第27話【ノエルとサーシャの恋愛談議②】

「――あまり大きな声では話せないですけど今回のこの金色こんじきマースの真の貢献者は彼なんですよ」


 サーシャは金色こんじきマースの唐揚げをつつきながら声のボリュームをさげて小声で話しだした。


「――彼がある日ふらっとギルドに来て魚を捕まえたいから護衛を紹介して欲しいと言われて面識のあった人を紹介して湖に行ったら次の日にはもう金色こんじきマースの出来上がりですよ。

 本当に意味がわかりませんよ。

 まあ、でもそのおかげでたくさん居るのは知っていても誰も食べなかったマースが一夜にしてロギナスの名物にまでなったのですから彼の貢献度はギルドではうなぎ登りですよ」


 サーシャがこう言えばノエルもまたミナトについて語る。


「先日の騒ぎの時も私は恐怖のあまり何が起きているのかさえ分からない間に彼が3人を捕まえていました。

 あの時の彼は凄く勇ましく、とても成人したての男性とは思えなかったです。

 助けて貰った後、緊張がとけた後は思わず抱きついてしまって震える私の頭を優しく撫でてくれました。

 あれで本当に16歳なのでしょうか?

 私にはどうしても彼が年下には思えないんですよね」


 そう話すノエルのほおが赤くなっているのは恥ずかしいからなのか酔っているのか……。


「でもギルド登録の時には16歳となってましたので歳を偽っているようにはないですけど……」


 サーシャも首を傾げながらそう話す。


「あ、そう言えば前に彼と話していた時に自分が10歳上の26歳だったらどう思うかと質問された事がありました。

 その時は『距離を置いたかもしれないですね』と何でもなかったように流してしまいましたけど実は本当に26歳だったりしませんかね?」


 ノエルは前にミナトと話した事を思い出してそう仮説をしてみる。


「あの見た目で……ですか?

 あれで26歳だとしたら年齢詐称の完全に見た目詐欺になりますよね」


 そこまでたどり着いたノエルにサーシャは笑いながら結論を出した。


「ふふっ。なんだか私達ってありもしない事を真剣に議論してないですか?

 そもそも、さっきも言いましたけどギルドに登録する時は魔道具を使って登録するのですから年齢の詐称は出来ませんよ。

 そんな事を考えていて次にミナトさんに会った時に変な雰囲気になるのは嫌ですからね。

 この話はここまでにしておきませんか?」


「そ、そうですね。

 そんな事ある訳ないですもんね。

 私ったら何を言ってたのかしら……」


 ノエルは赤くなった顔をさらに染めていく。


「あ、そう言えば前にミナトさんと話していた時の事なんですけど、ちょっと彼の恋愛話になって聞いたんですけど……彼、なんだそうでしかもこの町に住んでるみたいなんですよ。

 今回の騒動の日もその恋愛相談をするために食事を一緒にと誘われていたんです」


 その言葉を聞いたサーシャの頭の上には?マークが見えるかのように呆気にとられた顔をしていた。


「え? それって……単なるデートの約束なんじゃないですか?」


「いえいえ、デートでは無くて彼の恋愛相談をするのにちょうどいい知り合いが私だったというだけで私達に恋愛感情はないですよ」


 天然なのか、ただの鈍感女なのかノエルは悪びれもせずにそうサーシャに応える。


(うわぁこの人、自分の事だって全く気がついてないのね。

 ミナトさんの伝え方が悪いのか彼女の方に全くその気が無いのか分からないけど、ミナトさんが不憫ふびんだわ。

 なんだかちょっとイラッときたからカマをかけてみようかしらね)


 サーシャはミナトが気になっているのはノエルだと知っていたので無理矢理アプローチはしないようにしていたが当の本人はまだその気持ちにさえ気がついていない様子で少し嫉妬しっとしたサーシャは意地悪な質問をノエルにぶつけてみた。


「ねえ、ノエルさん。

 あなたミナトさんの事はどう思ってるのかしら?

 主に恋愛対象として……」


「えっ? 私がですか?

 そんな、ミナトさんは大切なお仕事のパートナーの関係で話しやすい弟のような存在ですので……。

 確かに今回、強盗達から助けて貰った時にはドキッとしましたがあれはつり橋効果のようなもので決して恋愛感情なんかではない……」


 ノエルはそこまで言っておきながら次の言葉が出ない。


 今までのミナトの言動が頭の中で何度も駆け巡る。


「わた、わた、わたし……あれ? なんで私泣いているの?」


 そこにいるのは自分の感情を理解出来ていない小さな少女の顔をしたノエルであった。


「ふうっ。

 あなたはただ日々の忙しさにかまけて彼の気持ちに気がつかなかっただけよ」


「でも、でもミナトさんが私なんかにそんな感情を持つとは思ってもみなかったから……」


 サーシャは戸惑いながらも気持ちを整理しようとするノエルを気づかいながらも一番聞きたかった事を聞いてみた。


「それで?

 あなたは彼の事が好きなの?」


「……正直わからないです。

 もちろん彼の事は嫌いじゃないですし、お仕事に関しては尊敬もしています。

 今回の件でも凄く感謝していますけど気持ちに整理が追いついていないのが本音かと思います」


 ノエルは今の素直な気持ちをサーシャに伝える。


「まあ、そうでしょうね。

 というかそうでなければただの性悪女になるものね。

 彼の気持ちを知っていながらとぼけてかわす。

 本当に気が無くて鬱陶うっとうしいならばきっぱりと断ればいいだけだしね」


「……今の私ってそんな風にみえるのですか?」


「ああ、ごめんね。

 あなたがそうとかじゃなくて一般論としてそういった事をする人がいると言っただけなのよ」


 少し言い過ぎたかとサーシャが慌ててフォローをいれる。


「それに、彼があなたの事を好きなのは間違いないわ。

 だって前に私が聞いたから」


 サーシャはそう言ってから内心(しまった、余計な事を言ってしまった)と口を押さえた。


「えっ? それ本当ですか?」


 ノエルから聞き返されたサーシャは気まずいと思いながらも「ええ」とうなずいた。


「もう隠しても仕方ないから言うけど、私もミナトさんの事が気になってたのよ。

 それで一緒に食事に行った時に話の流れで彼からそれを聞いたの。

 それだけ……」


 サーシャの表情を見たノエルにはだけではない事はすぐに分かったがそれに対しては何も言えなかった。


「――いろいろと教えてくれてありがとうございます。

 まずは自分の気持ちに整理をつけてから向き合おうと思います」


 ノエルはそう言うとサーシャにお礼を言いながら頭を下げた。

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