第35話【出来る事と王都からの手紙】
ノエルとの約束は一ヶ月だったが早々に最低限の検証を終えた僕は今の段階で出来る事の再確認をする事にした。
「まずカード収納についてはレベルが8、カード化出来るサイズは3メートル四方に入る有形物に魔法などの無形物。
有形物の中には生命体――昆虫や魚はもちろん人間も含まれる。
次に変化を伴うもの――火のついた松明なども触れる事が出来れば問題なくカード化出来て解除すればそのままの状態で使える事が分かっていた。
早くレベルを上げるためには最上位の出来る事を繰り返すのが一番早く成長出来る」
いま分かってることはこんなところだろうか。
これから先、レベルが上がればさらに出来る事は増えていくだろうが、今以上にチート度も上がっていくのは間違いないだろう。
僕はそう考えながらノエルの両親に会うための準備を進める事にしておいた。
* * *
告白の日から数週間が過ぎたある日、ノエルのお店に顔を出すと一通の手紙を見せられた。
【至急本店に顔を出す事】
内容はとてもシンプルで間違いなくノエルの父親からの手紙であった。
「これはどう解釈すれば良い内容だと思いますか?」
「――そうね。
言葉をそのまま解釈すれば、私達の事は認めないし帰ったらすぐに監禁されてお見合いの場に直行ってところかしらね」
「いきなりそこまで話が飛躍するものなんですかね?
ところで今回の件はお父様にどんな内容で話をしたんですか?」
ノエルの言葉に苦笑いをしながら僕は念の為に父親に宛てた手紙の内容を聞いてみた。
「内容ですか?
ありのままに伝えたはずですけど……」
ノエルはそう言うと手紙の写しを持ってきて見せてくれた。
『お父様へ
この度、ノエルは運命の人に出会ってしまいました。
その方はとても聡明で高い能力と優しい心、そして悪しき者に立ち向かう勇気を持ち合わせていました。
ノエルはこの方と婚姻を結びたくお父様に紹介をするべく一度そちらへ彼を連れて挨拶に行こうと思っております。
なお、いきなり連れて行く彼の事を知って貰うためにいくつか情報を書き添えます。
――名前をミナトといい、神から授かりしスキルはカード収納スキルと鑑定スキル。
出身は不明の16歳ですがこちらの斡旋ギルドでは新たな名物となった黄金マースの情報提供元として一目を置かれています。
今回、お店が襲われた時にもその手腕で私を助けてくださいました。
是非お会いして貰いたいので王都までの移動手段の確保をお願いします。
――ノエル』
「……これはなんと言うか僕のスキルについて詳しく書かれていないので普通の感覚ならば『使えないスキルの持ち主』と判断されてもおかしくないですし、そもそも『出身地不明の16歳』ってところでアウトなのではないかと思うんですけど……。
ノエルさんを助けたとかギルドに一目を置かれてるとかが加点要素になっていたとしても王都で大店の主人がその程度の加点では首を縦には振らないと思いますよ」
「で、でもミナトさんの凄さは実際に会ってみれば分かるはずでしょ?
初めの情報とのギャップが大きいほど驚いて認めてくれるんじゃないかと思って……」
「その結果が
確かに僕のスキルについて全て書くわけにはいかないですから仕方ないですけど、これ僕が一緒に行ったらいきなり捕まって牢屋にぶち込まれたりしないですか?」
背中に嫌な汗を感じながらノエルに尋ねる。
「流石にそれはないと思いたいのですが、お父様の事だから万が一があるかもしれません。
――ミナトさん。
こうなってしまったら無理にとは言いませんが一緒に行ってくれますか?」
ノエルはその瞳を潤ませながら手を握りしめて僕の返事を静かに待ってくれる。
「もちろんですよ。
いろいろと障害はあるかと思いますけどまずはノエルさんのお父様にいまの僕を見て貰って納得してもらわなければ何も始まらないですからね。
だいたい前にノエルさんも言ってたじゃないですか、僕のスキルは商売人にとっては神のようなものだと……」
「――そうでしたね。
うん。きっとお父様もわかってくれるわよね。
でも、お父様の準備した馬車に乗って行くわけにはいかないから私達で手配をして行く事にしましょう」
そう言うと僕とノエルは斡旋ギルドへと足を運んだ。
――からんからん。
斡旋ギルドのドア鐘を聞きながら僕達は受付のカウンターへと向かう。
「すみませんが馬車と護衛の手配をお願いしたいのですが……」
ノエルが受付嬢にそう申請をするとふたつ隣の窓口から声がかかった。
「あら?
ノエルさんちょうど良かったわ。
王都のお父様から至急のお手紙が届いていますよ」
(お父様から?
王都へ向かう馬車の手配が済んだから早く帰れとの最速かしら)
「ありがとうございます。
では、内容の確認をしますので一旦離れますね」
ノエルはそう受付嬢にことわると手紙を持ってギルド内にある酒場兼食堂の端の席に座り手紙の内容を確認する。
手紙を読む前のノエルのけわしかった表情がだんだんと緩んでいくのが分かるくらいに、最後はほっとした表情にまでなって手紙を僕に渡してきて読むようにと促した。
「僕が読んでも大丈夫な内容なんですか?」
念のためにノエルに確認するが黙ってうなずく彼女に僕は渡された手紙を読んでみる。
『――ノエルへ
この度送られてきた手紙にあった彼の事を王都斡旋ギルド経由でそちらのギルドに確認したが、お前の証言に間違いはなかった。
聡明なお前の言葉を信じてやれなかったのは悔やまれるが、同時にそんなお前が興味を持つ男の事を見てみたくなった。
正直、神に与えられたスキル構成や年齢の事などとてもではないがお前の相手として認められるものではないが、わたしの商売人としての勘が会ってみろと言ってるようだ。
ついてはこの度の王都へ向かう馬車にて
こちらの調査が真実ならばお前の婚約者候補として受け入れてやろう。
数日後には馬車の手配が出来るだろうからそれまでに準備をしておきなさい。
――父より』
「これって、とりあえず会ってもらえるって事ですよね?」
「そうですね。
一安心したら気が抜けてしまいましたわ」
その後、そのままそこで食事をしている最中にギルドから2日後に馬車と護衛の準備をする依頼を受けたとの連絡があり、僕達は王都への旅の準備を急ぐことになった。
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