第58話【壮大な計画と気の弱いナムル】

「まずはミナトの計画の全容を君の口から聞きたいと思うが構わないか?」


 王都ギルドからの指示書と手紙がすでに届いており、書かれてあった内容の準備は既にすませてあったがザッハは僕が自分の意思でこの計画を立てたのかが気がかりだったようだ。


「そうですね。

 この計画は単純に言えば今ギルド便で使っている『ゴーレム伝書鳩』を利用して荷物の運搬をしようという計画です。

 ゴーレム伝書鳩、通称『ギルド便』は通常では馬車で10日かかる道程を1日で飛ぶことが出来、道中で獣や盗賊に襲われる心配もなく、馬車や御者の賃料から護衛の依頼料まで必要が無くなります。

 そして、ギルド便の唯一の弱点は重量制限があることですよね。

 手紙や書類関係くらいしか運べないのを考慮するとおそらく1㎏程度までではないかと推測します。

 そこで今回の計画の主となるものがカード収納スキルとなります。

 これによりレベルにも左右されますがうまくすれば馬車1台程度の荷物ならばカード数十枚に変換出来ますので運べる計算になります」


「うーむ。

 いちおう理解はしたつもりだが俺なりに思った問題点について聞いてもいいか?」


 僕の説明を黙って聞いていたザッハがそう言って疑問点をあげていく。


「まず、馬車1台分の荷物をカード化するのにスキルのレベルはいくつ必要だと思っているんだ?

 それとカード化した荷物を元に戻す時はカード化した本人が居なければ無理ではなかったのか?

 そもそも、カード収納スキルは不遇スキルとして世間に認識されているから対応する人物を確保出来るのか?」


 ザッハは当然の疑問として的確な質問を投げかけてきた。


「わかりました。

 では、ひとつずつお答えします」


 僕はそう言うと紅茶を一口飲んでから話を続けた。


「まず、馬車1台分のカード化には最低でもレベル5相当は必要であると思っています。

 僕を除いて今のところで分かっているカード収納スキル持ちは全員サブスキルですので最大レベルまで上げる必要があります」


「ううむ……。

 サブスキルを最大まで上げるのに本当に1年で間に合うのか?」


 必要レベルが5と聞いてザッハは呆れた表情を見せてため息をつく。


「その辺はお任せください。

 そのための研修施設なのですから……。

 彼女だってエルガーからこの町にくる道中の馬車の中でひとつレベルを上げられました。

 要はどうやって効率的に経験値を稼いでレベルを上げられるかです。

 次に……。

 収納スキルの誤解ですが、カード化したものは世間常識ではカード化した者でしか元に戻せないとされていますが、そんなことはありません。

 多少の条件がありますがスキルレベルが3以上あれば解除することは出来ます。

 とは言ってもこの場には僕以外に3レベルを越えた人が居ませんので今この場ではそれを証明することは出来ません。

 この件についてはアーファさんがレベル3に到達した時に証明をしたいと思います」


「そうか……まあそれが本当ならば試す価値はあるかもしれないな」


「そして最後の質問ですが、認知度が低く使えないスキルと言われていたために自分から言い出す者は少ないと思いますが今回のようにギルドの職員ならばスキル構成は報告義務がありますので見つかる可能性はあると思っています。

 現にエルガーでは仕事の重要性からアーファさん一人が研修を受けることになりましたが実際にはあと2人ほど適性のある人が居ました。

 それはロギナスでも似たようなものではないのですか?

 たまたま僕が初めて説明を受けたナムルさんの他にも数人程度ならばスキル持ちが居るのではないかと思っています」


 僕はそう言うとギルマスの側に座っていた男性に声をかけた。


「そうですよね? ナムルさん」


「あ、ああ。

 確かにこのギルド内には私の他にも数人のカード収納スキル持ちが勤務しているはずです。

 ただ、どの人も『劣等スキル』として認識されているカード収納スキルをわざわざ他人にふれてまわる人は居ませんよ。

 私だってたまたま彼にスキルの事を教えて欲しいと言われた時に近くに居たというだけですから……」


 気が弱いのかただの人見知りか分からないがナムルはこちらの目を見て話すことが出来ずにいた。


「では、ナムルさんは研修を受けたいですか?

 この研修は大体ですが約1年くらいを予定していますので途中で辞められると計画がふりだしに戻ってしまうんです。

 ですので強制的むりやりにとかでしたら他の人に代わってもらった方がいいかもしれません」


 僕がナムルにそう伝えると彼は少しだけ考えてから僕に質問を返してきた。


「……自信がないのです。

 昔からサブスキルとはいえ使えないスキルを授かったと陰口を言われてきたのに急に『重要な仕事だから研修を受けて使えるようになれ』と言われても何だか騙されているような気になるのです。

 研修が終わった時には今の職場に僕の机が無かったなんて事になったら立ち直れないですから……」


 あまりのマイナス思考に僕はどう話せば納得してもらえるかを考えてある提案をする。


「ではお試しで1週間だけ研修を受けてみてください。

 そして自分に出来ると自信がつけばそのまま研修を継続してください。

 もしその1週間で何も得るものがなく、とても自分には向いてないと思われたらどなたか適性のある別の人と交代されても良いです」


 僕の提案に考え込むナムルの横で不服そうな表情のアーファがこちらを見ながら言った。


「私の時は問答無用で連れて来られたような気がしますが……」


「アーファさんの時はマグナムギルドマスターが適性のある皆さんを集めて話し合いて決めてませんでしたか?

 まあ、アーファさん以外の人たちは替えの聞かない職務についていたため必然的にアーファさんに決まったくだりはありますけど、一応アーファさんも納得してロギナスへ来てくれましたよね?」


 なぜかアーファの雲行きが怪しくなってきたので慌ててフォローをいれる僕を見てクスクスと笑いだしたアーファがナムルに対してのフォローをする。


「えっと、ナムルさんでしたね。

 今、言ったように私も急に研修が決まったひとりです。

 正直いってこの計画を聞いても本当に自分に出来るのか疑問ばかりですけどこう考えたらどうですか?

 ――せっかく女神様から授かったスキルを塩漬けにしてるのは勿体ない……と。

 実際に私はエルガーからロギナスに来る途中の馬車の中でスキルレベルをひとつアップさせる事が出来ました。

 うまくいくかどうかはやってみなければ分からないものですよ。

 一生使わないつもりだったスキルが人のためになる仕事に繋がるならば価値のあるものだと思います。

 私と一緒に研修をしてみませんか?」


 もう、どちらが先生かわからないくらいしっかりとナムルに語りかけたアーファはそう言って笑った。

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