第25話【時の止まった牢獄】

「そこで止まれ!!

 いいか、そこから動くんじゃねぇ!

 動いたらコイツの可愛い顔が見れなくなるぜ!」


 男はそう言ってナイフをノエルの顔に当てて僕を牽制する。


「なんだ、お前は丸腰の僕がそんなに怖いのか?

 か弱い女性を人質に取らないと僕のようなガキにも勝てないヘタレ野郎なのか?」


 その時、僕は賭けに出ていた。


(強盗を煽れば取る行動はふたつ、逆上して人質を傷つけるか若しくは僕に向かってくるかだ。

 そして、今僕は両手に何も持っていない状態で男は大ぶりのナイフを持っているし、さっきのテーブルのくだりは奥でノエルを見ていたコイツは何が起こったのか分かっていない。

 ならば後でどうにでもなるノエルを傷つけるよりも目の前の脅威を排除しようとする可能性が高いはずだ)


 そう結論づけた僕は丸腰をアピールするかのように両手を拡げて『かかってこい!』とさらに煽った。


「なんだテメェ! 格闘技でもやってやがるのか!?

 馬鹿が!! 格闘技は組まれなければ怖くねぇぜ!

 テメェは死んどけや!!」


 男はそう叫ぶとノエルを払い除けてナイフを僕に向けて突き出した。


「ミナトさん!!」


 男の手を離れたノエルが叫ぶ。


「――開放オープン


 僕は隠し持っていたカードをナイフの前で開放する。


 ――ゴスッ。


 男のナイフは突然何処からともなく現れた箱――マース用に作られた鮮度保持箱に突き刺さり止まった。


「なっ!?」


「悪いけど実験台になって貰うよ。

 ――カード収納ストレージ


 次の瞬間、男は何が起こったか分からないままに光に包まれてその場から消え僕の手には一枚のカードが握られていた。


【罪を犯した男:生きている】


「どうやらうまくいったようだな。

 さっさと残りのふたりもカード化しておかないと……」


 僕はそう呟いてすぐに後ろで気絶しているふたりもカード化していった。


「これでもう手出しは出来ないだろう……」


 僕がそう言って振り向いた瞬間、何かが僕に抱きついて来てそのまま床に押し倒された。


「うわあああん!

 ミナトさん! ミナトさん!

 無事で良かったぁ!」


 その声でどんな状況か理解した僕はそっとノエルを抱きしめて頭を撫でた。


「もう大丈夫ですよ。

 悪人どもは全て捕まえましたから」


 大粒の涙をぼろぼろと流しながら僕にすがりつくノエルをなだめながら落ち着くまで優しく抱きしめていた。


「――本当にありがとう。

 ミナトさんが来てくれなかったら今頃私は生きていなかったと思います。

 あの男は私を辱めた後で店に火をつけると言ってましたから……」


 ようやく落ち着いたノエルはビリビリに切り裂かれた服を着替えて僕にお礼を言った。


「いいえ、ノエルさんには怖い思いをさせてすみませんでした。

 あなたが人質に取られている状態で男を刺激したのは正直、正しかったのか分かりません。

 一歩間違えばあのナイフがあなたに向かっていたかもしれないのですから……」


 僕はそう言ってノエルに頭を下げる。


「でも、そのおかげで私は助かったのですからきっと間違いではなかったのだと思います」


「そう言って貰えると僕も救われます」


「ミナトさん……わたし……」


 ノエルが何かを言おうとした時、店のドアが開いて誰かが入って来た。


「すまない。

 不審な男達がこちらに向ったとの情報を掴んだ矢先にこちらの店から大きな音がしたと通報があったのだが……」


 そう話をするのは門兵を連れたザッハだった。


「ギルドマスター!」


 そう叫ぶ僕の方を見てから店の惨状を確認したザッハはこちらを向き直り「何があった?」と真剣な表情で僕に聞いた。


「――なるほど。その話、信用しよう」


 僕の説明にノエルが補足してザッハに説明をすると、あっさりと信じてくれた。


「まあ、証拠がそこにあるからな。

 コイツらの余罪はギルドの治安部門の奴らに全て吐かせることにするから牢屋まで連れて行ってくれるか?」


 ザッハは僕がカード化した強盗達を冷ややかな目で見ながら僕に協力を求めた。


「ああ、この店には迷惑をかけたので店の修理費はギルドで持たせてもらうから修理が終わったら請求をしてくれ。

 今回はすまなかった」


 ザッハはそう言うとノエルに頭を下げて謝罪した。


「そんな! ギルドマスターが謝る必要なんて……」


「我々ギルドの職員は町の全ての人々に対して責任があるのだ。

 門兵と連携して危険な者達を町に入れないのもそのひとつなんだよ。

 町の住民が我々を信用してくれるからその信用に応えるのがギルドの使命なのだ」


 ザッハはそう言うとニカッと笑って僕を連れてギルドの治安部隊のある建物へと向った。


「――しかし、凄えな。

 まさか人までカード化して捕まえる事が出来るなんて思いもしなかったぞ。

 いつから出来るようになったんだ?」


 ザッハが歩きながら僕にそう問いかける。


「最近ですよ。それこそマースを捕まえに行った頃ですね。

 でも、正直言って本当に人間をカード化出来るとは思ってませんでした。

 だけどあの時はそんな疑問なんか全て吹き飛んでしまっていて確信を持ってスキルを使ってました」


 僕の答えにザッハはため息をついて「今回の件はギルドの秘密履行に値すると判断して箝口令かんこうれいを伝達しておく。だからあまりポンポンと人前では使うんじゃないぞ」と言うに留めてくれた。


「ありがとうございます」


 僕がザッハにお礼を言ったところで一軒の建物の前についた。


「――ここだ。

 普通ならば関係者以外は入れないのだが今回は君が居ないと成立しない案件なので特別に許可を出すことにするが中で見た事は口外しないようにな」


 ザッハはそう言うと僕を連れて建物の中を奥へと進んで行く。


「――ここだ。この牢屋にひとりずつ入れてくれ」


 そこにはひとり用の牢屋がいくつも並んでおり屈強そうな職員が監視をしていた。


「良いですけど、まだ武器を隠し持ってるかもしれませんので気をつけてくださいね」


 僕はそう言うとカードを持った手を牢屋に突っ込んでから男達のカードを開放していった。


「こ、ここはどこだ?

 ……うっ!?」


 気絶していたふたりは開放しても気絶したままだったのですぐに職員が身体検査をして武器を取り上げたがひとりは意識があったためザッハがパンチ一発で男の意識を刈り取った。


(凄い……ギルドマスターめちゃくちゃ強いんじゃないのか?)


「こんなもんでいいだろう。

 後は奴らに任せておけば大丈夫だ。

 きっちりと余罪から背後関係まで吐かせてそれに見合った場所に送ってくれるからな」


「見合った場所?」


「ああ、罪状が軽ければ生涯鉱山で強制労働。

 重ければ……分かるだろ?」


 ザッハの意味深な言葉に僕は「ああ、し」と言いかけて言葉を飲み込んだ。

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