第92話【ラウメの正体】
「お前さん、その名前はどこで聞いた?」
先ほどまで歓迎ムードだった集会所の中は静まり返って全員が僕の方をみつめている。
「いえ、トウライの村で雑貨店の主人に渡されたメモにそう書かれていたんです」
僕はそう言ってそのメモを青年に渡すと真剣な表情で彼は僕に聞いてきた。
「このメモと一緒になにか預かってないかい?
たとえばコインとか……」
「コインですか?
それならばここにありますよ」
僕はそう言って懐から白いコインを差しだす。
「間違いねぇ、このコインはあいつらの持ち分を示すものだ」
「あいつら?
ラウメってひとりの人の名前じゃないんですか?」
僕はちょっとした疑問を彼らにぶつけてみた。
「ああ、ラウメってのはあるグループの名称でここにいるメンバーと反対のシフトで働いているんだ。
ちなみにここにいるメンバーのグループ名称は『ソウメ』と言うんだ」
「ラウメとソウメですか。
それでこのコインにはどんな価値があるんですか?」
「そいつはグループ内の活動資金が厳しくなったときにここの特産品であるサンザンベリー(ノーズベリー)を担保に一時的に借金をするためのものだ。
基本的にはトウライの村に所属する者しか知らないもののはずなんだが、どうやら君はそこの店主に気にいられたようだね」
僕は白いコインを返してもらいながら「それでこれはどうしたらいいのですか?」とたずねた。
「もう少ししたらラウメのグループメンバーが帰ってくるからリーダーのアーリーにコインを見せてトウライの村での話をすればサンザンベリーを売ってくれるはずだ。
ついでに酒も売りつけてやれば喜んで話にのってくれるとおもうぞ」
「売りつけるんてすか?
あげるんじゃなくて?」
「おいおい、貴重な酒をタダでやるなんて馬鹿なことをしないでくれよ。
そんなことをしたらあいつら自慢しまくってこっちのグループともめる原因になるからさ」
「貴重な情報ありがとうございます。
ご指摘のようにお酒の提供は控えますが情報は金に等しいと言いますのでせめてこれを受け取ってください」
僕はそう言って親切に話をしてくれたおじさんに金色マースを渡してお礼をした。
「見たことのない色の魚だな、うまいのか?」
「少し前に市場に出回るようになった魚で金色マースと言います。
美味しいと評判は良いみたいですよ」
「そうか。
それはすまないな、是非食べさせてもらうよ」
おじさんは嬉しそうに笑って金色マースをながめていた。
* * *
集会所でいくつかの商品を売り、ラウメに関しても情報を得た僕たちは一度みんなの待つ広場に戻り今後の方針を確認しあった。
「夕暮れ時にはこの村に寄った目的である『ノーズベリー(サンザンベリー)』の購入交渉相手であるラウメのグループが戻ってくるそうです。
そのひとたちから出来るだけ多くのベリーを買っておこうと考えています」
僕の言葉にダランが疑問をなげかける。
「確かにノーズベリーとやらは希少性があり、劣化しないミナトのカード化であれば遠方に運ぶことが出来て高値で売りさばくことが出来るだろうが、その希少性のせいで売るときに足がつかないのかが心配だが大丈夫なのか?」
「もちろんノーズの町では売るつもりはありませんよ。
「なら、なんでそんなに仕入れようと考えてるんだ?」
「それは
おそらく向こうの国には同様の果物はないと思いますし、売るではなく交渉ごとの切り札になればと考えてるんです」
「そうか、それならば……。
いやいや、それこそ『何処から仕入れたか』とかで騒ぎになるんじゃないか?」
「まあ、そこはうまくやりますよ。
あ、そろそろ待ち人が帰ってきそうですのでもう一度集会所へ行ってきます。
夕食は準備しておきますので待っていてください」
僕はそう言うとマリアーナに頼んで馬車をだしてもらった。
「――うまく交渉できるといいわね。
もし、うまく行ったら私にもひとつわけてくださいね」
馬車の御者台からそんなのんきな声が聞こえてくる。
「もちろん良いですよ。
マリアーナさんにはいつもご世話になってますから……」
そんな話をしながらも先ほどまていた集会所の前に到着していた。
「すみません。
流れの商人ですけど『ラウメグループ』の方々でしょうか?」
「ん?
そうだが初めてみる商人だが、なにか用でもあるのか?」
建物に入ると先ほどとは違うメンバーだったので念のために聞くとどうやら正解だったようだ。
「トウライの村の雑貨店主人からこれを売ってもらったのですがこれはこちらのグループのものですよね?」
僕はそう言いながら白いコインを取り出して対応してくれた男性へ渡す。
「トウライの雑貨店主人から?
ふーん。めずらしいこともあるもんだが、それでいくつ欲しいんだ?」
男性は白いコインを本物かどうかの確認をして仲間をみまわすと誰もがうなずいてくれた。
「そのコインで交換出来るだけ多くのベリーがあると助かります」
「その白いコインは小金貨5枚ぶんだったはずだから……それなりの数になるが、そんなに仕入れてどうするつもりだい?
ノーズでは決まった商人しか販売許可を持っていないし、そもそも鮮度が保てなくなるから自前で食べるぶん以外はあまり意味がないぞ」
その男性は親切心からそう忠告をしてくれたが僕は「ちょっと特別な方法がありますのでご心配は無用です」と言って微笑んだ。
「ふむ。
出来ることならその特別な方法とやらを見せてもらうことは出来るか?
売ってしまえば後はそっちの問題だとは思うがこれでも俺たちが精魂こめて育てた作物だから駄目になる可能性があれば考え直してもらうこともあるからよ。
もちろん特殊なスキルとかならば他言無用を約束するから……でどうだ?」
僕は少し考えて「本当に他言無用でお願いしますよ。破ったら損害賠償として後ほどサンザンベリーを請求しますからね」と言って皆がうなずいたのを確認すると「ではベリーの準備をお願いします」と笑顔で答えた。
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