第42話【巨木の処理と霧の滝】
「いいえ。
今のは収納スキルの応用ですので僕自身は魔法は使えませんよ」
「はぁ? なんだそりゃ?
そんな使い方は聞いた事ないぞ?」
当然、ヤードが僕の言葉に食いついたが「お互いの能力についての詮索は勘弁してください」との言葉で渋々ながらヤードが引き下がってくれた。
「まあ、依頼主からの要望ならば深く追求はしないさ。
それよりもこの巨木をどうするかが問題だな」
盗賊達の死体を街道沿いの森に埋めた後、ヤード達が盗賊達が仕掛けた巨木をどう撤去するかを悩んでいた。
巨大な木は道幅いっぱいになる木を切り倒して塞いであるので大人が5〜6人くらいでは動かすことも出来ない代物だった。
「これはエルガーに戻って応援を呼ばないと無理ですかな」
御者のアルフィードが頭を振りながらため息をつく。
「うーん。
少し大きすぎますよね。
せめてこの半分くらいならば……」
僕は巨木を眺めながらなんとかならないかと考えを巡らせる。
「そうだ!
えっと、メトルさん?
確か炎の魔法が使えましたよね?
魔法でこの巨木を半分に折る事はできないですか?」
「魔法で折る?
ま、まあ出来なくはないかもしれないけれど……」
「お願いしても良いですか?」
メトルはリーダーであるヤードに目線を送るとヤードは「何か考えがあるんだろ? 試してみればいいじゃないか」と許可を出す。
「私は一応、水魔法が使えるからもし炎が広がるようならすぐに消すようにするからね」
後ろに控えていたミリーがそう発言するとメトルは「お願いね」と言って魔法を唱え始めた。
「ドーン! ドーン! ドーン!」
3発の魔法が巨木の真ん中あたりに着弾して木の幹を削り取っていく。
炎の魔法と言えども生木に着弾しただけでは少しばかり表面が焦げるだけで燃えそうな雰囲気は無かった。
「これならもう数回やればなんとかなりそうね」
メトルば木が燃えなかった事に安堵して魔法を続けて唱えた。
「ドーン! ドーン! ドーン!」
3連発の魔法を幾度か唱えたところで巨木が2つに別れるくらいに破壊する事ができた。
「ふう。
これでいいのね?」
「はい。
ありがとうございました。
では少しばかり木から離れていてください」
僕の要望どおりに巨木を2つに割ってくれたメトルにお礼を言ってから片方ずつスキルでカード化していった。
「――
僕がスキルを発動させると完全に街道を塞いでいた巨木が片方ずつその場から消えて僕の手元にある2枚のカードへと変わっていった。
「なんと!?」
「マジか!?」
「えっ!?」
「そんなばかな!?」
「嘘でしょ!?」
「まあ、当然ね」
その場にいた者たちのそれぞれの感想は違ったがひとりを除いて皆一様に驚いて声をあげた。
「さあ、これで邪魔な木は無くなりましたので出発しましょう」
あ然とするアルフィードと銀の剣のメンバーに僕はなんでもないかのように笑って言った。
* * *
「――なあ、カード収納ってやつはどのくらいの大きさまでなら収納出来るんだ?」
盗賊の襲撃場所から王都へ向けて馬車を進める過程で護衛のヤードがどうにも興味を抑えきれないようで僕に話しかけてくる。
「詳しくは言えませんが他のスキルと同様にレベルに比例して大きくてたくさんの物をカード化する事が出来るようになりますね。
で、今の僕が出来る大きさがあの木の半分くらいだったということですよ」
僕は言える範囲内でその質問に答える。
「それってだいたい3メートルくらいだろ?
カード収納スキルって何気に使えるんじゃないか?
たしか世間一般の常識としては使いものにならない駄目スキルの烙印を押されていたと思ったんだがな」
頭をボリボリと掻きながらそうボヤくヤードだったが他のメンバー達も同じように感じていたらしく「そうね」と同意していた。
「それよりも、護衛の皆さんは王都を拠点とした活動をしているのですか?
それとも、今回のように護衛を中心とした旅をしているのですか?」
「あん? 俺達のパーティーは日頃は王都の斡旋ギルドから仕事を貰ってその報酬でやってる普通の冒険者パーティーだな。
ただ、ちょっとした縁があってそこのお嬢さんの父親に商品輸送の護衛を頼まれた関係でちょくちょく依頼をして貰ってるんだ。
まあ、いいお得意様ってやつだな」
「先ほどの盗賊達との戦闘を見る限り相当な上位冒険者に見えましたが実際のところ王都での皆さんの実力はどのくらいなんですか?」
「そうだな。
王都でも俺たちより上の冒険者パーティーは数えるほどしかいないんじゃねえか?」
ヤードがそう言って少しばかりドヤ顔になる。
「またアンタが調子にのる!
私たちなんてまだまだやっと中堅の壁を越えたくらいでしょ!」
ミリーがヤードを後ろから小突いて注意をする。
「い、いいじゃねぇか!
上の奴らなんてすぐに追い越してやるんだから!」
それでもなお虚勢を張るヤードにため息をつきながらミリーが訂正する。
「まあ、今言ったとおりなんだけど私たちのパーティーは王都では一応上位パーティー扱いにはなるけど、まだまだ凄い冒険者はたくさんいるの。
実力で言えば上位グループの下位ってところかな」
ミリーは自分たちの実力を過信評価することなく冷静に分析しているようでおそらくその評価は間違いないのだろう。
「ところでお前さんはどうやってノエルお嬢さんと知り合ったんだ?
あまり共通点があるようには見えないが……」
「僕とノエルさんですか?
商品配達の依頼人と配達員の関係です。
ノエルさんのお父様がギルド経由で送られている商品をギルドからお店へ届けていたのが僕だったということです」
「それがなんでこんな関係に?」
「まあ、いろいろありまして……。
詳しい事はちょっと恥ずかしいので勘弁してください」
「そうか、まあそこまで聞くのも野暮かもしれないな。
おっ! そろそろ滝が見えるぞ!
ここを通るならばコイツだけは見ておいて損はねえと思うぜ。
帰ってからの土産ばなしのひとつになるからな」
ヤードは思ったよりもあっさりと引いて話題を滝へと変えていった。
ヤードの言葉に僕は馬車の前方へと視線をおくると街道沿いから『ザー』と大量の水が流れ落ちる音が聞こえてきた。
「あれが霧の滝だ。
今は運が良く霧も大したことないが一旦出始めるとまたたく間に視界がきかなくなるんだ。
俺たちも何度も通った道だがここだけは霧が出ないようにと祈って通る場所なんだよ」
ヤードがそう話してくれていると御者のアルフィードが「この先のポイントで野営をしますので準備を願います」と声をかけてきたので「わかりました」と答えて通り過ぎる見事な滝を眺めておいた。
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