第56話【アーファのレベルアップ】
「おはようございます。
昨日はすみませんでした」
少し早めに目が覚めた僕はテントを片付けてから見張りをしていたヤードと話していたところに起きてきたアーファがやってきて謝る。
「いえいえ、僕ももう少しきちんと説明しておけば良かったと反省していますよ。
でも、本当に気をつけましょうね。
今回みたいにすぐに対処出来れば良いですけどひとりの時に同じ事をすると気を失っている時に何かに襲われたりする可能性もありますからね」
「はい。
本当にすみませんでした」
僕がアーファに注意を促しているとその後ろからノエルが起きてくる。
「おはようございます。
今日も宜しくお願いしますね」
「あ、ノエルさん。
昨日はすみませんでした」
「アーファさん。
気にしなくても良いですよ。
私たちも美味しい料理をごちそうになったことですし、そんなに気を使わないで行きましょう」
全員が揃ったので僕は手早く食べられる軽食をカードから開放して皆に配り出発の準備を済ませる事にした。
「――では、出発致します。
途中、もう一日ほど野営を挟んでロギナスの町へと到着するようになるかと思います」
全員が出発の準備が終わったのを確認したアルフィードがそう皆に伝えて馬車を出発させた。
「一晩休んだら魔力が回復したと思いますので、また馬車の中では収納スキルの練習をしましょう。
今日は銅貨ではなく、こぶし大の石を使って試してみましょう」
「えっ? 私のスキルレベルはまだ1のままですよ?
とてもじゃないですけどそんな大きな体積物は収納出来ないんじゃないですか?」
アーファの疑問には答えずに僕は「まあ、ものは試しと言うことで」と彼女の手に石を手渡した。
「結構重たいですね……。
よく分からないですけどミナトさんが『出来る』と思うから試させるんですよね?
ならばやってみますけど、もし魔力不足で倒れたらお願いしますね」
アーファはそう言ってスキルを発動させた。
「――
スキルを唱えると彼女の手が数秒だけ光ったがすぐにその光は消えてしまい手のひらの石はカード化されなかった。
「あれ?
やっぱりカード化は出来なかったですね……。
これで良かったんですか?」
手に乗っている石を見つめながらアーファが僕にそう問いかける。
「それで正解ですよ。
アーファさんの言うとおりレベル1のままではまだこの石はカード化出来ません。
レベルが2になれば出来るようになると思います」
「では、この行為にはどんな意味があったのでしょうか?」
「アーファさんもノエルさんも当然知っていると思いますが、僕たちのスキルレベルには経験値なる隠しステータスがあります。
ですが、この数値を確認する手段が無い……もしかするとあるのかもしれませんが、今の時点では方法が分かっていませんよね?
それで、僕が自分のレベルアップをする際にいろいろと試していて分かった事があったんです」
「レベルアップの法則とか……ですか?」
「法則とまでは言えませんがカード収納スキルについてだけはいくつか分かっていて。
①そのレベルで出来るサイズのものを繰り返しカード化することによって経験値が増加する。
②次のレベルで出来るサイズのものをカード化しようとすると全く経験値が足りないと反応すらしないが、レベルアップが近づくと光る時間が長くなる。
つまり、アーファさんのスキルはもう少しで次のレベルに達する可能性が高いと言えるんですよ」
「そうなんですね。
でしたらまた銅貨での練習をした方がいいですよね」
アーファはそう言うとポケットから今まで使っていた銅貨を取り出した。
「――
アーファが銅貨をカード化した瞬間いつもとは違う光を発した。
「あっ!?」
次の瞬間、アーファが目を大きく見開いて何かに意識を集中させた。
「おっ? ちょうどレベルがあがったようですね」
その反応に同様な経験からそう判断した僕は「これは向こうに戻ったらすぐに薬の追加購入をしないといけないな」と呟きながらカード化してある魔力回復薬の準備をした。
「今、カード収納スキルのレベルが上がりました。
収納容量が手のひらに乗るものまでに増加したみたいです」
レベルアップの喜びに目を輝かせながらアーファが僕の手を握ってそう伝えてくる。
「おめでとうございます。
まずは目的達成の第一歩となりましたね。
では……さっそく先ほど出来なかった
僕はそう言ってアーファに先ほどの石を手渡した。
「いきます!
――
アーファがスキルを発動させると先ほど失敗したばかりのカード化が無事に出来ておりその手には一枚のカードが握られていた。
「やった! 成功したわ!」
アーファは喜びのあまり動いている馬車の中であることを忘れて急に立ち上がってしまった。
――ガタン。
馬車が大きく揺れてアーファはバランスを崩してしまう。
「あ、あぶない!」
彼女の目の前に座っていたノエルと斜め前に居た僕がそう叫んで彼女の手を掴んで椅子に座らせようと引っ張った。
「はわーっ!?」
アーファが変な声をあげて目の前に居たノエルに抱きつく形でその体を止める。
「いたたた……」
「大きな音がしたようですが、どうしましたか?」
突然の大きな音にアルフィードが馬車を停めて中にいる僕たちに声をかけてくる。
「あ、ごめんなさい。
ちょっとアーファさんが立ち上がったら転んでしまいましたの。
特に怪我はしてないから心配しなくても大丈夫よ」
「そうでしたか。
走っている馬車は揺れて危険ですので立ち上がらないようにお願いしますね」
アルフィードはそう言ってゆっくりと馬車を走らせて始めた。
「ご、ごめんなさい。
レベルが上がったのが嬉しくて舞い上がってしまったんです」
アーファはノエルから離れてゆっくりと自分の椅子に座り直すとノエルに対して謝った。
「抱きついたのが私で良かったですね。
もし、ミナトさんに抱きついていたら私……」
口元は微笑んでいるが目が全く笑っていないノエルを見てアーファは(絶対にこの人は怒らせたら駄目な人だ)と頭の中で理解していた。
「アーファさん。
レベルが上がって嬉しく思う気持ちは大事にしてむこうでも研修を頑張ってくださいね」
横に座っていた為にノエルの表情には気が付かなかった僕はアーファにそう言ってサムズアップをして笑いかけた。
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