第69話【レベルアップと新人到着】
研修も順調に進み、始めてから約3週間が経過した頃ほぼふたり同時にレベルアップの報告を受けた。
「ようやくレベルが3になりましたので新たな研修が始められますね。
まずは以前お話していた開放条件の更新から取り掛かりましょうか」
正直言ってこの研修の一番の目玉はこれに他ならないので今日からは暫く権限の移行のやり方について特訓を受けてもらうつもりだ。
「とりあえず僕がカード化したパンの権限を共通化してみましょう」
僕の指導言葉に勉強熱心なナムルがすぐさま反応してスキルをつかってみる。
「
ナムルのスキルが発動してカードの裏に魔法陣が浮かび上がる。
「良さげですね。
では開放してみてください」
僕がナムルを促すと彼はうなずいてスキルを唱える。
「
ナムルの言葉と共にカードが光を帯びてカード化が解除され皿に乗ったパンがあらわれた。
「やった! 成功しました!」
ナムルはそう叫んで喜びをあらわにした。
「お見事です。
ではアーファさんもやってみましょうか」
僕はそう言うとポーチから別のカードを取り出す。
「これは王都で買った甘味がカード化されています。
うまく開放出来たら食べても良いですよ」
「えっ? これってもしかして甘々屋のあんみつですか?」
アーファは渡されたカードの内容を確認しながら目を輝かせて僕に問いかける。
「確かそんな名前のお店だったと思うけどそんなに有名な甘味屋なの?」
王都でたまたま見つけたお店でそんな人気店とは思っていなかった僕は逆にそう聞いていた。
「ギルドの女性たちの間では凄い人気のお店でおまんじゅうを中心に
これを氷魔法で冷やして提供するスタイルが人気の秘密だと聞いています。
で、本当に開放できたら食べても良いんですね?
今の話を聞いて惜しくなったと言っても遅いですからね」
アーファはまだカード化されたままのあんみつをギュッと抱きしめて僕に確認をした。
「ははは、そんな事を言うはずがないですよ。
そのあんみつは王都のお店で一度食べた事があるし、僕自身甘い物は苦手ではないけれど絶対に食べたいものではないんです。
まあ、誰かと一緒に甘味屋に行けば普通に食べますけどね」
僕の言葉を聞いたアーファがホッとした表情をした後でものすごく嬉しそうにスキルを唱えた。
「
カードはアーファのスキルに反応し、ナムルと同じく淡い光と共に魔法陣が浮かび上がる。
「
アーファは喜々としてカードを手にスキルを唱えた。
「やった! こ、これ夢に見た甘々屋のあんみつ……しかも冷たい!」
お店に出された商品をそのままカード化しておいたものなので時間劣化の無い僕のカード収納では当然ながら冷たいままのあんみつだった。
「食べて良いんですよね?
いや、絶対、もう、食べます!」
途中から言葉がおかしくなっているのも気にせずアーファはスプーンをあんみつへと差し入れてすくい自らの口へと運んだ。
「冷たい! 美味しい!」
アーファはそう叫んで次々とあんみつを口へ運び一口ごとに感嘆の声をあげた。
その横ではナムルがカードから開放したパンをかじりながらそれを微笑ましく見守っていた。
「あ、ナムルさんも甘味のほうが良かったですか?」
「あ、いえ。
私もそれほど甘味を食べる方ではありませんのでコレで十分ですよ」
「ナムルさんにはエールの方が良かったですかね?」
「……研修後ならば喜んで頂きますが今はやめておきましょう」
ナムルは一瞬だけ喜びの表情を見せたがすぐに真面目な顔でそう答えた。
「ナムルは真面目だからなぁ。
斡旋ギルドでの勤務中じゃないんだから少しくらい気を抜いてもいいんじゃないか?」
いつの間にか紅茶を淹れたカップを僕たちに出しながらオールがナムルにそう言って笑う。
「いやいや、オール兄さんはそんな性格だからギルドの上層部の人に煙たがられるんですよ。
能力はあるのに自由すぎるってこんな施設の管理人をする羽目になったあの事件は今でもギルドの職員の中では有名ですよ」
「あれはどう考えてもあいつらの頭が固すぎるのが原因だと思うんだがな……。
まあこっちもあいつらの顔を見なくて済むこの施設の方が気が楽だし別に気にする必要はないんじゃないか?」
オールはそう言って特に気にする様子もなくいつもの仕事をこなしていく。
「オールさんってナムルさんのお兄さんなんですよね?
実は凄く優秀な人なんですか?」
あんみつを食べ終わって幸せそうな表情のアーファがナムルにそう問うとナムルはうなずいて「僕より数段優秀ですぐにギルドでも幹部になるって言われてたくらいですよ」と教えてくれた。
「まあ、わたしの事はそのくらいにしておいて休憩が終わったならば研修の再開をされてはどうですか?」
オールはあまり自分の事を詮索されるのは好きではないらしく必要な仕事を終えると「では後ほど」と言って部屋を出て行った。
「あの事件とか気になるワードがいくつも出てきたけど個人的な事を詮索するのはマナーが悪いしオールさんにはこれからもお世話になるのだからこの話はここまでにして研修の続きをするよ」
僕はそう言って話を切ってから所有権共通化の特訓をするべく何十枚ものカードをテーブルに並べていった。
「――さすがにこの量は大変でしたね」
「はい。
疲れすぎて甘い物が食べたいです」
特訓を終えたナムルとアーファは疲れからテーブルに突っ伏したままで感想を言い合っていた。
「ミナトさーん。
なにか甘い物を持ってたりしませんか?」
「甘い物ですか?
そうですね、これなんかどうです?」
「えっ!? なにかあるんですか?」
アーファは僕が出したカードを素早く受け取るとその内容を確認して顔をほころばせる。
「これって貰っても良いんですか?」
「まだ変換出来る魔力が残ってるならね」
もう、とてもではないがアーファにはそのカードを変換して開放するだけの魔力は残っていなかった。
「うー、ずるいです。
そんな意地悪をせずに普通に優しくしてくださいよぉ」
アーファが涙目になってそう懇願するので「仕方ないな」とカード化を解いてやる。
そこにあるのはお皿に乗った3つのまんじゅうでそれをアーファは喜々として頬張ると幸せそうな表情を見せた。
「あ、そうだ。
ミナトさん、先ほどギルドから連絡があったのですが残りの研修生が到着したようで明日にでも保養施設に来るそうです」
「え?
もう来てくれたんですか?
少なくとも後一週間は先だと思ってました。
わかりました、明日には受け入れをしますので部屋の準備をお願いしますね」
「そうか、ようやくこれでメンバーがそろうんだな。
聞き分けの良いひとだと良いんだけどさてどんなひとが来るかな?」
僕はそうつぶやいて明日を楽しみにしながらオールの淹れてくれた紅茶を飲んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます