第26話【ノエルとサーシャの恋愛談議①】
ノエル雑貨店の強盗騒ぎから数日間は店内の修理と奪われた金貨の返還手続きでノエルはギルドとお店の往復を繰り返していた。
「何度もすみません。
この書類の提出で最後になると思いますので宜しくお願いしますね」
サーシャはギルドに提出する書類の束をめくりながらひとつずつチェックをしていく。
「いえいえ、こちらこそ最大限の補助金を頂く事になるそうで本当に申し訳なく思ってます」
ノエルはそう恐縮しながら出された書類を記入していった。
「ありがとうございます。
おそらくこれで大丈夫だと思います。お疲れ様でした。
――そうだ、ノエルさん。
今日これから少しお時間は良いでしょうか?
よければ一緒に食事でもいかがですか?」
サーシャは記入の終わった書類をまとめて保管しながらノエルにそう提案する。
「私とですか?
そういえばこの町に来てからそれなりに経ちますがサーシャさんと食事に行った事は無かったですね。
いつも忙しそうにされてましたし、私も自分のお店をもってからはギルドへの配達依頼に来る程度になってましたからね。
良いですよ、今日は他に予定はありませんから」
「ありがとうございます。
では30分後にギルドの前にお願いしますね」
「はい。いいですよ」
こうしてノエルとサーシャは食事会と言う名の女子会をする事になった。
* * *
――リンリン。
ドア鐘の音が店内に響くと店員がすぐにご用聞きに寄ってきた。
「くつろぎ空間『酔いだくれ』にようこそ。
おふたりさまでしょうか?」
「ええ、個室は空いてるかしら?」
サーシャの行きつけ居酒屋の酔いだくれの店員はパラパラと手帳を見て個室の予約が入ってない事を確認すると「空いてますよ。どうぞ」とふたりを案内してくれた。
「――初めて来たんですけどお店の雰囲気はいいところですね。
うちのあの商品を置いてくれそうな感じね。
今度、お店のオーナーに掛け合ってみようかしら……」
ノエルはお店の入口から個室までの通路や広間、お客の層にチェックをいれて率直な感想を漏らす。
「……ああ、ごめんなさい。
私ったらすぐに商売の頭になってしまうの。
今日はゆっくりと食事を楽しもうと決めてたのにね」
ノエルはそう言ってサーシャに謝る。
「――失礼します。
先にお飲み物の注文をお願いします」
絶妙のタイミングで店員が注文を取りに部屋に入ってきた。
「えっと、私はエールをノエルさんはアルコールは大丈夫?」
「あまりキツイのでなければ大丈夫ですので私にもエールをお願いします」
「――ではエールを2杯ですね。
お食事の注文はお飲み物をお運びした時にでも伺いますのでゆっくりとお選びください」
店員はそう告げると部屋から出て行った。
「食事は何にしますか?」
「私はこのお店は初めてなのでサーシャさんにお任せします。
オススメの美味しいものをお願いしますね」
「分かりました。ではこちらで注文を決めさせて貰いますね」
サーシャがそう言った時、個室のドアがノックされて店員がエールを持って来てくれた。
「エールをお持ちしました。
料理の方はお決まりになりましたか?」
「ええ、それじゃあ香草サラダに角ウサギのムニエル、あと
「承りました。暫くお待ちくださいませ」
店員はそう言うと丁寧にお辞儀をしてから厨房へ注文を届けに向った。
「マースの唐揚げってあのマースですよね?
泥臭くて誰も食べなかった事で逆に有名になった魚ですよね?
もしかして唐揚げにしたら美味しかったのですか?」
「あのマースではあるのですがあのマースではないとも言えますね。
今頼んだのは『
つい最近ギルド経由での出荷販売が始まった特別なマースの事です」
「ああ! そう言えば町の人達が話していたのを聞いた記憶があります。
私はあまりお店から出ないのでその辺りの事には少々疎いので今まで見た事はありませんでした。
それで……本当に美味しいのですか?」
ノエルは半信半疑でサーシャに聞くが、仮にもお店で提供されるものであるからには大丈夫なのだろうとは考えていた。
「それは食べてからのお楽しみで……」
サーシャはそう言うと自信有りげに笑った。
その後、ノエル雑貨店の修理についてや営業の再開について話していると店員が料理をトレイ一杯に乗せて運んできた。
「お待たせしました。
香草サラダに角ウサギのムニエル、あと
店員の女性はそう言いながら手慣れた様子で料理をテーブルに並べていった。
「ご注文は以上ですね?
追加の注文があればその都度お知らせくださいませ。
では、ごゆっくり」
店員の女性はそう言うと丁寧にお辞儀をして個室から出ていった。
「どうぞ、温かいうちに食べた方がより美味しいですよ」
並べられた料理をノエルにすすめながらサーシャも料理に手をつける。
「うん。前にも食べたけどやっぱり美味しいわね。
本来のマースは淡白だからこの唐揚げのスパイスがアクセントになっていい味を出してるのでしょうね」
サーシャはそう言いながらぱくぱくと料理を口へと運ぶ。
ノエルもサーシャが美味しそうに食べるのを見て同じくマースの唐揚げから手をつけた。
「本当! 美味しいわ!」
「でしょう?」
そうして濃いめの味付けをしたマースの唐揚げを食べれば当然お酒もすすみテーブルに既に6個の空いたグラスが並べられており、いつの間にか話はミナトの話になっていた。
「彼――ミナトさんって不思議な人ですよね。
人から使えないスキルだと
まだ16歳で成人したばかりなのにあの成熟した精神は何処からくるのかしらね?」
日頃からあまり呑まないお酒を片手にサーシャがノエルにそう話をするとノエルもそれに同意をしながら自分の経験した事を話し出す。
「そうですよね。
いつも王都から送られてくる大量の荷物を安い配達賃金なのに笑顔で配達してくれるのは彼しかいませんし、私がいくらほめても
あの歳であれだけの仕事が出来ればちょっと調子にのってやんちゃをする人ばかりを王都では見てましたから、素直ないい子だなと思ってましたよ」
お酒の入ったふたりの口は軽くなりだして話はどんどん進むが結局のところ全てミナトの話になっていた。
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