第57話【ロギナスの町に到着して】

 その後の道中は特に問題なく進み、僕達の馬車はほぼ当初の予定どおりにロギナスの町へとたどり着き門での手続きを終えてノエルのお店の前に停車した。


「本当にお疲れ様でしたね。

 行きだけでなく帰りも送って頂きありがとうございました」


 馬車から降りたノエルがアルフィードやヤード達銀の剣のメンバー全員にお礼を伝える。


「私は10日以上の間もお店を閉めたままでしたので、明日からのためにすぐにでも開店の準備をしなくてはなりません。

 ですから申し訳ありませんがここで失礼しますね。

 あ、ミナトさんはギルドの用件が終わりましたらお店に来てくださいね。

 お父様からの荷物を大量に預かっている筈ですから……」


 ノエルはそう言うと僕の手を握り「また後で……。一緒に食事をしましょう」と僕にだけ聞こえる大きさで伝えた。


「ええ、喜んで。

 ではギルドに報告をした後で荷物の配達に来るようにしますね」


 僕はそう彼女に伝えると馬車へと乗り込んだ。


「ではこれから斡旋ギルドへと向かいます」


 アルフィードはそう言うと馬車を進ませた。


「――到着しました。

 ギルドへの連絡はギルド便にてすでに届いているはずですので私はここで失礼させて頂きます」


 馬車から降りた僕とアーファにそう言ってお辞儀をひとつしたアルフィードは空になった馬車を走らせて宿へと向かった。


「俺たちはミナトたちはと別にギルドに報告があるから受付までは一緒だな。

 ……まあそんなに心配しなくてもきっとうまくいくさ」


 ヤード率いる銀の剣のメンバーはその場に残っており、ミリーがちょっと不安気にしているアーファの肩に優しく手を添えてギルドへ入るのを後押ししてくれた。


 ――からんからん。


 いつもの音が部屋に響くと中で待機をしていた受付嬢……ではなくギルドマスターのザッハが迎え入れてくれた。


「ようやく来たか……。

 予定だともう少し早くに着くかと思っていたが道中なにかトラブルでもあったか?」


「王都へ向かう時はいろいろとありましたけどロギナスに戻る時は特に問題はなかったと思います。

 ですが、先にノエルさんの雑貨店に寄ったからそのぶんだけ遅くなったかもしれませんね」


「ああ、盗賊の襲撃とレッドボアの件だな?

 王都からの手紙に報告が書いてあった。

 大変だったと思うがよく無事に戻ってきてくれた。

 よし、とりあえず説明も兼ねて報告を聞くことにするので第一応接室へと来てくれ。

 ああ、ヤードたち『銀の剣』のメンバーも一緒に頼む」


「俺たちもですか?

 行きの事件については報告があがってるんですよね?

 俺たちが話すことはたいして無いと思うんですけど……」


 もともと別の用件でギルドに寄っただけだったヤード達はギルマスから同席するようにと言われ少し困惑しながらもうなずいた。


「すまないが先に部屋に行っておいてくれないか?」


 ザッハギルドマスターにそう言われた僕はロギナスギルドは初めてのアーファを連れて指定された部屋へと向かい、ドアをノックしても返事がないのを確認してから部屋へと入った。


「とりあえず座って待つとしようか」


 誰もいない部屋でぼーっと立って待つのも大変だと身近なソファへと腰を降ろしてアーファにそう伝える。


「ヤードさん達と何か打ち合わせでもしてるのかな?」


 僕がそうつぶやいた時、入口のドアから職員とみられる女性が入ってきてペコリと軽くお辞儀をすると給湯室へと向かい準備されていた紅茶のポットとカップを持ってきて淹れてくれた。


「ギルマスはもう少ししましたらまいりますので紅茶をお飲み頂きながらお待ちくださいませ」


  女性はそう言ってソファに座る僕たちの前に紅茶の入ったカップをそっと置いた。


「ありがとうございます」


 僕はそう言って出された紅茶に口をつけながらこれからの事を考える。


(とりあえず研修場所の確保とアーファさんの指導に通常の配達のギルド依頼もこなしていかないと溜まっててサーシャさんが困ってるんじゃないかな?

 あと、ナムルさん……だったか、このギルドに居る収納スキル持ちの職員にも参加の交渉をしないといけないな。

 まずは王都ギルドからの連絡がきちんと届いているかの確認からするかな)


 僕がそう考えをまとめていると入口から数人の男性が入ってきた。


「待たせたな。

 いくつかの確認事項があったので先に済ませてきたんだ」


 先頭にギルドマスターのザッハが入ってきてそう告げる。


「失礼します」


 その後ろから見たことのある男性……ナムルが緊張した面持ちで部屋に入ってきた。


「なあ、結局俺も話し合いに参加しなくちゃいけないのか?」


 その後ろからヤードがブツブツ言いながらついて来ていた。


「まあ、そう言うな。

 メンバー全員だと負担が大きいからとお前だけにしたんだ。

 それにこれは王都斡旋ギルドからの正式な指名依頼なんだから喜ぶべきじゃないのか?」


「まあ、実績と報酬は確かに魅力的ではあるがな……。

 だが1年もここで暮らすんだろ?

 他のメンバーにも相談しないと俺だけの意思じゃ決定は出来ないぞ」


 先ほどの話だけではまとまっていなかったらしくザッハとヤードは部屋に入ってからも意見をぶつけて話が進まない。


「分かった。

 それならば今から1時間ほど猶予をやるからその間にパーティーメンバーと話を纏めてこい。

 一応もう一度伝えておくがこの話は王都斡旋ギルドのマスターからの指名依頼だと忘れるなよ」


「ぐっ……それってほとんど脅迫と同じじゃねぇか」


「まあ、そう言うな。

 だからこその特別報酬なんだからな。

 それだけお前たちのパーティーに期待しているんだろうよ」


 ザッハはそう伝えると「ほら、さっさと行ってこい」とヤードを部屋から追い出した。


「慌ただしくしてすまんな。

 君たちの要望は王都斡旋ギルドからのギルド便で指示書が届いているので一応の把握はしているつもりだ。

 とりあえずこれこらの事を説明して行くとしよう」


 そう言って僕とアーファの座るソファの前にザッハとナムルが腰を降ろした。

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