第36話【ギルマスからの呼び出し】

 次の日、王都へ向かう準備をノエルのお店で進めていると斡旋ギルドのマスターからノエルに話が聞きたいとの連絡があった。


「ギルマスからの召喚状だって?

 嫌な予感しかしないけど多分今回の件についてだろうね」


「お父様からの手紙に王都のギルドからこちらのギルドに確認の要請をしたような事が書いてありましたから多分ですがその事についてでしょう」


 ノエルは苦笑いをしながらもギルドに向かう準備を始める。


「特に呼ばれてないけど僕も一緒に行こうか?」


「そうですね。

 そうして貰えると嬉しいです」


「ならば、準備ができ次第向かうとしようか」


 僕達はギルドからの手紙を懐に仕舞うとギルドに向かって歩いて行く。


 ――からんからん。


 ギルドの受付で手紙を見せるとすぐに第一会議室へと通されたのだが、今回呼ばれたのはノエルだったが僕がついてきているのは問題無かったようでふたりとも案内をされる事になった。


「――よく来てくれた。

 まあ、そう緊張せずに座って話を聞いてくれ」


 会議室に入ると既にザッハギルドマスターがソファに座り、テーブルの上には資料が置かれていた。


「コイツは王都の斡旋ギルド本部から届いた調査依頼書だ。

 依頼者はマグラーレ商会になる」


 ザッハが依頼者の名前を告げるとノエルがピクリと肩を震わせて深いため息をつく。


「知り合いなの?」


 僕の言葉に答えたのはノエルではなくザッハだった。


「マグラーレ商会の主はノエルの父親だ。

 彼の商会は王都でも3大商会の一角として王都のギルドにも多大な影響を持つ店だ。

 今回、その商会主から直々の依頼で王都からある人物の調査依頼があったのだが……まあ、言わなくてもわかるだろうがミナトの事だ。

 ノエルが気に入った男が身元不明のまだ成人したての16歳となれば、まず認められるものではないだろうし悪い男に騙されているならば裏から手を回して何処か遠くに行ってもらうなんて事もありうるからな」


「それ、本気で言ってます?」


 僕はあまりの内容にザッハに訪ねると渋い顔をしながらザッハは「本気の話だ」と言い切った。


「まあ、こちらとしてもミナトがうちのギルドにどれだけ貢献してくれているかは最大限アピールしておいたから最悪の事態は回避出来ていると思うが当然ながらミナトの能力スキルについては極秘情報が多々あるのでほとんど説明はしていないから安心しろ。

 向こうに行ったらおそらく出来る事を洗いざらい言わされるかもしれんが何を話して何を秘密にするかはよく考えておく事だな。

 あまりやりすぎると貴族や下手したら王族まで出張ってきて見動きが取れなくなる可能性もあるからな」


 ザッハはそう言って準備されていた紅茶を飲んでひと息ついた。


「今日はその事で呼ばれたのですか?」


 横で話を聞いていたノエルかザッハに尋ねると「それが用件のひとつだ」と言って別の書類を取り出した。


「コイツはどちらかといえばミナトに頼む内容なんだが一応ノエル宛になっているのでふたりに説明しておくぞ。

 なあに、単純な事だが金色マースの話が王都ギルドでも噂になっているのでノエルが王都へ向かう馬車て少々多めに運んで欲しいとの依頼が来ているだけだ。

 向こうはミナトのスキルレベルを知らないから普通に鮮度保持箱につめて運ぶようになっているがいくら馬車でも荷馬車では無いので10箱も積めば良い方だろう。

 そこでミナトが30箱分の金色マースを運んで行けばカード収納が有用である事のアピールになるのではないかと思うがどうだろうか?」


「そうですね。

 それだけならば『多くの荷物をカード化して運べる』と『時間劣化がないので品質管理が優秀』くらいしか開示しなくても良いかもしれないですね。

 もちろんそれだけでも十分価値があるスキルとして見てもらえるでしょうし、僕としても王都に行くよりこの町の方が気が楽ですしね」


 僕の言葉にザッハは上機嫌で僕の背中をバンバンと叩きながら「そうだろ? そうだろ?」と繰り返した。


「まあ、そんなところだ。

 どちらにしても一度王都に行かなくちゃならんのは変わらないがしっかりと準備と対策をしていくのと何もしないで行くのでは天と地ほど違うはずだ。

 運んでもらう金色マースの準備は当日までには済ませておくから宜しく頼むぞ」


 ザッハはそう僕達に言うと「もう帰ってもいいぞ」と言ってから執務室へと向かって行った。


  *   *   *


 それから2日後、僕達は斡旋ギルドの前の広場に準備された馬車の前で打合せをしていた。


「マグラーレ様より馬車の運行依頼を受けました御者のアルフィードです、気軽にアルフとお呼びください。   

 こちらに控えてますのが旅の護衛を担当するパーティーで銀の剣になります」


「冒険者パーティー銀の剣のリーダー、ヤードだ。

 後ろにいるのメンバーのメトル、ミリー、グラムの3人だ。

 宜しく頼む」


 リーダーのヤードが代表してノエルに挨拶をする。


「銀の剣の皆様、宜しくお願いしますね」


 ノエルが笑顔でそう告げると銀の剣のメンバーは揃って「宜しく」と頭をさげた。


「今回の旅のスケジュールをお伝えします。

 目的地は王都斡旋ギルド前、ロギナスからは馬車で順調にいって5日の距離、途中エルガーの街まで2日になりますので1日目は野営、2日目はエルガーに宿泊してそのまま1日ほど滞在をする予定です。

 その後はもう2日ほど野営を挟んで3日目に王都へ到着するようになるでしょう。

 野営時はおふたりは馬車にて就寝、護衛メンバーが交代で不寝番を行います。

 食事に関してはエルガーの街での宿泊以外は簡易的な食事となる事を了承ください。

 何か質問はありますか?」


 アルフィードの説明に僕がひとつ提案をする。


「あの、食事についてですが僕のスキルで運ぶ事を提案しても良いですか?」


「あなたのスキルで?

 失礼ですがどのようなものですか?」


「カード収納スキルですよ。

 これならばわざわざ携帯食を食べなくてもそれなりの食事が準備出来ますから」


 僕の言葉にアルフィードは眉を潜めて「カード収納と言っても大した容量も無いのではないですか?」と一般的な感想を漏らす。


「ああ、レベルが低いうちはそうですね。

 ですが、僕のレベルならば皆さんの食事程度ならば問題なく運べると思いますよ」


 僕がそう説明してもアルフィードは納得せずに怪訝な表情を崩さない。


(やれやれ、どうも世間のカード収納スキルに対する偏見は根深いみたいだな)


「――わかりました。

 どうも、カード収納に対しての信用がないようですから当初のとおりにして頂いて結構です。

 ただ、僕とノエルさんの食事は僕が運ぶ事は認めて頂きたい」


 僕がそう告げるとアルフィードはノエルを見て彼女が頷くのを確認すると「わかりました」とだけ告げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る