第33話【無形物のカード化】
「1時間1万リアラなんて……本当にそんな場所を借りて検証をするのですか?
勿体ない気もしますけどどんな事をするんですか?」
「ミナトさんってお金持ちなんですね。
これはもしかするとたまのこ……ゴニョゴニョ」
話を聞いていたふたりからそれぞれの感想がもれる。
「ちょっと特殊な検証だからね。
これをきちんとやっておかないと実践では使いものにならないんだよ」
僕はそう言いながら、これからの検証手順を頭の中でシミュレートしているとサーシャが奥の部屋から急ぎ足で部屋に入ってきた。
「ミナトさん。
部屋の使用許可は出ましたがひとつだけ条件がつけられました」
「条件?」
「はい、検証にギルドの職員を立ち会いさせる事が条件だそうです」
「職員の立ち会いですか。
まあ、特殊な設備みたいですし使い方も聞けるならひとりくらいならいいと思いますよ。
それで誰が立ち会うのですか?」
「それが……本当ならば私が立ち会うつもりだったのですが、許可を取りに行ったザッハギルマスが「自分が立ち会う」と言って引かなかったので彼が立ち会う事になりました。
なんかすみません……」
そう謝るサーシャの後ろのドア付近にはいつの間にかザッハの顔があった。
「ギルドマスター直々ですか……。
別にいいですけど守秘義務はお願いしますね」
「もちろんだ。
ザッハはニカッと笑うとサーシャに手続きを頼んでから僕達に「こっちの部屋だ」と案内をしてくれた。
僕達が部屋に入るとザッハが部屋の壁にある魔道具のスイッチらしきものをパチパチと操作すると部屋の中が明るくなり壁に半透明の膜が貼られているのが分かった。
「一応、理論上では中級の攻撃魔法までは耐えられるとされているが出来れば初級だけにしてもらえると助かるな。
まあ、サーシャに聞いているのは初級の水魔法使いと回復魔法使いらしいからその辺は大丈夫だろうがな。
それでふたりの魔法使いを助手にしてどんな検証をするつもりなんだ?」
ザッハが部屋の説明をすると僕に今日の検証内容の確認をしてくる。
「今回の検証は『無形物はカード化出来るのか?』です」
「はぁ?
そんなもんやる前からわかりきってるじゃないか。
無形物の収納は『出来ない』だろ?
そんな事が出来るなんて何処の資料にも書いてないし、俺自身も聞いたことがないぞ」
僕の言葉をバッサリと切り捨てるザッハに僕は特に反論する事もせずに「まあ、何事も経験ですよ」と言って検証の準備を始めた。
「じゃあ先ずは攻撃魔法から試してみますね。
じゃあサーラさん。あの的に向かって魔法を使ってみてください」
「あの的を狙えばいいのね?
他には特に注意点はあるの?」
「いえ、今回は魔法の発動の瞬間というかタイミングを見たいだけですので普通に使っていいですよ」
僕の言葉にサーラは頷いて魔法の詠唱を始めた。
「我が水の魔力よ、我の槍となり敵を
アイスニードル!」
サーラの魔力に反応して空中から数本の氷の矢が現れて目標に向かって高速で飛んでいく。
カカカッ!!
氷の矢は10メートルほど離れた場所にある的に命中して小気味の良い音を発する。
「どう? 何か分かったかしら」
魔法を撃ち終わったサーラが僕に質問をしてくる。
(攻撃魔法を使う際には呪文を唱えて魔力操作を手に集めてから発動している感じだろうか?
空中に現れた氷の矢を収納しても無駄な気がするから……)
僕はいくつかのパターンを想定しながらサーラに頼む。
「まだ、はっきりとは分からないけど試してみたい事はいくつか出来たよ。
次は魔法を発動させる時に僕の手に重ねて発動させてみて貰えるかな?」
「手を? よく分からないけどやってみるわね」
サーラはそう答えると僕の出した手に自身の手を添えてから呪文を唱え始める。
「我が水の魔力よ、我の槍となり敵を
アイスニードル!」
「――
サーラの魔法が発動する瞬間を狙って僕が収納魔法を重ねる。
「――あれ? 魔法が発動しない」
サーラが不思議に思っている横で僕がニマリの笑みを浮かべながら一枚のカードを眺めていた。
【アイスニードルの魔法:威力小】
「どうやら成功したみたいだね。
後はコイツが正常に使えるかだけど、あの時の応用になるだろうから……こんな感じか?」
僕はそう呟いてカードを的に向かって投げる動作をしながら開放した。
「
カードが僕の手から離れる瞬間にカードだったものが氷の矢に戻って的に向いながら高速飛行を始める。
カッ!!
数本の氷の矢のうち1本ほどが的に当たり、残りはハズレて後ろの魔法障壁に吸収された。
「惜しい! これはコントロールが課題になりそうだな」
カード化が成功した事よりも的を外した事を悔しがる僕の姿にその場にいた3人は固唾を飲んで見守るしか出来なかった。
「すみません、サーラさん。
もう一度魔法をお願い出ますか?」
「は、はい。
ではさっきと同じように手を併せてから……」
サーラは先ほどと同じ要領で魔法を唱える。
「――我が水の魔力よ、我の槍となり敵を
アイスニードル!」
「――
サーラの魔法に併せて僕もスキルを発動させて同じように魔法をカード化させる。
【アイスニードルの魔法:威力小】
「タイミングはバッチリみたいだね。
僕がうまく使えるかは練習次第だけどカード一枚つくるのに毎回術者に魔法を唱えて貰わないといけないのが大変だな。
じゃあ次に回復魔法の検証をしてみようと思うからミーナさんお願い出来るかな?」
「は、はい。
えっと手を握って魔法を使えば良いのですか?」
ミーナは僕の顔を見つめながら両手で僕の手を握りしめて魔法の呪文を唱え始める。
「我が聖の魔力よ、慈しみの光となりて癒やしを与えん。
ヒーリング」
ミーナが魔法を発動させると彼女の手から赤みのかかった淡い光が灯る。
それと同時に僕の身体にも治癒の力が駆け巡り疲れていた身体を癒やしてくれた。
「なるほど、これが回復魔法か……。
実際に受けてみると凄いものだな」
僕は自分の身体の調子が良くなった事に感動しながらミーナにもう一度魔法を使うようにお願いをした。
「素晴らしい魔法ですね。
今度はカード化してみたいのでもう一度お願いします。
あ、それと手はそんなにしっかりと握られなくても併せるだけで十分ですよ」
「あ、そ、そうなんですね。
しっかりと握った方が効果が伝わりやすいのかと思いましたの」
ミーナはそう言いながら頬を赤く染めた。
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