第72話【カンストボーナスの選択肢】
キリュウはその日もいつもどおりの訓練を進めていたがふとスキルを使う負荷が重いのに気がついた。
「むっ!?
この感じはまさか……」
「どうしましたキリュウさん」
既に各自で訓練をする日課に移行していたので自分の訓練に集中していた僕はふとキリュウの様子がいつもと違うのを感じて声をかける。
「いやな、今日に限ってスキルを使う時にやけに負荷がかかるんじゃが前にも似たような事があったなと思いだしておったのじゃよ」
「負荷が重く……ですか?」
「うむ。
前回はレベルが4に上がる寸前にやはりそういった事があったので今回ももしかするとレベルが上がる前兆ではないかと思うのじゃよ」
以前、アーファのレベルアップの予測をしたことがあったが、あれはレベル2だったのでこぶし大の石で代用できたがレベル5相当となるとかなりの容積を要する物質を準備する必要があるので事前予測は難しいと思っていたが、まさか本人からそういった感覚を教えてもらうことになるとは思ってもみなかった。
「そうですか。
僕自身にはレベルアップ前のそのような感覚は経験していませんのでそれはキリュウさん特有の感覚なのかもしれませんね」
僕はそう言いながらも初めて見れるかもしれないレベルカンストに気持ちが高鳴る。
「しかし、ほかのスキルではカンストボーナスなんて聞いたことがないが、本当にそんなものが存在するのか?」
キリュウの期待と不安は良く分かるが実はカンストボーナスを引き出すにはある一定の条件が存在する事が僕にはわかっていた。
あまりおおっぴらに宣言をしたく無かったこともあり、誰にも話してはいなかったが実のところ僕のカード収納スキルはレベル9に上がっていたのだが、その恩恵は容量の拡張と視認範囲のカード化で容積も5メートル四方と格段に多くなっていた。
(しかし、まさかカンストボーナスの発動に女神様の祝福が必要だとは思わなかったな)
【――限界突破の印・女神の祝福】
高レベル者のスキルで低レベルの壁、サブスキルの限界5レベルの壁を越えさせる印を左手に刻み込むスキル。
――但し、僕限定。
この能力はあの女神様からのサプライズらしく他にメインスキルがカード収納の人が居ても同じスキルが使えることはないらしい。
(これって本当に使って大丈夫なのか?)
自分しか出来ない事を広めてしまうと余計な面倒に巻き込まれる可能性が高くなることから僕はスキルを使うことにためらいを感じたが『今までにカード収納スキルがメインになっている人が存在すること自体が非常に珍しいことから自分だけの能力であることはバレないかもしれない』と好奇心の方が不安を上回ってしまい一応の箝口令を敷くことで使うことを決めたのだった。
――そしてその時は訪れた。
「おおっ!? あがった! あがったぞ!」
キリュウは自らの手に収まるカードを見つめながらそう叫ぶ。
「これがレベル5の世界か!
サブスキルの最高値とされる頂きについにたどり着いたぞ!」
「おめでとうございます。
レベルカンスト一番乗りですね。
カード化の容量も増えて今回の研修の最終段階まできたので後は手順と今後の打ち合わせを済ませたら自由行動とします。
一度王都へ帰られても良いですし他の方の手伝いをされても構いません。
単にゆっくり休まれても良いですよ」
僕がキリュウにそう伝えると彼はすぐに「カンストボーナスはどうやったら取得出来るのじゃ?」と迫ってきた。
「そうですね。
いくつか選択肢があるのでそれをご提示します。
その中からひとつ選んでください」
「まず、基本となる『容積の拡張』です。
レベル5の最大容積は1メートル四方になりますがこれが2メートル四方となります。
つまり8倍の容積となるので相当なアップになりますね。
次に特殊な『時間経過の停止』となります。
これは字のごとくカード化した物質の時間経過を止めることにより時間劣化をしなくなる特殊なスキルです。
最後に『限界突破』ですが、他の2つは今の時点でどちらかひとつだけですがすぐに付加することができますが、この限界突破は本来のレベル6相当の経験値を貯めることによりレベル自体は5のままでレベル6にレベルアップすることができます。
ただし先に言っておきますが少なくともレベル5になるために貯めた経験値の数倍は必要です」
「それをワシに今ここで選べと言うのか?」
「はい。
このタイミングでしか付加することが出来ませんから」
「ううむ。
……少しばかり待ってくれんか?
10分……いや5分でいい」
キリュウは僕がうなずくのを見ると目を閉じて考え込んだ。
――選択するのはいつも大変だ。
どれを選んでも正確とは思えずどれを選んでも後悔がついてくるから。
僕ならばどうするかと考えながら黙ってキリュウの答えを待つ。
「よし! 決めたぞ」
キリュウの言葉に僕はニコリと笑うと「どれを選んでも自分に自信を持ってくださいね」といい彼の答えを待った。
「――限界突破だ」
「わかりました。
では準備をしますので少し待ってくださいね」
淡々と答える僕にキリュウは拍子抜けした表情になったが自分の答えに自信をもって黙って待った。
「良い表情ですね。
聞くだけ無駄だとは思いますが限界突破を選んだ理由を聞いてもいいですか?」
僕はキリュウの方は向かずに準備を続けながらそう問いかける。
「確かに先のふたつは魅力的じゃ。
それが今すぐに使えるようになるのはとんでもないボーナスのようなものじゃがワシは欲張りでの。
限界突破で修練を積めば最終的にはどちらも使えるようになるんじゃろ?
ならば
それが理由じゃよ」
「ありがとうございます。
では準備が出来ましたのでさっそく取り掛かることにしますが、ひとつだけ約束をして頂きたいことがあります」
「なんじゃ?」
「実はこのカンストボーナスと言うものは僕が勝手に名付けたものでいろいろ調べた結果、これと同じ事が出来るひとは存在しないかもしれません。
つまり、高レベルになれば誰でも使えるスキルではないという事ですので僕が付加した事は他言無用にお願いします。
もし、他人からスキルについて聞かれたら『レベルアップした際に偶然使えるようになった』としてください」
「それは強制かの?」
キリュウはあごに手を持っていき少し考えをまとめると続けた。
「まあ、おぬししか出来ないと知れれば権力者が利権を求めて囲い込みをするであろうからな。
ワシも
「すみません。
理解頂けて嬉しいです。
では始めますので左手を前に出して目を閉じてください」
僕はそう言うと彼の左手に手を併せた。
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