第73話【限界突破の紋と皆の現況】
僕がキリュウの手の甲に自らの手を重ねてスキルを発動する。
「限界突破・祝福」
スキルを発動させると重ねた手がぼんやりと光を放ちそのひかりが彼の手に吸い込まれて行くと光は収まった。
「これで終わりです。
手の甲に紋が浮かび上がっていると思いますが先ほど話したとおりレベル6相当の経験値を積み上げればこの紋が消えます。
そうした時に初めてこの祝福があなたのものになりますので頑張ってください」
「ほう。
これがその証じゃな?
そうすぐに上がることは無かろうが気長に鍛錬をするとしよう」
自らの左手の甲を嬉しそうに眺めながらキリュウは僕に握手を求めた。
「ならばワシは自分のペースでやらせてもらうのでなにかあれば呼んでくれるかの」
キリュウはそう言って何度も左手の印を眺めながら自分の部屋へと戻って行った。
(いずれギルド所属の誰かに統括を任せなければならないだろうから今回の件は無駄にはならないだろう。
その時までに彼がレベルアップしていれば統括の役は彼に任せるのがいいかもしれないな)
ひとつの大きな壁を乗り越えたキリュウの背中を見つめながら僕はそう考えていた。
* * *
「そうです!
その感覚を大切にしてください。
それが
これが出来れば今回の研修の最低限のノルマは達成となりますから頑張ってください!」
キリュウがレベル5に達した頃、効率の良い研修を続けた他のメンバー達もしっかりとレベルをアップさせていた。
もともとレベル3だったヤーゴはレベル4になりアーファとナムルも予定ではそろそろレベルが4に上がると思われる程の経験値を積み重ねていた。
スタートはレベル1ながらも効率的な研修をアーファやナムルと共に進めたロセリもレベル3までに成長していた。
「皆さん順調なようで僕も安心してます。
この企画が決まって研修を開始してから約4ヶ月が経過しました。
ここに集まってくれた方々の全員のレベルが3に達しましたので約2ヶ月後に控えた経過報告の準備をしたいと思います」
「経過報告……ですか?」
一番にロセリが反応したので僕は彼女に向かってうなずいてから説明を続けた。
「この企画は王都斡旋ギルドのマスターのランスロット様とスポンサーであるマグラーレ様の協力の元で進められています。
実際に使えるようにするための準備期間は1年としていますが半年経った時に進捗の確認をおこなうと決められました。
その時点である程度の目処がたっていなければ企画は中止となります」
「そんな!?
これだけ頑張ってるのに中止するなんて……。
それに途中で中止になったら私たちの処遇はどうなるのでしょうか?」
レベル3に達したとはいえ一番遅れているロセリの口からは不安の言葉が漏れる。
「ああ、すみません。
現時点で皆さんのレベルからすれば全く問題なくいけるはずですからそんなに心配しなくても大丈夫ですよ。
特に今回は今やってもらっているカードの共有がうまく出来るかを見てもらうだけですから」
「だが、最終的にはここにいる全員がレベル5にならないと駄目なんだろう?
確かに効率的な研修ではあるが間に合うのか?」
ヤーゴがちらりとロセリに視線を送ってからそう質問をする。
「とりあえず最低限レベル3になっていれば形にはなると思います。
ただ、受け取る方は良いですが送る方は一度に纏められる容積が多くなるので出来ればレベル4は欲しいところですね。
それにレベル5まで達したらカンストボーナスもありますからたとえ期限に間に合わなくても最終的には皆さんそこまでは訓練を続けてもらえると良いですね」
僕はそう言いながら場の雰囲気を和ませるためにポーチから数枚のカードを取り出して「またいつものように練習を兼ねて一息いれましょう」と皆に促した。
――さらに時は進み、マグラーレからの宿題である半年が目前に迫るころギルド経由でふたりの訪問日程が伝えられた。
「みなさん、以前説明した進捗報告を求める日程が決まりました。
来週の頭に馬車にてロギナスへ来ることになりました。
ナムルさんとアーファさんもレベル4になりましたし、共有化の方は全員問題なく使えるようになっていますので変に緊張する必要はありません。
報告の段取りは僕がしますので皆さんはいつもどおりの研修をお願いします」
僕が皆に説明をしていると施設の入口から声が聞こえてきた。
「これはこれは、ようこそおいでくださいました。
ちょうど皆さん休憩をしているところですからどうぞ中へお入りください」
オールが玄関に出迎えたのはピクニックバスケットを抱えたノエルだった。
「あの、ミナトさん。
お邪魔かもしれないけれど……これ差し入れとお父様からの手紙。
私のとあなたのぶんの2通届いたの。
私の手紙には近日中にロギナスに来るとあったわ。
多分だけど半年前に言ってた研修進捗の確認だと思うわ」
ノエルはそう言って持ってきたバスケットと手紙を僕に渡した。
「じゃあ、私はお店に帰るから……」
そう言って帰ろうとする彼女を僕は「時間があるなら一緒に食べませんか?」と呼び止めてニコリと笑った。
「良いのですか?
おそらく数日のうちには到着すると思いますけど……」
ノエルには今の研修の進捗状況は伝えていなかったので彼女は報告に間に合うのかが不安な様子でそう問いかけた。
「進捗の報告ですよね?
おそらく問題ないと思いますよ。
ここに来てからの皆さんのレベルアップは順調ですし、予定通りのプレゼンが出来る準備もしてありますから」
「そ、そうなんですね。
お父様はこうと決めたら妥協をしないので間に合わなければ本当に途中だろうがもう少しだろうが中止させるんです。
それで何度反感を買ったことか……。
でも、そのやり方でここまで商会を大きくしたのも間違いではないのですけどね。
……だけどミナトさんの言葉を聞いて安心しました」
そう言ってニコリと笑うノエルに僕は優しく笑い返すと受け取った手紙の内容を確認した。
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