのですね。
うふふ、大丈夫ですよ。
この門ではそういったトラブルは起きませんから」
僕の様子に気づいたマリアーナがそう言って緊張をほぐしてくれる。
「は、はい。
すみません、いままで自分のことしか考えてこなかったので皆さんに迷惑をかけたらと思うと予想以上に緊張していたみたいです」
僕はマリアーナにまだ強張ったままの顔で無理やりに笑顔をつくりそう答えた。
「――止まれ。
これより先はアランガスタの国となる。
通行したければ目的と身分証を提示するがいい」
門にたどり着いた僕たちに門兵が淡々と告げる。
「ノーズギルドマスターより指示をうけてニードルの町へ向かう馬車です。
この馬車の責任者はロギナス斡旋ギルドサブギルドマスターのマリアーナと申します。
こちらの男性はギルドの職員で私の補佐をする者です。
そばに控えている護衛はギルド所属の者でここより先は進まずに町へ引き返す予定です」
マリアーナはそう言ってディアルの書いた手紙を門兵へ渡す。
「……ふむ。
たしかにこれはノーズギルドのディアルギルマスの書に間違いないようだ。
いいだろう、お前たち2人は通行料を払ったら通っていいぞ。
護衛の者は今夜は門の休憩室で休んで明日の朝からノーズへ戻るがいい」
門兵の男はそう告げると興味を失ったように部屋に入って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます