第59話【研修施設へ向かう道】
「――まあ、とりあえずナムルがやる気を出したみたいで良かったよ。
この男はやればそれなりに何でもこなす力はあるのに自分に自信が持てなくて最後の良いところばかり人に持っていかれてしまうところがあるんだ。
今回の件はうまくいけば本当の意味でギルドの部門を任されるようになれるものだから俺としては彼にやって欲しかったんだよ」
ザッハは隣に座るナムルの頭をポンポンと叩きながらニヤリと笑う。
「まあ、そんなところだから宜しく頼むわ。
それと頼まれていた研修施設なんだがギルド保養施設のひとつを1年間借り上げる形で使ってもらうようになる。
あそこならば宿泊設備もあるし、厨房もあるから飯もつくれるだろう。
もし、どうしても必要ならば料理人も斡旋してやるがどうする?」
ザッハの申し出に僕は少し考えてから答えた。
「これからの生活全てが研修になりますのでとりあえず最初は自分達でやろうと思います」
「そうか、まあ必要になったらすぐに声をかけてくれ」
ザッハはそう言うと書類をテーブルに置いて説明を始める。
「施設の場所はギルドのある中央部から東南方向の道をずっと進んだ先にある。
ナムルは行った事があるだろうから分かるだろうが施設の管理をしている男性がいるので何かあれば彼に相談するといい。
こいつは施設の使用許可書になるので彼に渡してくれれば分かるようになっているものだ。
予定期間の1年間は長いようですぐに来るぞ、結果を出さねばならない大変な研修となるだろうが頑張ってくれ」
ザッハはそう言うと案内をナムルに任せて部屋から出ていった。
「――えっと、その……。
これから施設に行ってみようと思いますけど馬車と徒歩のどちらで向かいましょうか?」
「私はこの町のことはよく知らないのでその施設がどのくらい離れているのかが分かりません。
ちなみに歩いて向かったらどのくらいの時間がかかるものなんですか?」
アーファがナムルにそう問うと彼は「ゆっくり歩いて30分くらいだと思います」と答えた。
「せっかくですので歩いてみませんか?
これから1年間はこの町で暮らすことになるのですから少なくともこのギルドから施設までの道のりにどんなものがあるかを知っておくのは無駄にはならないと思いますから……」
「そうですね。
私もそのほうがいいと思います」
僕の提案にアーファが同意をしたのでナムルもうなずいて「ではそうしましょう」と必要な書類をカバンにつめていった。
* * *
「この通りは商業施設が多く集まっている区画なんです。
食料品なんかはこのあたりのお店でだいたいの品物はそろうと思いますよ」
相変わらずこちらを見ずに町の情報を淡々と説明するナムルにアーファは興味深くお店を見ながらゆっくりと歩いて行く。
「なるほど、日々の食事の材料はこのあたりのお店で調達するんですね……ってそういえば施設は借り上げてくれたようですけど食費なんかはどうなるんでしょうか?」
アーファがふと気がついた事を聞いてくる。
「今回の研修中はギルドに所属している皆さんは通常の報酬を受け取る権利があるそうですのでそこから食費を分担で出し合うようになると思いますよ。
そのほかにも生活に必要なものは各自、若しくは共同購入で対応するそうですが研修に必要な経費に関してはマグラーレ様が負担をしてくれるみたいですね。
まあ、食費に関しては全員が集まるまではこの3人で出しておいてその後はまた話し合えばいいでしょう」
「わかりました。
私もそれでいいですけどナムルさんはどうですか?」
「わ、わたしもそれでいいですのでお任せします」
アーファの問いかけにナムルも慌てて同意をした。
「とりあえず今日は出来上がった食事を買って行こうと思いますがそれでいいですか?」
お店の中に食事処を見つけた僕がそう提案をして二人に同意を求めた。
「それは構いませんが何かあるんですか?」
アーファが聞いてきたので僕は正直にこの後でノエルと食事を、する予定がある事を話した。
「先に予定があるのでしたら仕方ないですね。
でも、お店で食事をするならばともかく買って帰るには持ち帰りのお店が良くないですか?」
「まあ、普通ならばそうだろうけど僕たちの持っているスキルをうまく使えばそれよりも簡単に食事を運べるよね?
これも研修のひとつだよ」
僕はそう言うと食事処に入りメニューをふたりに見せて選んでもらっている間に店主に相談を持ちかけた。
「そうですね。
では、私はこの山鳥の蒸し焼き定食でお願いします」とアーファがメニューを決めるとナムルが「じゃあ、わたしは肉団子と野菜の炒めもの定食にします」と言ってメニューを置いた。
十分もした頃、ほかほかのいい匂いをさせた料理が運ばれてきてテーブルに並べられた。
「じゃあそれぞれの料理をカード化するよ。
――
僕がスキルを使うと目の前にあった美味しそうな料理は2枚のカードとなり僕の手に握られていた。
「見事なものですね。
私ではこのパンひとつをカード化出来るかどうかですものね」
素直に感心するアーファに僕は「直ぐには難しいかもしれないけれど数ヶ月後にはこのくらいならばカード化出来るようになるよ。
まあ、時間経過はするから折角の料理が冷めてしまうのが難点だろうけどね」と苦笑いをしながら料理の代金と食器の保証金を店長に手渡した。
「今回は食事を食べた後で食器を洗って後日返しにくるからね。
きちんと返却すれは今渡した保証金は返してもらえるようになってるからね」
僕は今回の研修ではとにかく皆にスキルをたくさん使ってもらうように考えていた。
このやり方もそのひとつで料理そのものはカード化出来なくても例えば返却する食器をカード化して運べば落として割る心配も無いし収納と開放の練習にもなる、それにそうして他の人の目にとまる事によりカード収納スキルは思ったよりも使えるスキルなのだとの認識が広まればいいとの打算もあった。
「――さあ、到着しましたよ。
この建物がギルド所有の保養施設になります」
これからの事を話しながら歩いているとナムルがある建物の前で立ち止まり僕たちに紹介をした。
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