第70話【クセのある新人たち】
次の日の朝、僕たちはいつもどおりに食堂で朝食を食べていた。
「なんか、結局アーファさんに作ってもらうのが当たり前のようになってしまいましたね。
当初は持ち回りや外食もする予定でしたけど昼や夜はともかく朝はなかなかそうはいかないですし……」
「あはは、まあ私もメインスキルである調理の経験値を稼いでいると思えばそれだけの負担ではないですし、もともと料理をして人に振る舞うのは好きな事ですから朝食づくりくらい大丈夫ですよ」
「すみません。
出来ればこれからもお願いします。
もちろん他の人たちから調理に対する報酬は出させてもらいますので……」
「気にしなくてもいいと言いたいけれど、お互いの合意のうえでってことでありがたくそうさせて貰いますね」
朝食づくりの話がまとまり皆でオールの淹れた食後の紅茶を飲んでいた時、玄関から声が聞こえてきた。
「おっと、お客さんかな?
研修生が来るには少々早すぎる時間だと思うんだが……」
オールはそうつぶやくと椅子から立ち上がり施設の入口へと向かった。
「どんな人たちなんでしょうね?
仲良くなれたらいいな」
アーファがそう言う横ではナムルが緊張した面持ちで紅茶を黙って飲んでいた。
ほどなくしてオールが部屋に戻って来てやはり今回の研修を受けに来たメンバーとのことでお互い挨拶をしようなった。
「では、
紅茶を飲みながら自己紹介なんかをすればすぐに打ち解けられることでしょうし」
楽観的にそう答える僕に少し苦笑いをしたオールだったが「わかりました」と言って訪問者たちに食堂へ集まるように伝えた。
* * *
「はじめまして、僕が今回の企画をまとめているミナトといいます。
ここに来るまでに皆さんは僕の事や今回の研修についてギルドからある程度の情報を聞いているとは思いますが最終的な目標がぶれていたら意味がなくなりますので最初にそこだけは話をさせてください」
僕はアーファとナムルに加え新たに送り込まれてきた3名の男女を前にそう話を始める。
「ここに集まって貰った人たちの共通点は『カード収納スキル持ち』であることは当然分かっていると思います。
世間一般ではあまり評価をしてもらえていないスキルですが、レベルをあげれば使い方次第で素晴らしい活躍を期待できるものだと思っています。
今回の企画では現在馬車にて運搬されている物資の数々をカード化することにより軽量化、それだけでも価値があるのですがさらにその物資カードを斡旋ギルドがギルド便として使っているゴーレム伝書鳩を使い王都をはじめ各地の都市を結ぶ『空飛ぶ物資運送』の実現に向けた研修になっています。
初期メンバーに選ばれた皆さんには是非ともこの技術を習得されて物資運送の革命を共に成し遂げて頂きたいのです」
僕はそう言ってから集まった5名のメンバーを見回してから続けた。
「ではここで、先に研修を開始されたかたに加えて新たに加わった人もいらっしゃいますのでそれぞれ自己紹介をお願いしたいと思います。
話せる程度で良いので出身地とスキル構成、この場で言っておきたいことがあればお願いします。
そうですね、まずは僕からにしましょうか」
僕はそう言って紅茶を一口飲むと自己紹介を始めた。
「名前は先ほども言いましたがミナトです。
スキル構成はメインにカード収納、サブに鑑定を持っています。
ちょっと訳あって昔の記憶が曖昧なので正確な出身は不明ですが今はこの町を拠点に活動しています。
今回の
他の能力に関しては研修を通して少しずつ説明をさせて頂きます」
僕の自己紹介を聞いた壮年の男性が椅子から立ち上がって思わず声をあげる。
「レベル8じゃと!?
カード収納がメインスキルなのも驚きだがその若さで既にそこまで達しているとは何か秘密があるのか?」
「秘密というほどの事はないですけど効率の良いレベルアップ方法ならばこの研修で実践をしていますよ。
僕の横に座られているおふたりも当初はレベル1でしたが、まだ1ヶ月もたっていない研修でレベル3まであげることが出来ています」
「なるほど、そのレベルは伊達ではないと言うことか……。
いやすまんな、年をとると自分の常識を越える事柄にあうとにわかには信じられないものでな。
ワシは王都ギルドからの代表で名をキリュウという。
スキル構成はメインが万能記憶でサブがカード収納じゃ。
カード収納スキルのレベルは4、サブスキルの最高は5じゃからあとひとつなんじゃがいくら使おうともレベルがあがらなかったんじゃ。
おぬし何か知っておるかの?」
「そうですね。
いくつか心当たりはありますがいまこの場で明確な答えは出すことは出来ませんので研修を通して確認させて貰えればと思います」
僕の答えにキリュウはひとつうなずくと隣に座っている男性を見た。
「次は俺の番か?」
そう言った男はポケットから一枚のカードを取り出して皆の目の前で開放する。
「
男のスキルでカードから復元されたものは大振りのハンマーだった。
「コイツが俺の商売道具だ、ザザリアのギルドでは鍛冶職人として務めていた。
メインが鍛冶でサブがカード収納だ。
レベルは3、
正直、この研修のために1年も街を離れる事には納得していないがギルドマスターからの勅命だから仕方ねぇ。
だが、さっきの話を聞いて少しだけ興味が湧いたから暫くは付き合ってやるさ。
ああ、名はヤーゴだ」
ヤーゴがそう言うと隣の女性が話を始める。
「始めましてですね。
ノーズの街から来ましたロセリと申します。
ギルドでは主に裏方事務を担当しておりました。
スキル構成はメインが速読速記、サブがカード収納になります。
レベルは申し訳ありませんが使用する機会があまりなく1のままです。
本当に私なんかがこのようなギルドを代表する研修会に参加していても良いのでしょうか?」
自信のない表情のロセリがその身体と同じく小さな声でそう問う。
「大丈夫ですよ、私だってつい数週間前まではレベル1でしたから。
あ、私アーファって言います。
エルガーの街でギルド食堂で勤務してました。
メインが調理でサブがカード収納、レベルは3になったばかりです。
よろしくおねがいします」
「「よろしく」」
「――ナムルです。
この町のギルドで受付補助と事務全般をしています。
スキル構成はロセリさんと同じく速読速記、カード収納スキルレベルはアーファさんと同じく3になりました」
口下手なナムルだったが隣にアーファと僕が居たことによりなんとか自己紹介を終えた。
「じゃあ最後に、私がこの施設の管理をしているオールだ、この施設で分からないことがあればまず私に聞いて欲しい。
また、要望があれば可能な限り対応するつもりだから気軽に話してくれ。
まずは新しく来た3人には部屋を案内するからついてきてくれ」
オールの言葉に3人がうなずくとその場は解散となった。
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