第74話【研修の進捗報告】
ノエルから渡された手紙によると王都の斡旋ギルドマスターのランスロットと共にノエルの父親であるマグラーレは予定通りに旅が進めば明後日にロギナスの町に到着するらしい。
(確かに最初から半年後に一度確認をするとは言われていたが、わざわざ王都から馬車でロギナスまでやって来るとは思わなかったな。
てっきり僕たちを王都に呼びつけて報告をさせるものと思っていたよ)
「わざわざロギナスまで来て頂けるのですね。
それもマグラーレ様だけでなくギルドマスターのランスロット様まで」
「それだけこの企画に期待してるということだと思いますわ」
ノエルは本心から前向きな発言をするが正直言って僕は半々だと思っていた。
(確かに上手く行けばギルドの力は今以上に盤石になり、その頂点である王都のギルドマスターとなれば影響力は計り知れないだろう。
マグラーレ様にしても今回の企画の第一スポンサーとして、そしてその中心として影響力を持つ僕に娘を嫁がせれば自分の思い通りに裏から手をまわせる存在となれるだろう。
まあ、その前提は僕が素直に言うことを聞けばの話だが……。
それに正式発表の前に広まるのは面白くないだろうから王都での報告は控えたと考えるのが妥当だろう)
ホッとした表情をするノエルに余計な心配をさせないように僕は考えた事を自分の中だけに留めておいた。
そしてその日は訪れた。
* * *
「ようこそおいでくださいました。
研修の成果はこちらの部屋にてご確認頂くように準備をしております」
僕は施設の会議室へと招き入れたふたりに深々と頭を下げて挨拶をした。
「うむ。
その
……では、見せてもらおうか」
マグラーレは表情を崩さずに僕をジロリと見据えるとそう告げる。
「まあ、そんなに緊張せずにリラックスしてくれたまえ。
君たちは各町の斡旋ギルドの代表としてこの企画に参加しているのだから足を引っ張るような人材を送り込むギルマスは居ないだろうからね。
まあ、もしもだがそんな非協力的な町があれば私にも考えがあるがな」
マグラーレの隣では王都斡旋ギルドのランスロットがメンバー全員に対してプレッシャーをかけてきた。
(いやいや、そんな脅し文句はそれぞれの町のギルドマスターに直接言ってくれよ。
ここに来ているメンバーは命令で無理矢理に選ばれたと思われる者も居るんだから……)
言葉には出さないが僕は心の中でそう悪態をついた。
「そうですね。
みなさんとても優秀な方々ばかりなので僕としましても非常に教えがいがあって助かってます」
心の中の悪態などおくびにも出さないで僕は研修のメンバーをそう紹介した。
「では、当初からの企画書にあるとおり荷物のカード化からメンバーによるカードの共有化について説明と実際に確認して頂きたいと思います」
「そうだな。やってくれ」
僕はマグラーレの言葉に「はい。では……」とうなずき準備をしていた大きさの違う木箱を次々とカード化していった。
「なかなかの手際じゃないか。
これだけ連続でカード化出来るならば荷物が多少増えても問題ないな」
マグラーレの言葉に僕は少しだけ意見を入れる。
「ありがとうございます。
ですが、カード化出来る大きさや数量はスキルのレベルによって変わりますのでレベルの足りない者に無理は禁物に願います。
ですので、今回の企画が順調に動き出したならば早急に複数の担当職員の育成を進言致します」
「ミナト君はああ言っているが君の見解はどうだね?」
僕の意見を聞いたランスロットが王都より選抜されたキリュウに名指しで意見を求めた。
「はい。
ワシもミナト殿の意見に同意しますのじゃ。
これは後で報告するつもりじゃったが先日カード収納スキルのレベルが5に到達して扱える内容が格段に増えたのは間違いないのじゃがそれでも例えば馬車一台分の荷物をすぐにカード化しろと言われても魔力の関係で無理と答えるしかない。
これからこの運送方法が拡大すればするほどそれを取り扱える人材が必要なのは明白じゃと思います」
キリュウは今回の企画の仕組みやこれから起こるであろう物流の激変を理解してギルドマスター相手でもはっきりと意見を述べた。
「そうか。わかった」
ランスロットはキリュウの物言いには特に言及せずにそう言ってうなずくと少し考え込むように黙った。
「では、続きを……」
僕はそう言ってカード化したものをキリュウほか全員の前に置いていき「では、お願いします」と皆に声をかけた。
「
「
カードを渡された皆は予定どおりに権限の共有化を行いその後カード化を解いていった。
「これがカードの共有化です。
このスキルによりカード化した本人以外のカード収納スキル持ちの方でレベル3以上ならばこうやってカード化を開放する事が出来るようになります。
例えばロギナスでナムルさんがカード化したものを王都でキリュウさんが元に戻す事が出来るということになります。
そして、その輸送にはギルド所有のゴーレム伝書鳩を使えば馬車で5日かかっていた道のりが1日程度で運べるようになります。
しかも御者や護衛、馬車の手配も必要なく盗賊や獣に襲われる心配もありません」
僕の説明を「ううむ」と唸りながら聞くマグラーレと早くも次の一手を模索するランスロットを見てオールが冷めてしまった紅茶を引き上げて僕が出すように指示していたお菓子と共に新しく淹れた紅茶をふたりの前に置いた。
「少し話が長くなってきましたので紅茶でもいかがでしょうか?」
僕の言葉に「ああ、そうさせてもらおうか」とマグラーレが紅茶のカップに手をのばしてからふと気がつく。
「このお菓子は王都でしか手に入らないもののはずだが?」
「そうですね。
これに関しては僕が以前王都へ行った時に購入したものをカード化しておいたものになります。
僕は偶然にもメインスキルがカード収納でしたのでこのような事が可能になりましたがサブの方には難しいでしょう。
ですが今回の運送革命が実現すれば時間劣化はあれど1日程度ならば本来王都でしか食べられないものがここロギナスでも食べる事が出来るようになる……」
「もう良い。 わかった」
マグラーレは僕の話に被せるようにそう言うと「認めよう」と僕に告げた。
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