第34話【検証の続きと呆れた顔】
「――我が聖の魔力よ、慈しみの光となりて癒やしを与えん。
ヒーリング」
「――
少し残念そうな表情をするミーナには気が付かないふりをしながら僕は先ほどのサーラと同じように魔法の発動タイミングを狙ってスキルを発動させる。
先ほどは光を帯びていたミーナの手からは何も起らずその代わりに僕の手には一枚のカードが握られていた。
【ヒーリングの魔法:傷を癒やす、小回復】
「よし、成功だ。あとはこれを誰かで試してみたいけど……」
僕はそう言ってふと思いついた事をミーナに聞いてみた。
「そう言えばミーナさんの回復魔法って自分にもかける事が出来るんですか?」
「え? そうですね、自分にかける事はできますが効果はほとんどありません。
何故かというとこの魔法……だけでなく魔法全般共通ですけど術者の体調が悪い時には魔力が安定しませんので魔法の発動もまともに出来ません。
私の場合、自分の調子が悪いからと言って自分に魔法をかけようとしても既に魔力が不安定なために正常な回復魔法とはならないんですよ。
だから私の調子が悪い時は他の回復魔法の使い手に頼むしかありません」
ミーナの説明に納得した僕は「やはりそうなんですね」と言ってミーナにもうひとつ提案をした。
「せっかくなんでもうひとつの検証も手伝ってくださいね。
ちょっとこのカードを持っていて貰えますか?」
僕はそう言うと今作ったばかりのヒーリングのカードをミーナに持たせる。
「――
ミーナに持たせたカードが一瞬光るとすぐに落ち着きカードの裏に魔法陣が現れた。
「これは?」
ミーナが不思議そうにカードの裏に描かれている模様を眺めながら質問をする。
「それは条件圧縮と言って本来ならば圧縮を行った術者しか開放出来ないカードを条件付き――特定の人が使える状態にしたものです。
そして、今このカードに封じ込められている『ヒーリングの魔法』はミーナさんの体調が正常な時の魔法ですので、もし自分の体調が悪い時に使えば自分を癒やしてくれるはずです。
しかも、もともと自分の魔力から発動させた魔法ですのでおそらく他人がかけてくれた回復魔法よりも効果は高いと思いますよ」
僕はそうミーナに説明すると「でも、検証ですから使ってみましょう」と言って開放の言葉を伝えた。
「――
僕の教えたとおりにミーナはカードを自分の胸にあててキーワードを唱える。
キーワードに反応したカードが一瞬光ったかと思うとミーナの身体の周りに赤みのかかった淡い光が
「凄い……。
本当に回復魔法がかかってる。
これってとんでもない事じゃないんですか?」
ミーナが驚きを隠せないように興奮して側に居たザッハギルドマスターに質問する。
「――はあ。またやらかしてくれたのか……。
ミーナの言うとおり、コイツはとんでもない可能性を秘めたスキルになるのは間違いないだろう。
魔法を使えない人間が魔法を持ち歩く事が出来るなんて誰が考えるんだ?
もちろん制約もあるがコレは事前に必要な魔法を封じ込められるし、解除するのも専門のスキル持ちでなくても良いから汎用性が凄く高くなるだろう。
まさに『禁断の収納魔法』と言っても過言ではないかもしれん」
ザッハの言葉に僕は「また、大袈裟な表現をしましたね」と苦笑いをする。
「いえ、私も大袈裟ではないと思いますよ。
これがあれば私自身の不調に左右されずに助けられる人が増えるし、私自身を治療すれば回復魔法を使う事が出来るようになるのでそれはそれで多くの人の助けになります」
ミーナはそう言って僕の手を握りしめると「是非とも私が使えるものを作ってください。お金は支払いますから!」と
「良いですけど、僕も何枚か所持しておきたいので魔力に余裕があるうちにカード化をしたいと思ってます。
それに協力してくれるならば出来たカードを数枚差し上げますよ。
もちろん条件圧縮をしたものをね」
「本当ですか!?
そんな事でいいならばいくらでも協力します!
いえ、させてください!」
ミーナは僕の手を握りしめたまま興奮した声で答えた。
「あの、その回復のカードは私でも使えるように出来ますか?」
僕とミーナのあいだで話が進んでいる横でサーラがそっと手を上げて質問をしてくる。
「――出来ますよ」
僕が当然のようにそう答えるとその場にいたメンバー全員が驚きの表情をした後で苦笑いをした。
「どうかしたんですか?」
みんなの表情を見た僕は疑問に思い誰にとは言わないがそう聞いた。
「いや、相変わらず常識のない発言がどんどん飛び出してくるなと思ってな。
もう注意するのも面倒になって来たが、とにかくあまり「人に見せたり使ったり簡単に渡したりするものじゃない」とだけ言わせて貰うぞ」
ザッハは既に諦めたような言い方ではあったが立場上の形だけは保っていた。
「とりあえずはこれで検証とやらは終わりなのか?」
あれからミーナとサーラから魔力に余裕のある範囲で魔法のカード化を協力してもらい数枚はふたりに還元して感謝されていた。
「そうですね。
本当は他の属性魔法でも試して見たかったんですけどおそらく結果は同じだと思うので今日はこれで終わろうと思います。
まだ他にも試したい内容もありますからね」
「ま、まだあるのか!?
いったいこれ以上なにをすると言うのだ?」
「あ、そんなに心配をしなくても大丈夫ですよ。
この部屋は今回のレベル上げをするのに凄く向いているのでまた借りたいと思ってます。
借賃がもう少し安いともっと良いんだけど設備からして仕方ないんでしょうね」
僕がギルマスにそう言うと「今後はレベル上げ等に使用する際にザッハ及びギルド職員(主にサーシャになる)が立ち会うのを認めるならば通常の半額でいいぞ」と提案をしてくれた。
どうやらザッハはギルマスとして僕を野放しにしておく方がまずいと判断した結果だそうだが失礼な話だ。
「――では、今日は検証に付き合ってくれてありがとうございました。
報酬はギルドに預託してありますのでこの完了報告書を提示して受け取ってくださいね。
今後もお互いの時間がある時はまた練習――レベル上げを兼ねて頼みたいと思っています」
僕はふたりにそう言って完了報告書を手渡し再度お礼を言ってからギルドに部屋の使用料を払い宿へと戻った。
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