第41話【街道を塞ぐ大きな木】
「――それでは王都へ向けて出発しますので馬車へお乗りください」
エルガーの街で一日の休憩を済ませた僕達は残り3日の王都への旅路を再開することになった。
「エルガーの街は活気に溢れていていい街でしたね。
なんだかんだ言ってもマリアーナさんもノエルさんの事を心配してましたし、一応ですが僕の事も認めてくれましたしね」
馬車に揺られながら僕とノエルはエルガーの街での事について語りあっていた。
エルガーの街から王都へは馬車で3日程度の距離だが頻繁に馬車が通るためか街道の道幅も広く舗装とはいかないがよく整備された道だった。
「あと3日で王都に着くのか……段々と緊張をしてきた気がするよ」
僕がそう言うとノエルは笑いながら「まだまだ当分着かないわよ。今からそんな状態だと王都に着く頃には気絶してるかもしれないわね」と冗談を言って和ませてくれた。
そんな事がありながら馬車は王都へ向けて進み、エルガーの街を出発してから1日目の野営を迎えた。
「どうぞ、今度は受け取ってくれますよね?」
僕はそう言って温かい食事を御者のアルフィードや護衛のみんなに渡していく。
「皆さん、ミナトさんの好意を受け取ってくださいね」
「む、むう。
ノエル様がそうおっしゃるならば、せっかくの好意だ受け取るとしよう」
まだプライドから受け取る事をためらうアルフィードだったがノエルのひと声でしぶしぶながらも礼を言って僕から食事を受け取る。
「おおっ!
野営で食堂と同じ飯が食えるなんてスゲーじゃないか!
ありがたく食べさせてもらうぜ」
護衛のリーダー、ヤードは喜んで僕から食事を受け取ると「うめー」と言いながらどんどん平らげていった。
「ちょっとは遠慮しなさいよ。
温かい食事をありがとうございます。
あと、うちのリーダーがはしたなくてごめんなさいね」
同じく護衛のミリーがヤードに対して注意をしながらやはり僕にお礼を言って食事を受け取ってくれる。
「いえ、護衛の皆さんが居てくれるので僕達は安心して旅をすることが出来ますのでこのくらいの事はなんでもないですよ」
残りのふたりにも食事を渡した僕はそう言って馬車の段に腰掛けてノエルと一緒に夕食を食べながら明日の予定を話すアルフィードの話を聞いていた。
「明日は王都手前の霧の滝付近まで進む予定です。
ここは天候により霧が発生しやすいので獣などの発見が遅れないように願います」
アルフィードは予定を護衛達に伝えると自らは早々に休む準備をした。
その夜もトラブルは無く、不寝番をしていた護衛達の後半を受け持った2人を馬車の荷台に乗せて休ませながら街道を進んで行った。
「おい! 馬車を止めろ!」
エルガーを出発して2日目の夕暮れに差し掛かろうという頃に馬車の前方を見張っていた護衛のグラムが叫んだ。
「どうした? 何が見える?」
すぐにリーダーのヤードが確認の声をあげる。
「デカい木が倒れて街道を塞いでやがるんだ!」
「デカい木だと? 昨夜は風も強く無かったはずだ!」
街道の先を見ると不自然に横たわっている巨木に人らしき影が動いている。
倒れた木を排除しようとしている人達なのかとゆっくりと馬車を進ませるとその人影はこともあろうか剣を持ってこちらを包囲しようとしているのがわかった。
「コイツら盗賊だ!
やっと俺たちの出番がきたぜ!」
ざっと見たところ盗賊団は10人程だがヤードは焦る様子もなく他のメンバーといくつか会話をしてゆっくりとひとりで盗賊達の前に歩いていった。
「お前らどこの盗賊団だ?
見たことのない顔ばかりだから最近他所から流れてきたのか?」
ヤードは情報を集めたかったのと仲間が戦う準備をする時間を稼ぐために声を張り上げて盗賊達に話しかける。
「護衛は4人か?
本当にそれだけで俺達と戦おうってのか?
今なら降参するならお前らだけは見逃してやってもいいぜ。
但し、馬車と荷物は頂いて乗ってる野郎は皆殺しにするがな」
盗賊のリーダーらしき男が下品な笑みを浮かべながらヤードにそう叫ぶ。
「ふう。
盗賊って奴は揃いもそろって馬鹿ばかりなんだな。
相手の力量も見極められなきゃ長生きは出来ないぜ!」
ヤードはそう叫んで固有スキルを使った。
「――瞬歩」
ヤードがそう呟いた瞬間、彼の身体が一瞬ぶれたように見えたと思ったら盗賊団のリーダーの首が落ちていた。
「お、お頭!?」
盗賊団のリーダーの男は何がおこったか理解出来ないままに絶命し、その体が地面に崩れ落ちる。
「
馬車の荷台から弓を取り出したグラムがスキルを使い盗賊団に向けて矢を放つ。
「矢だ! 木の影に隠れろ!」
盗賊達は慌てて木の影に身を隠すが真っすぐに向かってきた矢が突然弧を書いて曲がり盗賊達の身体に突き刺さる。
「うわっ!?
なんだこの矢は!!
逃げても曲がって来やがる!!
くそっ!
こうなったら馬車を狙え!
人質を取るんだ!!」
既に半数近くが殺られた盗賊達は起死回生を狙って馬車を取り囲むように突撃をする。
「やっぱり馬鹿ばかりだな。
メトル後は頼むわ」
盗賊達の行動を見たヤードは巻き込まれるのを回避するためにその場から離脱しながらメトルに指示を飛ばす。
「ひと使いが荒いリーダーだね!
いくよ!
ファイアランス!!」
メトルのスキルにより炎の槍が空中に複数現れ向かってくる盗賊達へと凄まじい勢いで降り注いだ。
「ぐわっ!!」
「ぎゃあ!!」
盗賊達は馬車に近づくことも許されないままに攻撃魔法の餌食となっていく。
「ちくしょう!!
なんでこんな強い護衛がいる馬車を襲っちまったんだ!?
せめて一撃でも食らわせてやる!!」
メトルの魔法の雨から奇跡的に逃れたひとりが僕達に向かって突進してくる。
「いけない!
打ち漏らしたわ!
誰かカバーお願い!!」
メトルが叫ぶのを聞いて3人が動き出そうとした時、僕が準備をしていた切り札を解き放つ。
「――
「ぐわっ!?」
迫りくる男の目の前に突然現れた氷の矢に
「おっと!?」
援護に戻ってきていたヤードの方向に男の体が吹き飛んで来たのを慌てて避けてから彼は冷静にとどめを刺した。
「ヒュー。
なんだお前さん魔法が使えたのか?
メインが収納でサブが水魔法とはまた変な組み合わせだなぁ」
倒した盗賊達の生死を確認しながらヤードが僕に向けて叫んだ。
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