第40話【ノエルの婚約者候補】
「――そうですね。
確かに僕には商売人のスキルはありませんし、実際お店の商品を見てもそれが適正価格なのかぼったくりなのかは判断がつかないです。
ですが、幸運なことに鑑定のスキルは持っていますので商品の詳細情報や
そして、ご質問へのお答えですが品揃えはかなり良くいろいろな分野の雑貨を仕入れているとの印象が強かったです。
気になる商品もいくつかあり、品質の確認をさせて貰いましたがそちらも問題はありませんでした。
これらの事からお店自体の品物はほぼ適正価格で販売されていると結論づけてもそれほど支障はないかと思います。
……そんなところでいいですか?」
僕の回答にマリルはつまらなそうにため息をついて「一応、最低限の知識と能力はあるみたいね」と呟いた。
「だからそう言ったでしょ?
私達みたいに商売人のスキルがなければ品物の相場は分からないのが普通だけど、だからといって無差別にぼったくるお店はすぐに潰れる運命なんだからまともに商売が成立している時点で適性利益を得ているお店だと分かるじゃないの」
今度はノエルがため息をつきながらマリルにそう告げる。
「それはそうなんだけどさぁ」
マリルはそう言って僕の顔をじっくりと見つめて「仕方ないか」と呟いた。
「仕方ない?」
マリルのつぶやきに反応した僕に彼女がどういうことか説明をしてくれる。
「どうせあなたは何も聞かされてないのでしょうけど、ノエルには親の決めた婚約者候補がいるのよ」
「婚約者候補?
そう言えばそんな話を聞いたような気がしますね。
どんな人かは知りませんけど」
「ふーん。
一応話は聞いてたのね、うちもだけどノエルの実家が大手商会を営んでいるのは聞いていると思うけど男の子供はとても優遇されているにもかかわらず女の子供は商売の規模拡大の駒として政略結婚を打診されるの。
そしてノエルの婚約者候補にあがっているのは王都を中心に各地を馬車協会ネットワークで結んでいる運送商会最大手のテンマ運送の22歳の長男であるザガンという男になるわ」
マリルはそう説明すると僕に向かって言い放った。
「少なくとも彼の持っている権力や財力、そして一番重要な女神様に与えられたスキルがノエルの父親に認められなければ二度とノエルの前には顔を出せない事になると思うけれど、あなた……勝算はあるのかしら?」
「権力や財力は到底足もとにも及ばないでしょうが、相手が運送業者ならば負ける気はしませんよ」
レベルが上がった事により僕もそれなりの自信がついており思わずそう叫んでいた。
「言ったわね。
ならばその自信を私に見せてくれるかしら?」
「ちょっと!
なんでそんな話になるのよ!?」
僕とマリルの会話にノエルが横から入ってくる。
「いいじゃないの。
あなたもザガンより彼の方が優秀だと思ってる訳でしょ?
でなければわざわざ父親に会わせたりしないはずよ」
「うー、そうなんだけど。
絶対にミナトさんは渡さないからね」
ノエルは顔を真っ赤にしながら必死になってマリルにそう告げる。
「ふーん。
あなたがそこまで言うなんて驚いたわ。
ますます興味がわいてきちゃった」
マリルがイタズラっぽく微笑むと僕に向きなおり「さあ、見せて頂戴」と僕を急かした。
「ノエルさん。
彼女に見せても良いですか?」
何処までとは言わなかったが僕はノエルに一応の確認をとる。
「ほどほどでお願いするわ」
諦めた表情でノエルがうなずくのを確認した僕は「わかりました」と言って周りに置かれている雑貨を次々にカード化していった。
「――
はじめのうちは「おおっ!?」とあまり見ないカード収納スキルを興味津々で見ていたマリルだったが、目の前にあった雑貨が次々とカード化されとても一人では持ち上がらないほどの大きな雑貨までカード化されたのを見て
「ちょっと、ミナトさん!
その辺で
いつまでも際限なくカード化する僕を慌てた様子で止めたのはノエルだった。
「もういいの?
まだフロアの半分もカード化してないけれど」
僕はそう言いながらパチンパチンとカード化した雑貨達を雑貨の置いてあった棚に並べていく。
そして全てのカードを棚に並べ終えた後、笑顔で開放のワードを唱えた。
「――
僕の合図と共に並べておいたカードが一斉にカード化を解かれて元の雑貨に戻る。
実はレベルが8になった時に出来るようになった事のひとつにこの
ただ、このスキルは便利なようだが以外と使い所の難しいもので範囲内にあるカード化されたものは全て強制的に開放されるので開放したくないカードは範囲外に移動させておかなければならないものだった。
「なっ!?
何がおこったと言うの!?」
マリルは目の前でおこった事が信じられずにそういうのがやっとだった。
「これで良いでしょ?
あまり派手にやると噂が一人歩きするからこのくらいで納得してよね」
既に手遅れな感じもするがノエルはマリルにそう言って僕と一緒に帰ろうとする。
「ちょっと待ちなさいよ!
食事を
すぐに準備をしてくるから!」
あれだけのものを見せられたマリルはすっかり興奮して少しでも僕の情報を得ようとノエルと共に食事に誘った。
* * *
結局、その後はマリルの追及の手が飛んできたがそのほとんどをノエルが撃退する形でそれ以上の情報開示とはならなかった。
「――帰りにも絶対に寄りなさいよ!」
食事を終えた僕達はマリルの最後の言葉に苦笑いをしながら宿へと歩いていた。
「マリルさんって第一印象ではもっと落ち着いた方だと思ってましたが話してみると結構アツイ人だったんですね。
ノエルさんのお父様がやっている商会のライバル商会の娘さんなのにふたりとも仲が良さそうに見えましたし……」
「まあ、そうね。
確かに親同士は商売で競い合っている関係だけど私達は同じ街で競って商売をしている訳じゃないし、もともと彼女とは小さい頃から面識もあったからわりと何でも話せる間柄にはなってると思うわ。
まあ、もちろん商売に関しては手の内は見せられないけれどね」
「でも、良いんですか?
僕が予想していたよりも凄い婚約者候補の人がいるようですけど僕なんかが一緒に行っても……」
そこまで言った僕の口をノエルは人差し指で押さえてキッと僕を
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